第2話 告白 ー 矢田玲子 編 ー

 私、矢田やだ 玲子れいこは、昔から独占欲が強い人間だった。

幼いころからわがままを言い、周りの大人を困らせてしまった。

歳を重ねるごとに、周りを気にして感情をあまり表に出さなくなった。

そのせいだろうか?


 周りの女子と雰囲気が違うとか、見た目が可愛いとか何かにつけて男子に告白されるようになった。

その一人一人が他の女子にも色目を使っているのを見たことがあったり、そもそも私の容姿しか見ていといった感じだった。

正直うんざりしていた。


 私だけを見てくれるわけでもないのに『好きだ』と言われても不愉快でしかない。

私が自分をさらけ出して、それを受け入れてくれそうには到底思えなかった。


 そんなある日、手紙が靴箱に入っていた。

丁寧な文字で『放課後、校舎裏に来てほしい』といった内容だった。

げんなりしながら、校舎裏に向かうと一人の男性がそこに立っていた。


 彼は同じクラスの人で、少し話しただけの関係だった。

確か名前は……刹那秀登だっただろうか?

私は彼の目の前に立ち、要件を問う。

まぁ、十中八九告白でもするのだろうが。


 彼はあたふたと慌てていてなかなか言葉を出せない様子だった。

早く終わってほしいと思いつつも待つと不意に彼と目が合う。

そうすると彼はやっと言葉を口にした。


「好きです。僕と付き合ってください」


 ただ一言、まるでこぼれ落とすようにポロリと言った。

そのまま彼は私をじっと見つめていた。

彼の瞳を見つめていると吸い込まれそうになるような感覚に陥る。


 ……すこし驚かしてやろう。

私の本心を語ってやれば、この人も離れていくだろう。


「えぇ、付き合いましょう」


 ほとんど自棄になりなら、そう言い放つ。

たったその一言で、彼の瞳がキラキラと輝き喜んでいるのがわかる。

そうして懐からカッターを取り出し、自分の思いを口にする。


「でも、私すごく嫉妬する性格なの」


「へーそうなんだ!」


「そうなの、だから浮気したら私……あなたのこと許せないかも」


 そう言いながらカッターの刃を露出させる。

久しぶりに自分の思いを口にした気がする。

どうせ、彼も私から離れていくんだろうと考えていると……


「もちろんもちろん! 矢田さんしか目に入らないからそんな心配しなくてもいいよ!」


「えぇ!?」


 彼は私から離れるどころかズカズカと近づいてくる。

想像と180度違う現実についていけず、思わず驚きの声を上げる。

彼は私のことが見えていないのではないだろうか?

そう思い彼を改めて見つめるとこちらをじっと見つめていた。

先ほどとは違い、こちらがあたふたと慌てているとこちらの様子などお構いなしに話しかけてくる。


「急にこんなこと言われても信じられないかもしれないけど、矢田さんが傷つくことは絶対にしないから! だからこれから僕のことを知ってほしい!」


「あぅ……えと」


 色々なことが重なってしまったせいか、いろいろな感情があふれ出して訳が分からなくなる。

そうして慌てていると、いつの間にか目の前に彼の顔があった。

彼はこちらを伺うようにじっと見つめてくる。

私は頭が真っ白になってしまった……


 その後のことはよく覚えていない。

その場から逃げ出すように逃げ帰ってしまったことは覚えている。

自宅に帰り、自分の部屋に入るとベットに倒れこむ。

思えば、自分の素を出して受け入れてくれたのは彼ぐらいではないだろうか?

自分の親ですら、この性格に苦言を呈してきた。

あの告白のシーンが頭の中で何度もフラッシュバックして、顔が熱くなる。

その度に、枕に顔をうずめたり、足をばたつかせたりしていた。


 そうして、いつの間にか自分が彼、刹那秀登が好きだということに気付く。

その瞬間一つの感情が心の底からあふれ出す。

彼のすべてが欲しい。

彼の声も、

彼の視線も、

彼の感情も、

すべて独り占めにしたい。


「(あぁ……私の運命の人)」


この日一人の女の子が初めて恋をした。

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