第3話 二人は下校中
二人の男女が付き合って一週間がたった。
付き合った次の日に毎日一緒に下校することになった二人だが……?
「矢田さん一緒に帰ろうか」
「う…うん」
短い言葉を交わし、学校を後にする。
その間二人は言葉を交わさず、ほとんど無言であった。
たまに刹那秀登が話しかけるが、矢田玲子の反応は著しくない。
その理由は何だろうか?
「(何を話せばいいのかわかんない……)」
「(そもそも、彼氏どころか男友達もいたことがないのに何を話せばいいの!? 何か話したら変な子だと思われないかしら? ど、どうしよう!?)」
矢田玲子はヤンデレ以前に初心だった。
しばらくうつむいたり、かと思えばキョロキョロしたりと明らかに落ち着きがない。
そんな彼女を目の前にしている彼氏は何をしているかというと……
「(俺の彼女、初心くてかわぇ~)」
この男意外と察しが良かった。
告白成功時の盲目さとは打って変わって比較的落ち着いており、彼女の小動物のような動きを楽しむ余裕すらあった。
心なしか彼女に動物の耳としっぽが見えてくるほど可愛く慌てている。
しばらく眺めると彼女が意を決して顔を上げる。
そうして震えた声で言葉を発した。
「きょっ……今日はいい天気ね!」
「え? 今日曇りだけど……」
「「…………」」
しばらく二人の間で沈黙が続き矢田は下をまたうつむいてしまう。
「(やっちゃった……なんで天気の話なんかしてるのよ私! ていうかいい天気どころかどんより曇り空だし! うぅ……絶対変な子だと思われた」
「(あ、明らかに落ち込んでる。何とか別の話題を探さないと)」
察しの良さというよりも彼女がわかりやすいせいで落ち込んでることに気付いた刹那はあたりを見渡す。
そうすると一組のカップルが反対側からこちらに歩いてくる。
刹那はそのカップルを眺めるがそのことに矢田が気付いた。
「(え? なんで私じゃなくてあのカップルを見つめているの? あの男を侍らせているビッチが刹那くんに色目を向けたせいなの?)」
どす黒い何かが心の中であふれだす。
そのあふれ出した何かに身をゆだねるより早く、刹那秀登が口を開いた。
「あー……矢田さん……」
「なぁに? (ゆるせない、ゆるせない、ゆるせない……)」
「あそこにカップル手つないでるの見て思ったんだけどさ、僕たちも手をつないでみない?」
そう言いながら片手を彼女に差し出す。
話題を探してあたりを見渡したら、一組のカップルを見つけた。
そのカップルが手をつないでるのを見て思いついたのだ。
喋るのがあまり得意そうでない彼女ともこれならばコミュニケーションが取れるだろう。
「え、えと」
指し伸ばした手はつかまれることなく、彼女はずっと下を向いてモジモジしていた。
しばらくすると、重たい口を彼女が開いた。
「あぅ、えと……急に手をつなぐの恥ずかしい、です……」
彼女はうつむいたまま、おずおずと答えた。
すぐに手を引き彼女に謝り、このまま帰ろうとした瞬間、
不意に袖を引っ張られる感覚がした。
袖を見ると彼女が自分の袖をつかんでいるのが見えた。
「えと、今はコレでお願いします……」
よく見ると彼女の耳が真っ赤になっていた。
きっとかなりの勇気を振り絞って行動に移してくれたんだろう。
そのことがなりよりもうれしかった。
「それじゃぁ、帰ろうか? (矢田さんマジでかわぇ~。なんだろう、矢田さん見てると母性芽生えそうになるわ)」
「うん……(刹那くん、すごく優しい! あーー! 手つなぎたかった! でも手汗とか出てたら恥ずかしいし……もったいないことしちゃったかしら。 あぁ、刹那くん、刹那くん、刹那くん……)」
この二人が普通に話しながら下校するのは、もう少し時間がかかりそうです。
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