第12話

 シュティレは黒トカゲを鑑定をした後、カタカタと震え続けていた。

 まるで壊れたロボの様だ。やはりロボだったのか。


「おい、どうなんだ?」


 早く鑑定結果を言え。

 そういえば前の世界じゃ、壊れた機械は叩けば治ったな。


「……無理。絶対に人間じゃ勝てない」


 俺が今までシュティレに言われたことを思い出しながら、背後で拳骨を繰り出すために拳を振りかぶっていると、シュティレは目の青い光を消して反応した。

 ちっ、壊れてなかったようだな。


「あのドラゴンが……【四大災厄】終焉の黒龍……? 実在してるなんて……」


「あん? 【四大災厄】? 何だそれ?」


「……人間を滅ぼす脅威として太古から存在する伝説の四つの災厄。終焉の黒龍はその【四大災厄】の一角。歴史の中でも繁栄した国を何度も滅ぼしていて、人間が滅ぼされたという史実以外はない」


 ふむ、なるほど。

 つまり歴史上一度も人間は【四大災厄】に勝てなかった訳だ。

 やば過ぎるだろ。


「こんなステータスは初めて見た。Sランク冒険者すらアレにとっては子供扱い。あたし達は……リーベも逃げるしかない。逃げれたら、の話だけど」


 冗談じゃねぇ。

 シュティレが壊れてた方がマシだったな。

 人類最強の四人の内の一人のリーベすら子供扱いなんて、勘弁してくれ。


「歴史上でも数千年に一度しか現れていない【四大災厄】が何で……スペランツァに……?」


 シュティレがこれからどうするか思案している間に、俺はシュティレが呟いたことで、あることに気付く。



 …………ん……?

 ちょっと待てよ……。

 Sランク冒険者のリーベすら子供扱い……?

 歴史上でも滅多に現れない存在……?

 何でそんな存在が……今ここに……?


 俺はズボンのポケットに入った、唯一の俺の持ち物。

 神具、カウンターを手に取る。


 カウンターに表示された数字は『1』。

 俺の寿命は残り一日。






 まさか、【四大災厄】とやらが来たのは俺のせいか……!?






 カウンターが示す俺の寿命は今日。

 俺の体は健康そのものだが、アカリが正しいのなら、運命とやらで死ぬ。


 しかし、俺の間近にはSランク冒険者のリーベがいる。

 並大抵の運命とやらでは、簡単に俺を殺せはしないだろう。


 だから滅多に見ることのないはずの【四大災厄】とやらが……終焉の黒龍がスペランツァに来たんじゃないのか……?



 リーベが俺を守ったとしても、俺を確実に殺せる運命として。



 どうする……?

 リーベすら敵わない相手……スライム以下のステータスの俺に何ができる……?


 何も出来やしない。出来るはずがない。

 無惨に殺されて終わるだろう。

 

 この世界においてステータスは絶対であり、世界の理。

 スライム以下の俺が、あんな化け物をどうにか出来るはずがない。


 どう考えても逃げるのが得策だ。

 リーベとシュティレと共に逃げて、誰かを笑わして寿命を延ばすことができれば、この運命は変わるかもしれん。


 ……だが、リーベは逃げるのか?

 説得したとしても、リーベがスペランツァの住人を見捨てて逃げるとは到底思えない。


 俺にとっては関係ないヤツらだが、リーベにとっては街の人達は恩人だ。

 逃がす時間を稼ぐために、リーベは命懸けで闘うだろう。



 だからこそ、リーベは今も闘っている。

 俺を殺しに来た、運命とやらと。



 ――馬鹿か……俺は?

 リーベを助けるためにここに来たんだろうが。

 俺の寿命が呼んだ運命と関係ないリーベが抗う中、何を考えているんだ。

 逃げる? リーベの信念を曲げてまで?


 仮に逃げるのが上手くいったとしても、リーベはスペランツァの街の人達を捨てた罪悪感に一生苛まれるだろう。



 ――俺のせいで。



「……冗談じゃねぇ。この世界に来てからずっとリーベにケツをふかれっぱなしじゃねぇか……」


「…………? 何を言っているの?」


 シュティレは突然訳の分からないことを言い出した俺を、不思議そうに見てくる。

 そんなシュティレを無視して、俺は馬から降りた。


「……何をする気?」



 俺は『1』の数字が表示されたスキルカウンターを握りしめ――。



「……アカリのやつ。もしこれが使えん物だったら、死んだ後ぶん殴ってやる」



 この世界の神が作った神具を使えば、スライム以下のステータスの俺でもリーベを救えるかもしれない。

 そんな一縷の望みに賭け、戦闘が激化する戦場へと足を踏み入れた。

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