第66話 閑話 グラトニー

…空腹で理性を失ってからどれ程の時間が経過しただろう…


…何をどれだけ食べても満たされない…


…ごく稀に空腹をわずかに満たしてくれる食物もあったが、量が少なくすぐに足りなくなってしまう…


…食王様がいらっしゃった時は、いつも満たされていた…


…あぁ、食王様ぁ…



………


…また、アイツのヒステリックで不快な叫び声が聞こえる…


「…起きろッ!-グラトニー-!久々の極上の餌だぜッ!エルダードラゴンには劣るかも知れねぇがなッ!」


…空腹で理性が…食べ物ぉぉぉぉぉぉ…


“きょぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!”


自己嫌悪しそうになるほどの奇声を発しながら周りの物を吸い込んでいく。


吸い込んだ中にいくつかの魔法陣があった。


…この魔力に覚えがある…


次々に吸い込んでいくと、かすかに叫び声が聞こえた。


『あぁぁぁ、オイラのサンドウィッチ達がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』


そして、それを吸い込んだときに衝撃が走った。


!!!ッッッ!!!


理性の光が戻ってきた。


そして、数百年ぶりの感覚に酔いしれた。


“うぅぅぅぅぅぅまぁぁぁぁぁぁぁイィィィィィィィィィぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!”


…こんな食べ物を作れるのは食王様???だとすれば、早くお側に馳せ参じなければ…


そう考えた直後、すぐに不快な大男に激しい雷撃を流し込んだ。


「ぎゃぐぁぁぁぁぁぁッ!!ど、どうしたグラトニぃぃぃぃ!?」


大男の手から離れ、念動力スキルを使い食王様の気配のするところへ移動すると、美しい黒目黒髪の男の子が立っていた。


…まずは、良い印象を持っていただくためにご挨拶をしなくては…


“御初にお目にかかります。私の名は-グラトニー-。あの食べ物を作ったのはあなた様ですね。…ッ!…【食王】の称号をお持ちでは…ま、まさか…【食王】様の生まれ変わりが現れるとは…あぁ…”


…感動のあまり上手く話せなかった…


…でも、この御方は間違いなく食王様だ…


『お、おいッ!グラトニーッ!早く持ち主のところに戻れッ!コウスケッ!コイツを信用するんじゃないぞッ!コイツは自分の欲望を満たしてくれる存在が持ち主でないと恐ろしい災いをもたらす最凶・最悪・ウンコたれの武器なのじゃッ!』


…聖剣クロン、あなたですか…


…しかし、聖剣クロンをお持ちということは食王様は勇者でもあるのですか…


…聖剣クロンは相変わらずですが、食王様が勇者というのであれば仲良くしなくてはいけませんね…


“おやおや、聖剣クロンではありませんか?まだ自分以外のインテリジェンスウェポンに敵意むき出しで当たり散らしているのですか?大罪武器は自分の認めた相手以外には決して傅かない忠義に厚い存在。無条件で勇者の職業を持つものに尻尾を振る駄犬とは一緒にしないでいただきたいですね。”


…おっと、思わず挑発してしまいました…


『なにぉぉぉぉッ!コウスケッ!聖剣解放じゃッ!コイツを今すぐへし折るぞッ!間違っても仲間にするでないぞッ!コイツを仲間にしてもさらに良い宿主を見つけるとさっきのように電撃をくらわせて簡単に裏切るのじゃからな!』


…裏切り?あの軟弱勇者のことを言っているのでしょうか?期待させるだけ期待させておいて最後に諦めて逃げ出した、あの腰抜けのことでしょうか?…


…懐かしいですね…


…聖剣クロンは大分肩入れしていたから、根に持っているいても仕方がありませんか…


“真の主には決してあのような行動はとりません。それに、あの大男は単なる大罪武器の所有者気取集団の一人で、一時的に仕方なくを生命力を対価に力を貸していたにしか過ぎません。”


…フム、この気味の悪い見た目では食王様にご不快な思いをさせますね…


不気味な生物の口のような姿から通常の斧形態に戻った。


…いきなりでは失礼かもしれませんが、忠義の儀式を行わせていただきましょう…


儀式魔法の魔法陣を展開し詠唱を始めた。


“いと尊き御方。生涯の忠誠をあなた様だけに捧げ、決して傍を離れず御守りすることを制約致します。我が名は-グラトニー-。大罪武器の一つ。「暴食」を司るもの。”


…これで食王様との繋がりができた…


…これから何があってもあなた様を守り抜きます…


…二度と失いません…

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