第68話 豊穣の聖斧

…ロプト公国最大都市ロデウ…


コウスケ達は、ターゲットが拠点にしている都市に簡単に潜入することができた…が…


ある問題に直面していた…。



「おうッ!ガキッ!そのワイズセットを寄越しやがれッ!」


「兄貴ッ!このガキの持っている装備もなかなかのもんですぜぃ。さっさとぶっ殺して奪っちまいましょうぜッ!」


「「「ヘッヘッへッ!」」」


行く先々で絡まれていた。


(…これで何回目だ?…やはり…キチガイ率の高さはジュゼ王国だけじゃないみたいだね…。)


「黒、お願い。」


『ハッ!』


黒の影罠スキルによりキチガイの集団は影に飲まれた。


影に飲まれた者達は、街の外で待機しているブレイブ部隊のもとに送られることになっていた。


(ふぅ。普通に倒しても良いんだけど、騒ぎになったら不味いし、スタンバイしているブレイブも退屈しているだろうから、黒に運んでもらうのがベストだな。)


コウスケは裏路地から出ようとすると、鎧に鷹の紋章をつけた兵士3人組から声をかけられた。


「おいッ!そこゴミどもッ!我が主がお呼びであるッ!今すぐついてまいれッ!」


(次は貴族関係か…。)


「黒、お願い。」


兵士達は次々に影に飲まれていく。


(想定以上にキチガイが多いな。これは作戦を練り直すしかないな…。)


「クロン、帰って作戦を練り直そう………ッ!…」


コウスケがクロンに提案しようとした時、上空から無数の矢が飛来した。


(街中でこれほどの矢攻撃ッ!?正体がバレたか?)


コウスケの肩に座っていたモンタが杖を構えると、念動力スキルと結界スキルを使って飛来する矢を防いでいく。


『コウスケ、どうやら囲まれたみたいだな。高レベルの奴とか鑑定できない奴はいないぜ。この街、オイラに妙に粘着してくるし、飯は不味いし、さっさと倒して帰ろうぜ。』


いつの間にか、精霊魔装状態で後ろに控えていたユニ厳しい表情で頷く。


「コウスケ様、塵どもの数は前方と後方それぞれ100程度です。索敵スキルで把握はしていましたが、まさかモンタを捕まえるための集団とは思いませんでした。モンタの言う通り、早く倒して帰りましょう。」


(みんな機嫌が悪くなっている…。クロンとグラトニーも無言だけど、物凄い怒っている雰囲気だな。飯が不味いのが一番の原因だと思うけど…。)


コウスケがどのようにしようか考えていると、この街の軍隊と思われる集団が姿を現した。


そして、先頭にいた白銀の鎧を装備したスキンヘッドの大男が大声で叫んだ。


「この街ではワイズセットは領主が所有することになっている。貴様らはこの街の法を犯している。今なら半殺しで許してやるッ!大人しく投降せよ。」


(ワイズセットはモンタの種族名…。チンピラ達もワイズセットと言ってたし、モンタの種族は人間から執拗に狙われているんだな。それにしても、小動物一匹捕まえるのにこんな人数を動員するって、どれだけ重要視されているんだ?)


モンタは、スキンヘッドの言葉を聞いて震えだした。


『オイラ達は誰かの所有物じゃねぇッ!おかしな法をつくるんじゃねぇッ!お前らみたいなヤツのせいで家族をバラバラされたうえに、道具のような生活を…。コウスケッ!オイラ、こいつら許さねぇッ!』


モンタは、アイテムボックスからミスリルゴーレム軍団を取り出すと、念動力スキルでベヒーモス型ゴーレムの頭の上に移動し、杖を構えてゴーレム達に指示を出す。


『モンタのゴーレム軍団出撃ッ!!!』


モンタの号令でゴーレム軍団が進軍する。


ゴーレム達は、虫を踏み潰すかのように兵士達を殲滅していく。


(ユニの話だと、モンタのアイテムボックスは、収納した鉱物を操る効果があるらしいけど、改めて見ると凄まじいな…。…ッ!?…今…ベヒーモス型ゴーレムがブレスを吐かなかったか…?)


…ベヒーモスゴーレムは強力なブレスを吐いた…


(…見間違えじゃない…。しかも、物凄い熱量の炎のブレスだ…。)


ベヒーモスゴーレムのとどめの一撃で戦える兵士は一人もいなくなった。


殲滅を完了したモンタは、ゴーレム軍団をアイテムボックスに収納していく。


『ゴーレム軍団お疲れさんッ!』


(モンタ…清々しい顔してるけど、巨大ゴーレムが街中で暴れまわったら、どうなるのかわかっているのだろうか…。騒ぎになる前にさっさと帰ろう…。)



「お待ちなさいッ!!!」



コウスケが、黒の影移動スキルで帰ろうとした時、ターゲットであるSS級冒険者が仲間を連れて現れた。


(やっと来たか…。)


ターゲットは、柔らかな表情でコウスケに近づいてきた。


「黒目、黒髪、子ども…、ジュゼ王国の堕ちた勇者ね。悪いようにはしないから、大人しく投降しなさい。あなたがどんなに強くてもこの街からは逃げられないわ。この街には本物の勇者様と私以外にも3人のS級冒険者がいるのよ。」


ターゲットは、ゆっくり顔に手を伸ばしてきたが、コウスケはバックステップで一定の距離を保った。


(堕ちた勇者ね…。諜報部隊も“危害は加えない”なんて言い回しで近づかれて奇襲されたみたいだし、話し合っても無駄と考えるべきだな。)


「…クロン、グラトニー、いくよ。」


『今度は逃さぬぞッ!』


“堕ちた勇者とはなんたる不敬ッ!食王様への不敬は万死に値するッ!”


コウスケは、右手に聖剣クロンを持ち、魔力と龍闘気を練り始めた。


…ドラゴニックオーラ全開…


「…聖剣-クロン-反転解放…」

≪…咎人の千剣…≫


クロンが黒に変色し、周りに血濡れた黒剣がいくつも現れた。


…咎人の千剣…

…爆裂スキル付与…

…総攻撃スキル付与…

…時空間属性付与…


「…いけッ!」


生み出された無数の刃を、スキルで強化し、一斉にターゲットに向かわせる。


ターゲットであるSS級冒険者の余裕は消えて無くなった。


千剣が生み出された瞬間、ユニークスキル「超直感」が今までに無いほど激しく警戒音を鳴らしたためだ。


「あの呪いの黒剣…堕ちた勇者の技だったの!?私のユニークスキル「超直感」で察知できなかった?前はできていたはず…、察知されないように力を封印していた!?どうやって?」


(直感系スキルと予測していたスキルは、ユニークスキルだったか…。でも、反転解放しなければ、ヒスイの”絶界”を張ると感知されないみたいだな。)


「ヒスイ、ありがとう。反転解放はともかく、“絶界”はユニークスキルにも効くみたいだね。お陰で上手く誘き寄せられたよ。」


《はいッ!》


精霊樹のペンダントの中で、絶界をコントロールしているヒスイは嬉しそうに頷いた。


一方、クロンの猛攻をユニークスキルで何とか回避していたターゲットだったが、次第に体力を削られ動きが鈍くなっていく…。


さらに、一緒に連れてきた仲間達はユニとモンタによって、すでに戦闘不能に追い込まれていた。


「…うそ!?仲間達もA級冒険者の精鋭よ…。こんな簡単に戦闘不能に追い込まれるなんて…。おかしい…。「超直感」の効力が弱まっている!?…ええいッ!まだ…勇者様が来るまで、何とか持ちこたえなければッ!」


(残念だけど、勇者のところにはブレイブが行っているから助けに来ないよ。)


『ユニークスキルに頼り過ぎたな。もう少し自分で状況判断をすれば、違う未来もあったかものう。』


ターゲットは、血塗られた黒剣を回避するたびに撒き散らされる血涙で全身血まみれになっていき、ターゲットのユニークスキル「超直感」がさらに激しく警戒音を鳴らした。


そして、次第に戦意を喪失していくターゲットは、ついに武器を捨てて両手を上げる。


「この血涙は何か呪いでもあるんでしょ?ふぅ…私の負けよ。降参するから捕虜にでもしてちょうだい。私を人質に使えば勇者様からも逃げられるわよ。」


(この状況で、この余裕のセリフ…。何か隠し球でもあるのか?また逃げられる訳にはいかないから、ここで確実に仕留めとくか…。)


コウスケは空中で武器化して控えていたグラトニーを左手に引き寄せた。


…ユニークスキル「五穀豊穣」発動…


「…大罪斧-グラトニー-反転解放-…」


…豊穣の聖斧…


グラトニーに光り輝く装飾が施されていく。


“尽きることのない渇きから解放された大罪武器の本来の力を味わうが良いッ!”


グラトニーの周辺に無数の魔法陣が展開されていき、ターゲットのユニークスキル「超直感」が頭痛がするほど激しい警戒音を鳴らしていく。


「なんなの…。こんなに激しい警戒音は初めて…。ま、まさか本物の勇者様より強いの?い、嫌ッ!こんなところで死にたくないッ!降参するって言っているでしょッ!!!!!!」


展開された魔法陣から黒い球体が次々に生み出されていく。


「いけ。-罪滅星-」


無数の黒い球体がターゲットを取り囲むと、ターゲットの身体は地面に縫い付けられた。


「う、動けないッ!こ、これは…初代勇者様が使ったといわれる、で、伝説の…じゅ、重力魔法ッ!?わ、私は、何と戦っているのッ!?ま、まさか…ッ!うぎゅあぁぁぁッ………。」


「さようなら。」


時間が経過するごとに重力が増していき、ついにターゲットは動かなくなった。


………レベルアップしました………


………ユニークスキル「交換」を発動します。対象と「交換」したい物を1つ選択してください………


・ユニークスキル「超直感」

→危険等を感じると警告音が脳内に流れる。影響度に応じて音の種類や大きさが変わる。選択をしようとする時も同様。

・「騙し討ち」スキルlevel:Max

→警戒心を解いている相手を攻撃する時の攻撃力と速さが向上。スキルレベル×50%

・ステータスオーブ(速さ+1000)

・交換しない


コウスケはユニークスキル「超直感」を選択した。

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