第147話 閑話 元精霊王3

”…芋王 木の実のマントをまといて 銀色の野に降り立つべし…”


…ぷぷ…ジンのヤツ…何してるの…


…“芋王”ってなんだよ…ぷぷ…


ジンの副音声を聞いた小猿は、土竜ドラゴン達の視線と自分のマントの刺繍と銀色のピクニックシートを交互に見ると、静かに震え始めた。


『オッ、オイラが“芋王”…?じょ、冗談だよな…?』


…あの小猿の顔…ウケる…


…ぷぷ…ジンにこんな笑いのセンスあったんだ…ぷぷ…


…そろそろ、僕も動いてみようかな…


ユニークスキル「透過」を解除し、黒目黒髪の子どもに背後から声をかける。


『ハハハハ~☆君達は本当に面白いね~☆特に、さっきの副音声は最高だったよ☆』


子どもは振り返ると、冷静に挨拶を始めた。


「こんにちは。どちら様でしょうか?」


…不気味な子どもだな…


…一切動揺していないよ…


…だから子どもは嫌いなんだよなぁ…


『ちぇ~☆もうちょっと驚くと思ったのにな~☆ちぃ~す☆僕は、泣く子も黙る≪精霊王≫様だよ~☆今日は、このダンジョンを貰いにやって来てきたよ~☆このダンジョンに精霊樹とか世界樹があるんでしょ?君には勿体ないからさ☆…ってわけで、早くちょうだい☆」


子どもは、一切表情を変えるのことなく左手中指の指輪に右手を添えると、周囲の雰囲気が変わり、朱い柱でできた簡易な門のような建造物と桜の大樹が現れた。


…建造物や桜だけじゃない…


…空間も変わった…


…空間系のマジックアイテムか…


…厄介だな…


…ただの子どもって訳じゃないってことか…


…しかも、僕のユーモラスな返しを無視しやがって…


『なに☆なに☆な~に☆まさか、僕と戦おうっていうのかい☆やめた方がいいよ☆君じゃ僕を倒せないよ☆僕の気が変わらないうちに、ダンジョンコアごと早くちょ~だい☆』


子どもは、表情を変えずに平坦な声で答える。


「お断りします。ってわけで、早く還ってください。」


…この余裕ぶった態度ムカつくなぁ…


…優しく接して奪うだけ奪ったら、不意打ちして殺ろうと思ったのに…


…もう殺そう…


『チッ!この状況、わかんないかな~☆僕は君に全く気づかれずにここまで侵入したんだよ~☆もう詰んでんじゃん☆状況を理解しろよなぁ☆あ~あ、だから、頭の弱いヤツと話をするのは嫌だったんだ~☆もういいや、お前嫌い、死ん…じゃ…え………ッ!?』


桜の大樹から花びらが舞い、桜の花びらは、ゆっくりと周囲を覆い始める。


…うっ…鬱陶しい花びらだな…


…ッ!!…この花びら普通じゃない!?僕の身体が溶けてる!?…


「な、なんだよッ!この花びらはッ!?触れる度に身体が溶かされていく!?僕の身体は無敵じゃないの?なんで?どうして?うわぁぁぁッ!やめろぉぉぉッ!僕に触るんじゃないッ!このッ!このッ!このぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


花びらを振り払おうとするも、花びらが余計にまとわりついてくる。


…な、なんなんだ?これは?…


…魂ごと溶かされている!?…


…こんなマジックアイテム知らないぞ…


…チィィィィッ!子どもだと思って油断したッ!…


…本気だして、一瞬で消滅させてやるッ!…


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!こうなったらぁぁぁぁぁぁッ!僕の精霊王化した姿を見せてやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


精霊王化するため巨大化する………………が、巨大化部分がすぐに溶かされ、精霊王化できずに一進一退の状況となった。


…くそぉぉぉぉぉぉぉッ!…


…厄介な空間を出しやがってぇぇぇッ!…


そんなの状況を続けていると、甲高い声が聞こえてくる。


『…あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!あいつはッ!ピンチの時に裏切ったクソゲス元≪精霊王≫じゃないッ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!あいつだけは許さないぃぃぃぃぃッ!モグ太郎ッ!大、大、大至急、お姉さま達を呼んできてちょうだいッ!クロンッ!起きなさいッ!あいつが現れたわッ!ここで、確実に潰すわよッ!』


…スピネルか!?…


…いつの間にここに居るんだ!?…


…リリス達もいるのか!?…


さらに聞き覚えのある声も聞こえてくる。


『…貴様ぁぁぁぁぁぁッ!よくも我の前にノコノコ姿を現しおったなぁぁぁぁぁぁぁッ!世界の反逆者がぁぁぁぁぁぁッ!ユキヒラは貴様を最後まで信じておったのじゃぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!貴様は何度殺しても殺し足りんッ!コウスケッ!スピネルッ!最初から全力でいくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』


…チィッ!…


…クロンまで居やがるッ!…


…いつまでも過ぎたことをグチグチと女々しいヤツがぁぁぁッ!…


…チィッ!…チィッ!…チィッ!…


…子どものくせに聖剣勇者だと!?…


…ダンジョンに廃棄されたただの異世界の子どもが運良くダンジョンコアと適合しただけじゃないのか!?…


子どもが膨大な魔力と龍闘気の混合エネルギーを身体に纏い始めた。


…なぜ、人間が龍闘気を纏っている?…


「…聖剣-クロン-完全解放…」


クロンがかつて見たことのない大剣形態に変化した。


…完全解放!?…


…な、なんだ!?あの形態は!?…


…ぼ、僕は知らないぞ…


さらに、衝撃の光景が目の前に現れる。


「精霊纏装-スピネル-」


子どもがスピネルと精霊纏装を発動した。


…精霊纏装!?…


…僕が失伝させた技がなぜッ!?…


…精霊樹だけでなく、精霊纏装まで復活させたのか!?…


子どもは、闇衣を纏い、クロンを自分の背丈の何倍も大きな漆黒の死神鎌に変化させた。


…な、なんだよッ!?…


…せ、精霊纏装で聖剣を強化した!?…


…視認できるほどの圧倒的なオーラを放っているじゃないか…


スピネルが真っ直ぐ睨みながら、こちらを力強く指差した。


『アイツをギタギタに斬り裂いてやるんだからッ!』


…ど、どうして、真正面から精霊王と敵対ができる!?…


…いや、精霊王である僕に逆らうなんて、あってはいけないッ!そんな存在認めない…


…そんなヤツ精霊じゃない…


ふと、ジンに言われた言葉を思い出した。


―≪”精霊王”の称号が“鬼畜王”とかになったりしないの~?≫―


…そんなことないッ!僕は精霊王だッ!…


漆黒の死神鎌から、今までに感じたことのないプレッシャーが押し寄せてきた。


『コウスケッ!今回は遠慮は一切無しじゃッ!何度斬っても復元するはずじゃから、粉々になっても油断せずに斬り続けるぞッ!この時のために開発した精霊殺しの毒も使うぞッ!』


…僕のために開発した精霊殺しの毒!?…


…ちょっと裏切っただけで、こいつら頭がおかしすぎる…


…ウゼェ…ウゼェ…ウゼェ…


『ぜぃ…ぜぃ…。…この花びらのせいで、全然、精霊王化できないッ!この木のせいかぁぁぁぁぁぁッ!ハハ…もう…いいよ……全部吹き飛んじゃえ…。』


”…精霊秘術-ペイン・ダッシャー-…”


”精霊秘術-ペイン・ダッシャー-”は、精霊王だけが使える精霊術で、威力は通常の精霊術を遥かに上回る。


”ペイン・ダッシャー”の破壊のオーラを円形状に発生させ、忌々しい空間を飲み込んだ。


…よしッ!このままここにいる全部を飲み込んじゃ…えっッ!消滅しただとぉぉぉ!?…


精霊力の四分の一を使い発動した”ペイン・ダッシャー”は、その空間を破壊するとエネルギーを使い果たして消滅した。


…“ペイン・ダッシャー”が空間を一つ破壊しただけで消滅した!?…


…いつもと何かが違う…


…正体不明の相手の土俵で戦うのは危険だ…


…業腹だが、撤退するか…


『ぜぃ…ぜぃ…。おかしいな、あのヘンテコな空間を壊しただけで終わるなんて…。想像以上に消耗してるのかな?…クロンとスピネルも出てきたところだし、今日のところは帰ってあげるよ☆―フェアリーサークル―≪雷の精霊≫-イカヅチ-出てこいッ!』


右手をあげて魔法陣を展開すると、≪雷の精霊≫-イカヅチ-を召喚した。


…ちょっと勿体ないけど、イカヅチを使い捨てるか…


『イカヅチ☆僕はもうウチに帰るから、コイツらを足止めしておいて☆もちろん、命を削ってでもね☆』


≪雷の精霊≫は、子どもをしばらく観察すると、太鼓を鳴らして龍を型どった雷を召喚した。


『おいどんは、≪精霊王≫様に従うでごわす。悪く思わないでくだせえ。』


”…精霊術-雷龍招来-…“


…よしよし、イカヅチは精霊王の僕の命令は何でも聞くから…なッ!?なぜ、こっちを向いている!?…


≪雷の精霊≫がクルリと向きを変え、雷龍をこちらに向けて放つ。


不意を突かれたため、防御できずに直撃してしまう。


『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…


…な、なにが起こった!?…


…あの精霊王に絶対服従のイカヅチが裏切った!?…


『おいどんは頭がわりぃから、自分で判断出来ねぇ。だから、今まで≪精霊王≫様に従ってきた。おかしいと思うことでも従ってきた。この生き方は、これからも変えられねぇ。だから、おいどんは“新しい”≪精霊王≫様に従うッ!”前の”≪精霊王≫様、申し訳ねぇわけねぇけど、覚悟するでごわすッ!』


…なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?…

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