第156話 アーチャーとランサーの焦り

コウスケから初の遠征任務を受けたブレイブは興奮していた。


『元精霊王の城を壊滅させる任務を我が部隊だけで任されるトハ、なんたる栄誉ッ!皆の者ォォォッ!気合いを入れていくゾォォォッ!』


『『『『『オオォォォ!』』』』』


一方、ブレイブの両脇に控えているアーチャーとランサーの気持ちは落ちていた。


『だ、旦那様。楽しみですね。(”任された”じゃなくて、“無言の圧力をかけて勝ち取った”ですよね…。しかも、壊滅じゃなくて、捕まっているヒトの救出ッス…。)』


『ブレイブ様…。元精霊王とその盟友はコウスケ様が倒してしまわれたので、骨のある敵はいないかもしれませんよ。(ブレイブ様が求めておられるような高潔な好敵手はおりません。)』


ブレイブは嬉しそうに腕組みをしながら鼻息を荒くさせる。


『フム。なんでも堕天した合成精霊なる者がいて、聖剣を使って倒すと正気に戻るラシイゾ。ちょうど、精霊とは一度本気で戦ってみたかったところなのダ。』


ブレイブの言葉に、アーチャーとランサーは不安をさらに募らせた。


『そ、それは楽しみですね。(理性を失った精霊と旦那様…。嫌な予感しかしない。)』


『堕天している合成精霊…。危険な臭いがする…。(危険物×危険物=カオス)』



各地に設置された「箱庭:転移ポータル」を使用して、ブレイブ達はジンから聞き出した研究所の位置にわずか1日で辿り着いていた。


『ここが元精霊王の城でよいのカ。見た目ハ、城というより地下ダンジョンだナ。ヨシッ!真正面からいくぞッ!-聖剣-ダブル解放-ッ!』


周囲剣で扉を切り刻みながら先陣を切って突き進むブレイブの姿をみて、アーチャーとランサーの不安は焦りに変わってくる。


『…………。(旦那様が張り切れば張り切るほど不安になる。やられる前に殺るしかない。)』


『…………。(中途半端なヤツが出てくるのが一番良くない。もし出てきたら、一撃で始末するしかない。)』


アーチャーとランサーはお互いにアイコンタクトをすると、オーラを練り上げて何時でも本気を出せるように準備し始める。


しばらく進むと堅牢な門が現れ、門の前に腕がカマキリのような生物が目を閉じて座っていた。


強者の雰囲気を感じ取ったブレイブがカマキリに話しかけようと構えを解いた瞬間、アーチャーとランサーが動いた。


アーチャーは左方向に素早く移動しながら、カマキリの動きを封じるべく弓を構える。


…スキル「必中」発動…

『武技―影縫い―』


カマキリは回避行動をとるが、アーチャーの放った矢は“必中”の効果により、軌道が変わりカマキリの影を正確に射貫いた。


そして、それと同時にランサーは天高く跳躍すると、投擲の構えをとった。


『ラース…一撃だ…。一撃で仕留めるぞ。』


“ランサー殿。忘れてはおるまいな。活躍した暁には、我輩を忠王様に紹介していただく約束…”


『…今はそれどころじゃない…。もう一度言う。…一撃だッ!!!』


“くッ!致し方ない。”


『おぉぉぉぉおおおッ!武技―乾坤一擲―』


ランサーの右腕の筋肉が二倍以上に肥大化すると、右腕のフルプレートが肥大化に耐えきれず音を立てながら弾け飛んだ。


ランサーはそれを気にすること無く、肥大化した腕を使い、渾身の力でラースを投擲した。


驚異的な腕力で放たれたラースは、切っ先に込めた膨大なエネルギーを円錐状に変化させ、更に回転を加える。


“一つ積んでは忠王様のため…、二つ積んでも忠王様のため…、三つ積んでも忠王様のため…。ランクエラーに鬼ぞ住む…。”


―乾坤一擲【鬼天烈大灼壊】―


膨大なエネルギーを纏った超高速のラースが螺旋状の渦を生み出し、加速度を更に引き上げた。


そして、身動きのとれない状態のカマキリの頭部を一瞬で貫いた。


しかし、ラースの勢いは衰えること無く、カマキリの背後の堅牢な扉に突き刺さると、激しい灼熱の奔流を生み出し周囲を飲み込んだ。


灼熱の奔流がおさまり、視界が回復すると、カマキリと堅牢な扉は消滅していた。


アーチャーとランサーは、ブレイブに近寄るとやりきった表情で報告する。


『所詮は虫でしたね。さぁ、旦那様進みましょう。今回の目的は、捕らわれている者達の解放ですから。』


『ブレイブ様。やはり、ボスはコウスケ様が倒してしまわれたので、強いヤツは居ない可能性が高そうです。』


ブレイブは二人の様子に圧倒される。


『アア。そうだナ…。』

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