第65話 食べ物の恨み

魔人は激昂しながらグラトニーに物凄い勢いで接近すると、持ち手を掴んで地面に叩きつけた。


「グラトニィィィィィィ!!!てめぇ裏切るのかぁぁぁぁッ!ぶっ殺してやるッ!」


“…ッ!離しなさいッ!お前の仲間になった覚えはありません。電撃が足りませんでしたか?…ッ!”


「ぎゃぐぁぁぁぁぁぁッ!!」


(仲間割れしてるな…。敵に隙を見せるなんて余裕なのか。)


コウスケ達、魔人達が言い合いをしている隙に攻撃の準備を始めた。


……


「いくよ!…聖剣-クロン-解放…」


『今度こそ奴との因縁を断ち切るッ!』


クロンが大剣となり、刀身に刻まれた紋様が複雑になった。


続けて、スキルを発動していく。


…ドラゴニックオーラ全開…

…爆裂スキル発動…

…総攻撃スキル発動…


クロンを天に掲げて魔力と龍闘気を練り始める。


「神が造りし、風の聖剣よ。聖なる暴風龍となりて、我が敵を伐て…≪エターナルドラゴンサイクロン≫!!!」


クロンを振り下ろすと、聖なる風を纏った龍が現れ、魔人とグラトニーに襲いかかる。


……


「…精霊眼…≪光の精霊:リリス≫行きますよ!」

…光の精霊魔纏…リリス…

≪光衣・セイクリッド・シャイニングヴェール≫


光のヴェールがユニの身体の周囲を覆った。


続けて、右手を天に掲げて光のヴェールを手のひらの収束させていく。


「神聖なる浄化の光よ、悪しき存在を貫く槍となれッ!神槍・グングニル!!!」


光のヴェールが集まり神々しい巨大な槍になり、魔人とグラトニーに向けて射出される。


……


………レベルアップしました………

………レベルアップしました………

………レベルアップしました………


………ユニークスキル「交換」を発動します。対象と「交換」したい物を1つ選択してください………


・神速スキルLv:10Max

→速さを倍にする。持続時間5分×スキルレベル

・金剛力Lv:10Max

→肉体を金剛のように硬くする。持続時間5分×スキルレベル

・魔人の腰蓑(縮地スキルの速度×2)

・ステータスオーブ(全ステータス+1000)

・交換しない


…コウスケは神速スキルを選択した…


(グラトニーは破壊できなかったか…。さて、次はどの作戦で…ッ!



………ドスンッ!…


……ドスンッ!…


…ドスンッ!…



…ッ!なんだ!?この地響きは!?)


『コウスケッ!斧ヤローは任せろッ!』


(あの声はモンタ…。……あんなところに…。)


いつの間にかモンタがベヒーモスの姿をした巨大ゴーレムの頭の上で仁王立ちしていた…。


『オイラのサンドウィッチを…よくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!…ベヒーモスゴーレムッ!力を貸してくれぇぇぇぇぇッ!―“モンタの怒りの鉄拳”-』


(えぇッ!なんだ、あの躍動感のあるゴーレムは!?今も馬みたいに嘶いているし…。)


…セイクリッドエンチャント(神聖魔法)…


ベヒーモスゴーレムの天高く振り上げられた前足が光輝き、グラトニーに向けて振り下ろされる。


『大罪武器だか何だか知らねぇが、調子にのるんじゃねぇ!地獄へ落ちやがれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』


ピキッ!


『まだまだ、こんなもんじゃ済まさねぇッ!』


ベヒーモスゴーレムは再び前足を天高く振り上げ、グラトニーに向けて振り下ろす。


パキッ!


『食い物の恨みは地獄よりも深いんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』


ベヒーモスゴーレムは何度も前足を天高く振り上げては、グラトニーに向けて振り下ろし続けた。


パキッ、パキッ、パキッ、パキンッ!


バキッ、バキッ、バキッ、バキンッ!


『…のう。コウスケ…グラトニーを助けてやってくれんかのう。あやつ一切反撃してこないみたいじゃ…。本気でコウスケに仕える気かもしれん…。』


(確かに一切反撃する気配がないな…。)


…従魔召喚≪モンタ≫…


コウスケはモンタを肩の上に召喚して、代わりのランチボックスを渡した。


「こっちの特別製のランチボックスをあげるから、グラトニーを一旦許してあげて。」


モンタはランチボックスの匂いを嗅ぐと二つ返事で頷いた。


『(クンクンッ)…おうッ!モグモグ……。ッ!な、なんだ!?この黒いクリームは!?こ、言葉にできやしねぇ…。どんな言葉で表現してもすべて陳腐な言葉になっちまいやがるッ!それくらいの食いもんだぜッ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』


(ふっ…、そのランチボックスにはモンタの好きなピーナッツバやクルミ、ピスタチオクリーム…そして、まだまだ未完成だけど、この前やっと開発に成功した“チョコレート”が入っているのだよ。これを渡されて断ることはモンタにはできまい!)


一心不乱にサンドイッチを堪能しているモンタを眺めていると、グラトニーが念動力を使い静かに近づいてきた。


“食王様、この度は申し訳ありませんでした。そして、挽回のチャンスをいただきありがとうございます。クロンも見ていてください。私は決して真の主様を裏切りません。”


それを聞いたモンタは、念動力でチョコレートクリームのサンドイッチをグラトニーに差し出した。


『ホラよ。同じ釜の飯を食えば、お前もオイラ達の仲間だ!』


グラトニーは身体を傾けてお辞儀をすると、チョコレートクリームのサンドイッチを食べ始めた。


“…こ、これは…。今まで、どんな食べ物をどんなに食べても満たされなかった私が心から満たされている?し、信じられないッ!こ、この甘味と苦味…そして、この香り…。ムムッ!思い出したッ!この香りは、南の国でしか採れない植物の種の風味に似ている…そうかッ!種を発酵させてからローストしてこの香りを出しているのか…それを丁寧にすりつぶして何度も裏ごしをして…、こ、これは…途方もない労力がかけられている…美味しいはずだ…美味しくないはずがない…。こ、これは”食とは何か”という問いに対する一つの答えなのかもしれない…。ただ腹を満たすだけではなく心まで満たす…。一体、ここに到達するまでにどれだけの月日がかかったことやら…。フフッ!しかも、このパンも素晴らしいッ!食材一つ一つが一級品以上だッ!小麦粉にしても、厳選された迷宮硬質小麦を使用している。最高級の迷宮硬質小麦でもかなり丁寧に処理しないと、ここまでの白さ・味・舌触り・風味は表現できない。北の国が最近発見された技術も使用されている。いや、それらを遥かに凌駕した技術なのか…。わずかに練り込まれているハチミツに至っては、これをめぐって戦争が起こるほどの食材だ。これほど濃厚で繊細で上品で香り高いハチミツはいまだかつて見たことがなかったが、これは精霊の泉の近くでしか咲かないと言われる精霊花の花粉でつくられている…の…か?ま、まさか食王様は精霊の泉を食のために復活させたのではぁぁぁぁlッ!さらに、この深いコクとまろやかさを生み出している油は一体…ッ!こ、これは伝説のスリーピングカウの乳では!?うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!この小さなパンにいくつもの伝説と神話が存在しているッ!!!食王さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!”


(はい。食いしん坊軍団加入決定~。)

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