第4話 脱出

…気配遮断…


心のなかで念じると、コウスケの気配が消えた。


(正しい使い方かわからないけど、心のなかで念じるとスキルを発動できる。存在が薄くなったみたいな不思議な感覚だ。苦痛耐性のように常時自動発動するスキルと、気配遮断のように心のなかで念じて任意で発動するスキルがあるみたいだから注意しなくちゃな。思いがけず気配遮断スキルを手にいれたけど、このスキルは街を出た後のサバイバル生活だけでなく、街を出る時にも役立ちそうだ。)


「気配遮断スキルの一回当たりの持続時間は15分で、MP消費は無し。クールタイムは5分くらいかな。」


コウスケは、気配遮断スキルの検証を済ませると、人の流れから街の門の方向を予測しその方向に歩きだした。


移動するときには気配遮断スキルを使い、持続時間が過ぎると物陰で休む…を繰り返して、ようやく街の出口らしき場所にたどり着いた。


(さすがは城下町。予想よりも大きいな。)


街の出口には、長蛇の列ができており、門番が通行人の荷物検査を順番に行っているように見えた。そして、荷物の検査の後には通行料らしきものを徴収する姿も確認できた。


(街を出る時に金を取るのか?ひょっとしたら、街に入る時と出る時の両方から金をまきあげるかもしれないな。あのキチガイが王女なんだから、それくらいしそうだな。しかし、まずいな…金を持って無いから普通には出れないぞ。)


考え込んでいると、目の前に荷物を積んだ馬車が通りかかった。


(普通に出れないなら、馬車に忍び込んで脱出するしかないか……ん!?……この馬車には鎖で繋がれた人間が乗せられている………まさか奴隷ってやつか?)


「木を隠すには森か…奴隷達は檻に入れられているわけではないから、うまく馬車のなかに紛れればなんとかなるはず…やってみるか!」


……気配遮断……


気配遮断スキルを発動させ、ゆっくりと馬車に近づくと周りに気づかれないように静かに馬車の後ろから乗り込んだ。


馬車の中には、10人ほどの奴隷が乗っており、怪我をしていない者はおらず、みんな生気の抜けた表情をして俯いていた。馬車の御者席には、太った奴隷商人らしき人間とやる気の無さそうなチンピラ風の人間が乗っていた。


(…馬車の中はかなり酷いな。想像以上に奴隷の扱いが悪い…)


コウスケは、端にいた隻眼で緑髪の女奴隷の隣に座り、気づかれないように身を小さくした。


やがて、気配遮断スキルの持続時間が経過したが、その後も奴隷達に気づかれることはなかった。


(この奴隷達は、心も身体も壊れているのかもしれない…よっぽど劣悪な環境で生活させられたんだろう…。でも、俺にはどうすることもできない。同情はするが、最悪の場合、自分が助かるためにはこの奴隷達を置いて逃げるという選択肢をとらざるを得ない場面があるかもしれないから、覚悟を決めておこう。)


『門番さん、この馬車に乗っているのは廃棄用の奴隷達です。≪病気持ち≫も居やがるので、いまから森に棄てに行くとこでさぁ。』


声が聞こえる方向をチラリと見ると、奴隷商人と門番が話をしていた。≪病気持ち≫の奴隷の話をすると、門番は露骨に表情を変え、通行料を受け取ると、追い払うような仕草をして馬車から離れて行った。どうやら無事に通行できたようだ。


…≪病気持ち≫とはなんだろう…見た感じこのキレイな緑色の髪の子が一番健康そうだけど…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る