第3話

 どうやら俺がアカリに落とされた場所は、ラウネン国にあるスペランツァとかいう街の近くにある森らしい。


 聞いたこともない。間違いなく違う世界みたいだ。

 俺の学が足りんだけかも知れんがな。


 最弱の魔物、スライムに気絶させられ目覚めた俺は、俺を心配するリーベと共にスペランツァに入った。


 スペランツァは街全体を城壁で囲まれている、城郭都市。

 前の世界と違い、魔物に襲われるという危険があるため、だいたいの街がそうらしい。

 街の中を見る限り、文明レベルは中世ヨーロッパに近い感じがする。


 身分証を持たない俺が街に入れるかは疑問だったが、門番と知り合いのリーベがいることと、既に国内にいたこともあったのか、街にはすんなり入れた。


 リーベは冒険者というやつらしく、顔が広いみたいだ。

 門番がリーベを見て、えらく畏まってたのは気にはなるが――。



 現在俺には家も金も仕事もない。

 何をするにしても身分証が必要だということで、俺の冒険者登録をするために俺達は冒険者ギルドに向かった。

 冒険者には誰でもなれるらしく、身分証となる物もタダでもらえるらしい。


 冒険者ギルドに入ると、野蛮そうなヤツらが大勢おり、これから依頼を受ける者、依頼を終えて隣接された酒場で騒ぐ者、様々な活気がある。

 どいつもこいつも刃物持ってやがんぞ。


 そんな喧騒の中、俺はリーベに連れられ、冒険者登録をするため受付に向かった。


 受付嬢はボブカットの青髪の眼鏡をかけた小さい少女。

 座っているから正確にはわからんが、クソ神のアカリよりかは少しばかり肉体年齢は上に見える。

 それでもちっこいけどな。


 受付嬢に青髪が地毛なのか聞きたかったが、要件を済ませることを優先した。


「ご用件をどうぞ」


 青髪の少女は俺達を持ち前のジト目で眺め、事務的に受付の仕事を始める。

 仕事以外の雑談は私にするなという威圧的な空気を纏っていた。


 こんなんで受付が務まんのかよ。受付嬢のくせに、愛想もくそもないな。


「シュティレ、事務的過ぎだよ。友達なんだからもっと何かないの?」


「仕事は仕事。受付以外求めないで欲しい」


「相変わらずというか何というか……シュティレは小さい頃から変わらないね」


「ご用件をどうぞ」


 どうやら受付嬢はリーベの友人で、シュティレというらしい。

 野蛮な冒険者の相手をしているせいか、鋼のメンタルの持ち主のようだ。


「今日はね、こちらの一笑さんの冒険者登録をしに来たんだ。お願いできるかな?」


「分かった。このプレートにあなたの血をつければ、ステータスプレートとなる。能力を数値化し、表示する」


 シュティレはプレートとナイフをまたもや事務的に受付のテーブルに置いた。


 が、言っている意味がよくわからん。

 ステータスプレート?

 常識みたいに言うな。


 俺が腕を組みながら、珍品を見るかのような目でプレートを眺めていると、業務を円滑に進めたいシュティレは小さく舌打ちをした。


 聞こえたぞ、こら。

 何だってこの世界のガキは、こうもムカつくヤツらばかりなんだ。


「え……えっと! このステータスプレートを一笑さんの物にすれば、冒険者証になって身分証として使えるんですよ! ほら、こんな風に!」


 一触即発の俺達の空気を察したリーベは、シュティレに代わり説明を付け加え、自身のステータスプレートを俺に見せてきた。


 ---------------------


 リーベ 16歳 女 レベル:78/99

 HP:426/426 MP:520/520

 攻撃力:403

 耐久力:360

 敏 捷:840

 知 性:455

 幸 運:652

 スキル:【刀剣術・極】【風魔法・極】【オリジナル魔法剣術】【飛翔】【風障壁】【瞬歩】【危険感知】【風声】【生命力転換】【経験値四倍】

称 号:【疾風の戦姫】


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 これがステータスとやらか。

 前の世界で見たことがあるな。


 俺はゲームをやったことはないが、アル中の母親がたまに家でやっているのを横目で見た時に、似たような画面を見た。

 ゲームのキャラの強さを測るためのわかりやすい指標だ。


 ただ、この世界の基準がよくわからん。


「リーベは強いのか?」


「最強。世界に四人しかいないSランク冒険者の一人で、風魔法と刀剣術のスキルを極めたことから、【疾風の戦姫】という称号を持つ。速度はおそらく人類最速。小国なら単独で滅ぼせる」


 俺の疑問にシュティレが答えると、リーベは困ったような顔をした。


 つまりリーベは、前の世界基準なら人間国宝や五輪選手みたいなものか?

 どうりで街に入る時、顔パスに近かったわけだ。


「そう言われたりもしますが、そんなことはしませんよ!?」


 否定をしないということは、やろうと思えば国を滅ぼせるってことか。

 可愛い顔しといて、とんだ化け物じゃねぇか。


 しかし、この世界では人間をステータスとやらで丸裸にするのか?

 とんでもない世界だな。

 流石はアカリが神の世界だ。


 だが、身分証がないと今後困るのは間違いなさそうなので、俺はシュティレに渡されたナイフで左手の親指を切り、プレートに血を垂らした。


「これでいいのか?」


「はい、大丈夫です」


 プレートに数字が浮かび上がっていく。

 

 リーベは俺のステータスプレートを食い入るように見ており、シュティレも興味なさそうにしながらも、ちらちらと見ていた。

 この世界の人間にとっては気になる物なのだろう。


 俺はよくわからないので、とりあえず欠伸でもしておこう。


「はぅ!?」


「……え?」


「あん?」


 リーベとシュティレが素っ頓狂な声を上げたため、俺は二人を見る。

 二人は冷や汗を大量にかきながら、眼を見開いてこちらを見てきた。


 何だその目は。

 何かむかつくな、こいつらぶん殴ってやろうか。


「一笑さん……これ……は……」


「……見ておいた方がいい」


 二人がステータスプレートを見るように催促してきたため、俺も確認する。

 そこには、俺のステータスが表示されていた。


 ---------------------


 破顔一笑 19歳 男 レベル:1/1

 HP:10/10 MP:0/0

 攻撃力:1

 耐久力:1

 敏 捷:1

 知 性:1

 幸 運:1

 スキル:なし

称 号:【一撃必殺】


 ---------------------


「こんなの……どうやって生きていけば……」


「弱過ぎ。ぷぷぷっ」


 スライムに負けた時から薄々感じてはいたが、俺はどうやら最弱の魔物であるスライム以下のステータスらしい。

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