第6話 3人で調理実習です②

水で傷を洗い流し簡単に止血を施す。

幸い怪我は大したことはなさそうだった。


「刹那くん、ありがとぅ……」


「いや、僕の方こそ変なことしてごめん……」


 二人はまだ顔を赤くしながら歯切れの悪い会話を繰り広げていた。

この空気に耐えられずたまらず二人に声をかける。


「矢田ちゃん、刹那くん、そろそろ始めようか?」


 その一言で二人とも背中を叩かれたかのように身体をビクリと震わせて、各々の作業に取り掛かり始める。

このまま何事もなく終わるかと思ったのだが……


「矢田さん!? ちょっと待って、待って!」


 刹那秀登が急に声を上げる。

声を掛けられた当人のほうに目を向ける。

 

 そこには上段の構えで包丁を構える矢田玲子がいた。

何故止められたかわからないのか不思議そうな顔をしながら彼の顔を見ている。

その様子を見て私は思い出した。

矢田ちゃんは料理が下手だということを。

大慌てでサポートに向かおうとするが刹那秀登がまたもや一歩速く動く。


「矢田さん、ちょっといいかな?」


「ぬひょぅわ!!」


 刹那秀登が矢田玲子の後ろに立ち、両腕に手を添える。

およそ、乙女らしかぬ奇声が出ていた気がするが、それをかき消す光景が目の前に広がる。


「左手は猫の手にして、包丁は振り上げないようにして……」


 懇切丁寧に、文字通り手取り足取り教えている。

彼ぐらいの年頃ならば、女の子と引っ付くのは恥ずかしがりそうなものだが、その様な素振りを全く見せないでいた。

まるで自分の子供に料理を教えているかのような雰囲気だった。

そして、教えられている本人は……


「(せ、背中! 手、手、手!! すごい密着しているんですけど!? え? え? なにこれ? あ~~~~~~~…… うれしい気持ちと恥ずかしさが合わさってもう訳が分かんないんですけど!! とりあえず、匂いでも嗅いで……)」


 ……うん。

母のような慈愛に満ちた笑顔の下でここまで下卑た笑顔が並んでいると、言葉も出ない。

同じ笑顔なのにあまりの違い用に呆気にとられるが、すぐに正気に戻る。


「矢田ちゃん、顔、顔! 女の子がしちゃマズイ顔してるって」


 彼女にしか聞こえない声で語り掛けるとハッとした顔をしたのち、いつも通りの顔になる。

どうやら、変な顔をしているのは気づかれなかったようだ。

その後、無事料理を作り終え、料理を食べ始めるの。

料理はレシピ通りにできており可も不可もなくといった感じだった。

料理を食べていると刹那秀登が口を開く。


「矢田さん口元についてるよ」


 そう言いながら口をティッシュで拭う。

拭われた本人は顔が赤くなり、慌ただしくしている。

その二人を見て私は、


「(付き合っているというより、なんかどっちかというと親子みたいだな)」


 こうして、調理実習は無事終わったのであった。

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