第131話 閑話 優等生風男

…俺の名前は、望月とおる…


異世界召喚された勇者だ。


異世界召喚されたのは俺を含めて5名だったが、みんなそれぞれ有用な能力を持っていた。


俺は「箱庭」という能力を持っており、素材を集めれば、異空間に箱庭を創ることが出来た。


能力を聞いた時には周囲にも落胆されたが、実際に素材を集めて「箱庭」を創ってみると、その有用さに驚かれた。


まず、「箱庭」には物や生物を持ち込むことができるため、物や生物の運搬に適していたのだ。


この世界には、アイテムボックスという能力やアイテムがあるらしいが、生物を収納できないという制限があるため、生物も運べる「箱庭」は、能力の価値が格段に違うらしい。


「箱庭」の能力は、それでだけではなく、素材次第で様々な能力を備えた「箱庭」を創ることができた。


例えば、鉄1トン・木材1トンで創れる「避難所」は、10人ほどしか入れない部屋だが、設置すると外からは見えたり触れないという“安全地帯”を創りだす能力を持っていた。これは、ダンジョン探索や戦争時に活用すれば、計り知れない恩恵があるとのことだった。


異世界召喚された時には、もとの世界に帰りたいという気持ちもあったが、今はほとんどない。


こっちの世界の方が、人から称賛を受けられるし、気に入らないことがあれば、実力で覆すことができる。


俺は、国から素材の提供を受けて「避難所」「要塞」「飛空艇」を創り、数多くの戦争で大活躍を果たした。


俺を含めた勇者の活躍のお陰で、フランツ帝国は衰退していたジュゼ王国を統合し、さらに領土を拡大していった。


そんな中、俺ともう一人の勇者がランクエラーというダンジョン攻略の任務を受けた。


そのダンジョンのダンジョンマスターは、ジュゼ王国が召喚した異世界勇者で残虐非道の限りを尽くして“堕ちた勇者”と呼ばれていた。見た目は少年だが、国宝を国から盗んだあげく、ジュゼ王国の姫や騎士団員100名以上を殺害して、ダンジョンに引き籠もっているらしい。


今は大人しくしているが、ダンジョンモンスターを次々に生み出しており、ジュゼ王国を統合したフランツ帝国に攻め込む機会を虎視眈々と窺っているとの情報もあり、早めに攻略すべきと判断されたようだった。


俺ともう一人の勇者は、部下を引き連れてランクエラーの攻略に向かった。





ランクエラーは、魔の森と呼ばれる凶悪なモンスターが多く生息するエリアの奥に位置しており、「避難所」を使いながらゆっくり進んでいた。


「飛空艇」を使っても良かったのだが、レベリングの目的も兼ねて、モンスターを狩りながら少しずつ進んだ。


ランクエラーに向けて出発してから2週間程の経ったある日、森のなかを進んでいると、両手を上げながら3人組が近づいてきた。


…5歳くらいの少年と執事の格好をした悪魔と美しい女性にしか見えない植物モンスター…


…これが、堕ちた勇者…


「すいません。お話ししたいのですが、よろしいですか?」


堕ちた勇者は、わざと物音を出すように近づき、こちらが気付いたところで、ゆっくり話しかけてきた。


…騙されないぞ…


部下達にアイコンタクトで指示をだし、堕ちた勇者達を包囲させた。


部下の一人が質問を始める。


「貴様らは何者だッ?」


堕ちた勇者は、笑顔で答える。


「ここのダンジョンの関係者で、ゲンと申します。」


…間違いなく、堕ちた勇者だな…


部下が質問を続ける。


「黒目黒髪…。貴様は噂の堕ちた勇者か?」


一瞬だけ堕ちた勇者の眉間にシワがよったが、笑顔を崩さず答える。


「堕ちた勇者ですか…、何のことか知りません。それはそうと、あなた方は、なんの目的でここにいるのですか?」


部下は、突き付けた槍をさらに喉元に近づけると強い口調で堕ちた勇者に詰め寄る。


「嘘をつくなッ!お前の特徴が、堕ちた勇者にそっくりだぞッ!それに、お前達のような薄汚い奴等が許可なく喋るんじゃないッ!ここに来た目的だと!?ダンジョンを攻略に決まっているだろうがッ!」


堕ちた勇者は、表情を変えずに俺達勇者に向かって質問をする。


「そこの黒目黒髪のお姉さんとお兄さんも同じ考えで良いんですか?突然拉致されて、無理矢理戦わされているんじゃないですか?もしそうなら…」


話の途中で、もう一人の勇者クニコが動いた。


「うるせぇよ、クソガキッ。」


クニコは、堕ちた勇者の右腕を風魔法を使い切り落とした。


「おいッ!ガリ勉ッ!残りは任せたぞッ!」


…コイツ、本当に口が悪いな…


俺は剣を構えると、縮地スキルを使って執事悪魔と美女モンスターに接近した。


「薄汚いモンスターどもめッ!罪を償えッ!」


…武技ー無双二段突きー…


協力な二連続の突きが、執事悪魔と美女モンスターの心臓を貫いた。


…美女モンスターは殺すのが惜しかったな…


そう考えていると、もうクニコの声が聞こえた。


「おいッ!ガリ勉ッ!まだ殺すんじゃねぇよッ!情報を引き出してからだろがッ!」


…なに言ってるんだ?…


…モンスターはすぐに殺すのがセオリーだろうが…


…これだから頭の悪いヤツは嫌いだ…


「そこの少年がいれば十分だろ。あと、ガリ勉って呼ぶなッ!偏差値測定不能のクソビッチが。…ッ!…な、なんだ!?…この煙は?何も見えない!?…チッ!…煙幕か!?」


辺り一面、煙に包まれた。


そして、煙が晴れると、堕ちた勇者達は忽然と姿を消していた。


捨て台詞のような言葉を残して…。


…”それがあなた方の答えですね”…


…”あの方の同郷と聞いて期待したのですが”…


…”残念です”…


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