第67話 クロンの頼み
…引っ越しから半年後…
引っ越しをしたコウスケは、新システムに完全移行したランクエラーで充実した生活を送っていた。
今は、夕食後のハーブティーを飲みながら、この半年間を思い返していた。
(今のところは、引っ越しして正解だったな。旧ダンジョンシステムからの理不尽な介入もないし、森の奥地で人間もなかなか入ってこれないから、ヒトと関わらないで穏やかに暮らせている。)
落ち着いた雰囲気のなか、スペアコアのダミアンが赤く点滅した。
<マスター、ロプト公国に派遣していた諜報部隊の冒険者潜入チームが街中で襲撃を受け、トラップダンジョンへ緊急帰還しました。全員無事で追っ手は今のところありません。>
(冒険者潜入組は、“ダンジョンカタログ”で仲間にした隠密特化の人化できるモンスターを中心に編成していたはず…。)
「正体がバレた可能性はどれくらい?」
<どうやら、前にクロン様がとり逃したSS級冒険者の直感系スキルが反応したことが襲われた原因のようですので、正体が漏れた可能性は低いと思われます。>
(あの冒険者か…。千剣状態のクロンから逃げ延びたことから、かなりの直感系スキルと考えるべきだな。直感系スキルは気配遮断スキルも看破される可能性があるから、気を付けないといけないんだよな。)
日本酒を飲んでくつろいでいたクロンが、コウスケの目の前に立つと、頭を下げた。
『コウスケ、この件は我の責任じゃ。後始末を手伝ってくれ!』
(クロンのせいじゃないって何度も言っているのに、ずっと引きずっているんだよなぁ。仕方がない。クロンの好きなようにさせてあげるか。)
コウスケが頷くと、クロンは安心したかのような柔らかい表情に戻った。
『うむ。よろしく頼むぞ。久々の人間の街にだから緊張するのう。ロプト公国はエールが有名じゃから楽しみじゃわい。』
クロンの言葉を聞いて、コウスケは慌てた。
「ク、クロン…。後始末って、直感スキルの範囲外から奇襲とかして倒すことだよね。観光のことじゃないよね。俺が人間嫌いだってわかってるよね。」
必死で訴えるコウスケの様子を楽しそうに見ながら、クロンは答える。
『フハハッ!それでは効率が悪いじゃろう。襲われたところを一気に叩くのじゃ。街中でも平気で襲ってくるらしいから、適当に観光でもしていれば勝手に襲ってくるはずじゃろう。』
(…グッ!たしかに、確かに直感系スキル持ちの動向を観察するなんて現実的じゃないしな。街に行きたくないからといって非合理的な考えになるのはいけないか。…よしッ!覚悟を決めるか!)
ピキッ!
コウスケが覚悟を決めた時、人化して後ろに控えていたグラトニーから鋭い闘気が放たれた。
“クロンッ!!!食王様に囮になれというのですか?人間など遠距離から街ごと滅ぼしてしまえば終わりではありませんか?なぜ、食王様がリスクを負う必要があるのですか?食王様は代えのきかない唯一無二の存在であることをお忘れですか?”
クロンは涼しい顔で答える。
『相手は少なくとも高レベルの直感系スキル持ちじゃ。大軍で攻めて遠距離攻撃しても、この前のように逃げられる可能性が高い。確実に仕留めるためには逃げられない場所に誘い込む必要があるのじゃ。現状それができるのはコウスケしかおらん。我もコウスケの重要性は理解しておる。それでも、我はアヤツを仕留めたいのじゃ。それに、グラトニーも街でコウスケと食べ歩きしたくはないかのう?我とオヌシがおれば危険はかなり軽減されるのではないか?』
グラトニーの動きが止まった。
“食王様と食べ歩き…”
(グラトニーが落城されるのも時間の問題か…。いつのまにか後ろにユニとモンタもいるし…。モンタは明らかに食べ物目当てだろうけど…。街かぁ、まともに歩くのは初めてだなぁ。まぁ、ろくな思い出にならないことはほぼ確定しているけどね。)
「わかった。準備を整えて観光しようか。」
『『おうッ!』』
「“はいッ!”」
(早く出発しないとブレイブ達もついてきそうだ…。)
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