第48話 閑話 ダンジョン連合4

…ジュゼ王国 第一王女視点…


「我が国の管理ダンジョンのダンジョンマスターとの交渉は上手くいっているようね。ロプト公国からの戦力援助の話はどうなっているのかしら?」


ジュゼ王国の第一王女の執務室で問いかけられた外務大臣は機嫌良く答える。


「そちらも上手くいっております。ランクエラーに魔王誕生の可能性有りとの情報を流し、調査名目でSS級冒険者をはじめとしたロプト公国精鋭部隊の戦力援助を引き出すことに成功しました。」


(SS級冒険者がいれば、何かあったときも安心ですわね。我が国のS級冒険者「雷神」もいるし、完璧ですわ。)


「アハァッ!あの≪ハズレ≫が魔王なんて冗談もいいところだけど、もともとランクエラーが魔王を育てているって噂があったおかげで上手くいったから、≪ハズレ≫には魔王として色々役に立ってもらいましょう。ああッ!ダンジョンバトルの日が楽しみですわッ!」


第一王女は、自身が半年かけて進めた計画を実行しようとしていた。



―ダンジョンバトル当日―

―“嘆きの墓場”の最下層ダンジョンコアルーム―


「戦況はどうなっているのかしら?」


第一王女から戦況を尋ねられた新騎士団長は、ダンジョンバトル開始から3時間程経過した時点の状況を報告する。


「はッ!ダンジョンコアからの情報によると、”流砂の洞窟”と“妖精の森”は、つい先程攻略されたとのことです。また、“嘆き墓場”についても、ランクエラー討伐部隊約3万の大部分がホーリードラゴンによって壊滅させられたとのことです。」


第一王女は、全身の血の気が引いた。


「たった3時間で2つのダンジョンを攻略…?ホーリードラゴン…?一体どうなっているの…?」


新騎士団長は、第一王女の顔色を伺いながら進言する。


「恐れながら、相手の戦力はこちらよりも高いと考えるべきです。ここは、本隊に損害が出る前に撤退するべきかと…。」


ガシャァァァン!!!


「ハァ…ハァ…、撤退ですって?“神殺し”に続き、管理ダンジョンまで失って、このまま尻尾を巻いて逃げろというの?撤退を考える前に、何か策を考えなさいッ!」


(まずい!!まずいッ!!これでは本格的にこの国が衰退してしまう!)


新騎士団は、狼狽した様子で追加報告をする。


「“嘆きの墓場”のダンジョンマスターが、我々に相談せずにサレンダーをしたようですが、拒否されたようです。さきほど、直接全面降伏に行ったようですので、もうどうしようもございません。」


(あの、骸骨ッゥゥ!勝手に白旗上げやがってぇぇぇ!!…うん?……って、これは使えるかもしれないですわ!)


「“嘆きの墓場”のダンジョンマスターの近くに主力部隊を配置しなさい。私たちの部隊は隷属魔法陣と転移魔道具の準備をして、このまま待機よ。奴らが交渉を始めたら、骸骨もろとも弱らせてから“隷属”しましょう。」


……


命令を出して暫くすると、新騎士団長が慌てた様子で報告した。


「報告します!ダンジョンマスターが交渉する間もなく倒されました!」


(はッ!?白旗を上げているのに問答無用で攻撃したの?まずいわッ!こうなったらッ!)


「雷神達の冒険者チームを囮にしなさい。彼らが時間を稼いでいる間に“隷属魔法陣”の準備を!!」


……


「姫様ッ!“隷属魔法陣”の準備が整いました!」


連れてきた宮廷魔導師から報告を受けた第一王女達は、先行させた冒険者達を座標に転移魔道具を使用した。


パリンッ!パリンッ!…………。


貴重な転移魔道具が消滅したと同時に、視界に居た忌々しい≪ハズレ≫の周囲に“隷属魔法陣”を起動する。


…“隷属魔法陣”の中に間違いなく≪ハズレ≫がいることを確認した…


(やった!やったわッ!遂に≪ハズレ≫を捕まえたわぁぁぁあ!!)


「アッハッハァァ!!ようやく捕まえたわ!!≪ハズレ≫!!これからは、お前を毎日拷問しながら、使い潰してあげますわ!アッハッハァァ!!≪ハズレ≫ぇぇ!あなた、そんな力を隠し持っていたなんて驚きですわ!これからは、その力をジュゼ王国のために使ってあげるから感謝しなさい!しかも、≪病気持ち≫と≪鑑定マシン≫まで連れてるなんて、よくやりましたわ!あぁ!!今日はなんて良い日なのでしょう。」


(≪ハズレ≫≪神殺し≫≪病気持ち≫≪鑑定マシン≫≪ホーリードラゴン≫≪ランクエラー≫を全て手にいれたわッ!これで、今までの犠牲よりも遥かに利益があるわッ!)


『て、てめぇは、キ、キチガイ王女!こ、この魔法陣は“隷属魔法”!!このダンジョンバトルは、お前達が黒幕だったんだな!!』


(≪鑑定マシン≫のあの表情ッ!最高ですわぁぁぁぁぁッ!)


「アッハッハァァ!!≪鑑定マシン≫、久しぶりですわね!そのとおりですわ!!この半年間準備に準備を重ねて、お前達を捕まえるための計画を練っていたのよ!管理していたダンジョンを使ってね!!でも、お前達が想像を遥かに遥かに上回る強さだから、焦りましたわ。ことごとく仕掛けた罠を台無しにしてくれたおかげで、こちらにもかなりの損害がでましたわ。先ほども、S級冒険者達を………って、エッ!!!!。」


…マジックジャマー(闇魔法)…

…アンチマジックフィールド(闇魔法)…


≪ハズレ≫が何かの魔法を発動すると、“隷属魔法陣”は消滅した。


(…へっ?れ、“隷属魔法陣”が一瞬で消えた?)


「“隷属の魔法陣”はすでに研究していて、対抗する方法はいくつか出来ているよ。高レベルの闇魔法で簡単に妨害できた時は拍子抜けしたけどね。あぁ、”嘆きの洞窟”のアンデッド達のおかげで闇魔法がレベルMaxになったから、広範囲の隷属無効化もできるようになったよ。ちなみに俺の仲間全員には、従魔も含めて反隷属装備をいくつも装備しているから、首輪や腕輪、結界型など他の隷属方法も無理と思ってもらった方がいい。ユニもモンタもクロンも“隷属魔法”には苦労させられてきたからね。対策はこれでもかというほどしてきているよ。…しかし、いままで散々好き勝手振る舞いやがって!覚悟は出来ているんだろうなッ!!!」


驚きのあまり暫く立ち尽くしてしまった。


(あり得ない…。“隷属魔法”が闇魔法に弱いという欠点があるなんて…。もういいわ!切り札のSS級冒険者達を使うわ!死んで後悔しなさい!≪ハズレ≫!)


「も、もう殺しても構いませんわ!待機させていた部隊を出しなさいッ!≪ハズレ≫ッ!!!覚悟なさい!待機させている部隊には、他国から呼んできたSS級冒険者もいますのよ!さぁ!早く転移させなさい!」


パリンッ!パリンッ!…………。


転移魔道具の消滅音がすると、転移魔法陣が展開されて、大量の人間の死体と無数の黒剣が現れた。


(あの死体の中にロプト公国の兵士がいる…、ま、まさか……!?)


「お、おかしいですわ…。他国から借り入れたSS級冒険者を含めた我が国の最高戦力が…。≪ハズレ≫ぇぇぇえ!!一体何をしたぁぁぁあ!!」


その瞬間、≪ハズレ≫の姿が消えたと思ったら、50人程の部隊の前方・後方両側から攻撃を受けた。


前方からは、おびただしい弓矢と巨大なゴーレム達、後方からは認識出来ない電撃と斬撃。次々に繰り出される攻撃に手も足もでない状態のまま壊滅していった。


…そして、最後に私一人となった。


私は、ようやく現状を理解し、帰還石で退却を試みた。


「ひぃぃぃ!!!そ、そんな…。お、覚えてなさい!退却よ!―帰還―」


足元に魔法陣が現れ光だした。しかし、目の前の黒目黒髪の子どもは無表情で告げる。


「逃げるんだったら、もっと早く逃げるべきだったね。」


…”マジックジャマー(闇魔法)”…


パリンッ!


(“隷属魔法陣”だけじゃなく、帰還石もキャンセル出来るの!?これじゃ、まるで…。)


「えっ!な…、なに!?帰還石が破壊…さ…れた…の…?一体なにが起こっているの?一体なにを相手に戦っているの?これじゃ、立場が逆じゃない。私達は狩る側で、アイツらは狩られる側の筈じゃない。なんで、私達が狩…ら…れ…て…い…る…の…よ……。い…や…さ…む…い………。」


…アイスコフィン…


「さようなら。」


…氷の棺の中で永久に意識を失った…

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