第155話 スピネルの焦り

ランクエラー「精霊の間」に精霊達が集まり、重要な話し合いが行われようとしていた。


『『『『………。』』』』


物々しい雰囲気の中、中央の小さな切株に深刻な表情で座っていたスピネルが、重い口を開いた。


『みんな…、まずいことになったわ…。例のゴミのせいでコウスケの精霊に対する態度が急変したわ…。これまでフリーパスだったダンジョンやペンダントへの出入りが厳しくなったのよ。コウスケが精霊の間に来る回数も明らかに減ったし、このままだと私達の地位がカブトムシと包丁に奪われるわ。』


スピネルの言葉にリリスが反論する。


『精霊も無条件で信用できないことがわかったから、確認のために魔力パターンを出入口でチェックするようになっただけじゃないの?』


シルフもリリスの意見に頷く。


『うんうん。精霊の間に来てくれる回数が減ったのだって、農園エリアから移した記念碑(カオスなオブジェ)が原因だと思うし、別にコウスケが僕達を嫌いになったわけじゃないと思うなぁ。』


ノームは、日本酒をチビチビと飲みながら語り始めた。


『ワシはスピネルの見解が正しいと思うゾイ。スピネルの一件があったが、精霊は無条件で信頼されてきたのじゃ。あのヒト嫌いのコウスケがワシらのために、精霊の泉や世界樹様・精霊樹様を復活させてくれたり、ジュゼ王国に捕まっていた同胞を助け出してくれたりしたんじゃ。それが、ゴミ1匹のせいで他種族と同じような扱いを受けるようにまで落ちたんじゃ…。真の精霊王に距離をおかれる…、精霊にとって、これほど悲しいことはあるまい…。』


ノームの言葉に、精霊達は息を詰まらせ目を潤ませる。


『『『『………。』』』』



静寂に包まれる空気のなか、テレポートモスキートが騒ぎ始める。


『そんなことよりもユビタスに捕らわれた精霊達を助けるだべすッ!精霊王なんて特別視することないだべすッ!権力を持つと誰でも少しずつ狂ってくるだべすッ!きっと、あの子どももそのうち調子に乗って好き勝手やり出すにちげぇねぇだべすッ!みんな、目を覚ますだべすぅぅぅッ!』


…ブゥン!ブゥン!ブゥン!…


シルフの周囲に強い風が吹き始める。


『君の境遇には同情するけど、コウスケの悪口は言わないでくれる?僕達は、精霊王じゃなくてコウスケを特別視してるんだ。今どき、精霊王って理由だけで従うのはイカヅチくらいなもんさ。それに、キミの仲間達の救助は、ブレイブに任されてあるって言ったの忘れたの?しかも、そんなに心配なら自分が行けば良いじゃん。道案内くらいはできるよね。』


気まずそうにしているイカヅチを尻目に、テレポートモスキートは抗議を続ける。


『オーガに何ができるんだべすッ!こっちは必死でお願いしてるのに、役に立たない軍団なんて送ってくれても嬉しくなんてないだべすッ!だから、わはオーガの道案内なんてしないで、あなた方を説得しに来ただべすッ!』


…ズズズズズッ…


スピネルから闇のオーラが漏れ始める。


『コウスケは…今回も精霊を救出するために、このダンジョンの最大戦力を出してくれたのよッ!聖剣二刀流のブレイブなら、仮に堕天した精霊が居たとしても正気に戻せるってね。あと、用がすんだら、早く帰ってくれる?あんたも嫌いな精霊王が管理するダンジョンに居たくないでしょう?』


テレポートモスキートは、なお抗議を続ける。


『み、みんな騙されてるだべすッ!そもそも、人間なんかが精霊王になるなんておかしいだべすッ!』


…チリッチリッチリッ…


イカヅチの周囲から火花放電が起こる。


『コウスケ様は間違い無く精霊王でごわす。おいどんは、その点だけは間違えたり騙されたりはしないでごわす。おかしいか、おかしくないかなんて関係ないでごわす。コウスケ様が精霊王でごわす。』


イカヅチの台詞に、テレポートモスキートが激しく反応する。


『ユビタスの手下がしゃしゃり出てくるんじゃないだべすッ!そして、今さら正義面してカッコつけんじゃねぇだべすッ!わは知ってるだべすよ。研究所の実験体の調達作業を手伝ってたのをッ!』


…ゴゴゴゴッ…


ノームの周囲の地面が揺れ始めた。


『その話は、先日終わったはずじゃ。今さら蒸し返してどうするんじゃ?ここにもイカヅチにこっそり助けられた精霊も沢山おる。イカヅチはゴミの懐に入って精霊達を助けていたという側面もあるから、コウスケからアドバイスをもらって”執行猶予”とやらの処分で落ち着いたはずじゃ。テレポートモスキートよ。スピネルのいう通り、コウスケが気に入らんのであれば、もう出ていってもらえるか?ブレイブ達が出立して1日程経つから、じきにゴミに捕まった同胞達も助け出されるじゃろ。ついでに、ブレイブが本当に役立たずかどうか、研究所に戻ってみると良い。』


普段見せないノームの表情にテレポートモスキートはたじろいだ。


『わ、わかっただべすッ!もし、オーガが役立たずだったら、ノームが責任をとるだべすッ!』


テレポートモスキートは研究所に向けて飛び出した。



そして、中央の小さな切株に座っていたスピネルが、再び重い口を開いた。


『さぁ、話を再開するわよ…。』


ノームだけが元気よく返事をする。


『おうッ!』

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