第13話 エヘッ! 13

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ!」

 おみっちゃんは茶店で看板娘としてアルバイトをしていました。

「おみっちゃん、しっかりキャンペーンも宣伝するんだよ。」

 おみっちゃんの雇い主の女将さん。

「はい! 今なら看板娘と戦って勝ったらお茶とお団子が無料ですよ! タダ!」

 茶店はキャンペーン中であった。

「私が挑戦しよう!」

 タダが嫌いな者はおらず、次々と挑戦者は現れる。

「私は天狗! おみっちゃん! いざ! 勝負だ! タダでお茶とお団子は頂いた!」

 新しい挑戦者が現れた。

「いいですよ。お相手致しますよ。そのかわり負けたら何でも言うことを聞いてもらいますからね。エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。さりげなく恐ろしい交換条件を出す。

「くらえ! 必殺! 竜巻!」

 挑戦者が必殺技で攻撃してくる。

「そんなもの! 私の歌でかき消してあげますよ!」

 おみっちゃんは歌を歌い出す。

「耳栓用意!」

 女将さんは耳栓をする。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「バカな!? 歌で私の攻撃がかき消された!? いったいどんな歌だよ!?」

 挑戦者はおみっちゃんの歌声に恐怖した。

「こんな歌です。エヘッ!」

 可愛い子ぶるエヘ幽霊。

「今度は私の番ですよ! 私の美しい歌を聞かせてあげましょう!」

 死の戦慄の間違いである。

「1番! おみっちゃん歌います! 曲は茶店の歌姫!」

 おみっちゃんが歌を歌い始める。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんのデスボイスは挑戦者の脳みそを破壊する殺人ソングである。

「参った! やめてくれ! 頭が割れて破裂しそうだ! 私の負けだ!」

 苦しんだ挑戦者は降参した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 大好きな歌が歌えて満足の茶店の歌姫のエヘ幽霊。

「あれ? 死んでる。」

 挑戦者はおみっちゃんの歌声にあの世を見た。  

「生きてるわい!」

 ツッコむために生き返る挑戦者。

「そうですね。あなたも皿洗いでもしてもらいましょう。エヘッ!」

 心優しいエヘ幽霊。

「え!? そんなバカな!? どうして私が!?」

 抵抗する挑戦者。

「負けたら何でも言うことを聞いてもらう約束ですよ。エヘッ!」

 笑っていれば許されるエヘ幽霊。

「さすが茶店の看板娘だよ。イヒッ!」

 タダ働きのアルバイトが手に入って大喜びの女将さん。


「私の出番が少ないないじゃないか?」

 女将さんがクレームを入れてくる。

「仕方がありませんよ。趣を大切にすると女将さんの出番はありません。エヘッ!」

 雇い主にも笑って抵抗エヘ幽霊。

「いいのかい? あんたの給料を減らすこともできるんだよ。イヒッ!」

 守銭奴な女将さん。

「私が悪うございました! それだけはご勘弁ください! 悪代官様! うるうる・・・・・・。」

 給料が減らされることには弱いおみっちゃん。

「誰が悪代官だ! 誰が!」

 おみっちゃんの相手をする女将さんの苦労は絶えない。

「可愛いから許してください。エヘッ!」

 無敵のエヘ幽霊。


「天狗と河童はどちらが強いんだろうね?」

 女将さんはふと思った。

「こういう時は二人に戦ってもらいましょう。」

 おみっちゃんは歌えばデスボイスで世界征服できてしまうので、他の人に戦ってもらうことにした。

「いくぞ! 強いのは私だ!」

「かかってこい! 返り討ちにしてくれるわ!」

 こうして二人は戦うことになった。

「くらえ! 必殺! 放水!」

 河童の攻撃。

「なんの! 必殺! 竜巻!」

 天狗の攻撃。

「ギャアアアアアアー!」

 天狗は倒された。

「河童の勝ち。やったー! 勝ったぞ!」

 大喜びの河童。

「悔しい! この屈辱は修行して必ず晴らしてやる!」

 復讐に燃える敗者。


「職業という概念や装備できる武器という概念を無くしたらどうでしょうか?」

 おみっちゃんのふとした疑問。

「全ての人間が全ての装備が使えて、魔法も使える。魔法剣士とは異なる新しい職業。それこそ全員すっぴん状態というのはいかがでしょうかい?」

 新しい提案をする。

「勇者も魔法使うし、魔法使いも魔法で剣を作り出すし、今の時代、職業なんて飾りであって、自由にやってるね。」

 女将さんは職業も装備できる武器もどうでもいい時代だという。

「何でもいいからキャラクターの数さえ増やせばいいんだよ。」

 細かいことにはこだわらない女将さん。

「そうですね。スマホゲームになってもガチャのキャラクターに困りませんね。エヘッ!」

 ちゃっかり課金ガチャで儲けることを考えているエヘ幽霊。

「さすがおみっちゃん。私の茶店の看板娘だよ。イヒッ!」

 銭勘定が大好きな女将さん。

「お代官様に似てきました。エヘッ!」

 まるで越後屋のエヘ幽霊。

「ワッハッハー!」

 笑いが止まらない女将さんとおみっちゃん。


「北斗の侍ケンザブロウは予想以上に面白いですね。」

 おみっちゃんも納得のできであった。

「モチーフからの新キャラクター作りを進めよう。面白いストーリーができるかもしれないよ。」

 始まりは単純である。

「ユリアはユリ姫。ラオウはラーメン・・・・・・? 私の剣は来々軒。私の刀は金平刀。」

 完璧ですね。

「ラオウは皇帝? 世紀末覇者? なんだか中国映画っぽいような。ラオ? ラウ? オウ。王さんだね。」

 ケンザブロウの舞台を中国にしよう。

「弟がトキは時で痔。南斗六星剣。」

 なんだろう? 何か星座モノの新しい話ができそうな気だけはする?

「逆に最強過ぎるおみっちゃんがいることが創作の全ての邪魔になっているような。」

 北斗神拳伝承者、聖闘士、るろうに剣心、孫悟空、麦わらよりもおみっちゃんは強い。

「え!? 私、歌を歌っているだけなんですけど!?」

 歌っているだけで最強という設定が面白い。

「努力や友情、修行、修練はしていない。ただデスボイスで歌っているだけ。」

 もう神にして葬った方が早いのではと思ってしまう。

「キリがないので、ここからは新キャラクターを作成して戦い続けてもらいましょう。」

 戦いの部分を全部消すと約6000字が3000字になった。キャラクター数が増えると会話も増えるのであり文字数が稼げることを再認識する。

「聖闘士星矢。聖闘士もすっぴんみたいなものですね。聖矢はスターアローさん。星でいいか。星飛雄馬みたいだ。ペガサスをとりあえずユニコーンにでも変えて、ペガサス流星拳をユニコーン流星剣、ユニコーン流星刀。」

 剣と刀は置き換えても違和感はない。

「それではいってみよう。エヘッ!」

 物事を簡単に考えるエヘ幽霊。戦いは略版です。


「星さんと河童さんの戦いです!」

 ドリームマッチが始まる。

「いくぞ!」

「負けるもんか!」

 二人の戦いが始まる。

「くらえ! 必殺! ユニコーン流星斬り!」

 星の攻撃。

「ギャアアアアアアー!」

 河童はやられた。


「星さんと天狗さんの戦いです!」

 ドリームマッチが始まる。

「いくぞ!」

「負けるもんか!」

 二人の戦いが始まる。

「くらえ! 必殺! ユニコーン流星斬り!」

 星の攻撃。

「ギャアアアアアアー!」

 天狗はやられた。


「ストップ!」

 おみっちゃんは戦いを止める。

「まだまだ続けられるんですが、省略版にして分かったのは、名前変えただけで一緒なんですよね。」

 まあ、スマホゲームの戦闘などスキップして経験値だけもらうのが一番良い。

「ケンザブロウさんや星さんがAとした場合。河童さんや天狗さんはEとかCでしょうから相手になりません。」

 オリジナルの新キャラクター優位である。

「やはり、ここは修行が必要ではないでしょうか? そうしないと幼気な子供たちが育成する楽しみ、勉強する努力を学べません。」

 もっともらしいことをいう。

「やはり話の主となる者がいる。一から成長していく物語にしないと盛り上がらないのか?」

 あかん。もう多作と比べるのをやめよう。キリがない。

「プレイヤーさんのアバター(主人公)を自由に強くして言ってもらおう。」

 これで冒険もの完成。

「一番困るのが茶店の歌姫の扱いだな。」

 そう。これはあくまで茶店の歌姫。不運なエヘ幽霊が歌姫を夢見る物語。

「茶店は宿屋か休憩場。若しくはチュートリアルを助ける司会進行。何らかの面白キャラ扱いが関の山。」

 歌っているだけだがおみっちゃんが想像より最強に強くなり過ぎた。

「そこから物語を構築しよう。」

 新しく考えるとなるとオチのドリームマッチは要らないんだね。

「でも、これ、おみっちゃんを女神設定にすると異世界転生モノとストーリーの始め方が一緒なんだよね。」

 気にせず前に進もう。


「ようこそ! 茶店の歌姫へ! エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊が出迎えるオープニング。

「それではまずあなたの名前を決めてね。」

 これで主人公の名前を決める。

「ようこそ! 翔平!」

 名前は33号ホームランを打った大谷翔平から頂いた。キャラクターの名前を決めるのに時間をかけても仕方がない。

「私の名前はおみっちゃん。茶店でアルバイトをしています。夢は江戸で歌姫になることです! エヘッ!」

 夢を果たせないまま現在まで存在している地縛霊のエヘ幽霊。

「あなたの仕事は茶店で美味しいお茶とお団子を作ることで・・・・・・はなく、茶店に迫りくる凶悪な挑戦者と戦い茶店を守ることです。」

 要するにおみっちゃんが戦うと全員をデスボイスで歌殺してしまうので、その役目を主人公に任せるということです。

「体力の回復は茶店でお茶とお団子を買ってください。」

 あくまでもタダではないのだ。

「武器や防具は敵を倒してドロップして下さい。」

 単純なシステムである。

「仲間は敵と交渉してください。」

 システムは単純である。

「後は自由に強くなってください。以上!」

 ザックバランな説明である。

「そんな説明で分かるかよ!?」

 翔平の第一声である。

「私が可愛いから許してね。エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。

「マジか!?」

 こうして翔平の物語は始まる。


「私はおみっちゃんです。こっちは茶店の女将さんです。」

 おみっちゃんは女将さんを紹介する。

「私のモット―は、働かざる者食うべからずだよ。分かったらさっさと茶店の用心棒をやっておくれ。さもないとご飯は食べさせないよ。」

 女将さんは守銭奴である。

「そ、そんな!? 分かりましたよ。戦えばいいんでしょ。戦えば。」

 こうして翔平は戦うことになった。

「あの、何か武器はないんですか?」

 翔平は尋ねてみた。

「ない。自分で敵を倒してお宝を集めるんだよ。」

 冷たい女将さん。

「ちなみに女将さんの宝物庫には聖剣エクスカリバーとか、北斗神剣とか、ペガサス流星剣とか、来々剣とか、金平刀とか、伝説の武器が山の様にありますよ。エヘッ!」

 エヘ幽霊のプチ情報。

「それ貸してくださいよ!? 良い武器があるじゃないですか!?」

 翔平はキレる。

「バカ野郎! 甘ったれるんじゃいよ! 他人の力で勝って何になる? 自分の力で勝つことに意味があるんだよ!」

 女将さんのためになる一言。

「はい。分かりましたよ。ブー!」

 いじける翔平。

「こうなったらやってやる! 強くなって見返してやる!」

 翔平は燃えた。

「かかってこい! スライムでもゴブリンでも相手になってやる! ギタギタに倒してやるぜ!」

 戦闘の始まりは雑魚と決まっている。

「ガオー!」

 そこにみるからにヤバそうなのが現れる。

「ギャアアアアアアー!? 殺さないで下さい!? 僕が悪かったです! 許してください!」

 一瞬でビビる翔平。

「最初の敵がスライムだとは限らないのだよ! エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。

「その人は神龍さんです。ギタギタに倒してくださいね。エヘッ!」

 不可能を可能にしろというエヘ幽霊。

「神龍さん。殺さない程度に遊んであげてください。」

 おみっちゃんは神龍にお願いする。

「分かりました。おみっちゃん。」

 おみっちゃんに従う神龍。

「なぜだ!? なぜ神龍が茶店の看板娘如きに頭を下がるんだ!?」

 翔平は疑問を感じた。

「控えおろう! このお方をどなたと心得る! 人間界! 魔界! 天界! おまけに全宇宙を支配するエヘ幽霊様であるぞ! 頭が高い! 控えおろう!」

 神龍は丁寧に説明する。

「はあっ? うそ~ん。」

 信じない翔平。

「私、実は偉いんです! エヘッ!」

 全ての支配者のエヘ幽霊。

「私はこの子の師匠だよ。イヒッ!」

 女将さんは全ての支配者の師匠であった。

「どんな茶店だよ?」

 呆れる翔平。

「まだ信じないんですね。神龍さん。少し懲らしめて下さい。エヘッ!」

 非情な命令を下すエヘ幽霊。

「かしこまりました。死の手前で止めておきます。」

 日本語が難しい神龍。

「こうなったら破れかぶれだ! えい! 翔平パンチ!」

 初戦、更に武器もないので翔平は神龍にパンチした。

「ギャアアアアアアー! 腕が砕ける!?」

 神龍の鱗は固いので殴った将兵の拳の方が痛かった。

「あれま。攻撃する前に自滅しちゃいましたね。エヘッ!」

 私は関係ありませんという顔をするエヘ幽霊。

「まあまあ、神龍さん。せっかくだから美味しいお茶とお団子を食べていってくださいよ。エヘッ!」

 これでも茶店の看板娘のエヘ幽霊。

「はい。ありがたくいただきます。エヘ様。」

 忠実な神龍。

「美味しい!」

 こうして神龍は美味しいお茶とお団子を頂いて楽しい時間を過ごした。

「はい! 1億円です! イヒッ!」

 女将さんは本気である。

「そんなお金がある訳ないじゃないですか!? これじゃあ北新地のぼったくりバーより酷いじゃないですか!」

 泣き寝入りするしかない神龍。

「二度と来るもんか! ウエ~ン!」

 神龍は泣きながら帰って行った。

「女将さんの方が神龍よりも強いのか・・・・・・。女将さんに歯向かうのはやめよう。」

 命を大切にしようと思った翔平。

「あれ? 忘れものかな?」

 神龍が何かを忘れていった。

「おお! すごい! 翔平さん! ドロップですよ! ドロップ! 神龍さんからドロップですよ!」

 翔平は神龍のお宝をゲットした。

「え・・・・・・ただの忘れ物なんですが?」

 忘れ物のことをドロップと呼ぶ。

「忘れ物を神龍に返さないと。」

 真面目な翔平。

「いいんですよ。返さなくて。拾った人のものですよ。エヘッ!」

 置き引きは立派な犯罪です。エヘッ!

「これは!?」

 忘れ物は立派な剣だった。

「それは神龍の刀だね。あんた、いきなりついてるね。神レベルの伝説の武器を手に入れたんだよ。」

 女将さんがアイテムを品定めしてくれる。

「すごい! 神龍刀! 力が漲ってくるぞ!」

 攻撃力1から攻撃力200くらいになった翔平。

「私に寄こしな。質屋に持っていいって銭と交換するから。」

 守銭奴な女将さん。

「嫌ですよ。これは俺の刀なんですから。」

 抵抗する翔平。

「私の茶店の客が落としていったんだよ。私の物になるに決まっているだろ。客の物は私の物だよ!」

 ジャイアン思想な女将さん。

「嫌です! この刀は俺の物です!」

 逃げる翔平。

「コラ待て! 小僧!」

 追いかける山姥の女将さん。

「待ちません!」

 しかし翔平は止まらない。

「落し物は交番に届けようね。エヘッ!」

 自分だけ良い子になりたいエヘ幽霊であった。

 つづく。

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