第3話 エヘッ! 3

「燃えろ! 俺のサムライ・スピリット! ウオオオオオー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 闘志を燃やすユウ。

「ガオー!」

 この世には邪悪な落ち武者たちが溢れて暴れていた。

「私の名前はおみっちゃん! 夢は江戸で歌姫になることです! エヘッ!」

 伝説の歌姫の侍が現れて邪悪を倒す物語である。


「武者修行に行け。」

 いきなりの女将さんからの無理難題。

「武者修行!?」

 ユウはいきなりのことで驚く。

「まずは自分の住んでいる近所の侍と戦っておいで。自分の実力がよく分かるよ。」

 女将さんはユウに腕試しを進める。

「おお! 強い奴と戦って俺のレベルを上げまくってやるぜ!」

 ユウは武者修行に出かけることにした。

「じゃあ、マーケティングに行ってきますね。エヘッ!」

 ユウの後を追いかけていくエヘ幽霊。

「おお。分かってるじゃないかい。ユウの様子を見ながら、しっかり茶店の支店を出す店を探してくるんだよ。イヒッ!」

 タダでは武者修行に行かせない女将さん。

「は~い。私は可愛いから大丈夫ですよ。エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。


「俺の住んでいる所は渋谷区渋谷だからセンター街にでも行ってみるか。」

 ユウはセンター街に行くことにした。

「おお。茶店の出店場所には人通りの多くていい所だよ。ユウさんは才能が有りますね。エヘッ!」

 なんの才能があるのかは理解していないエヘ幽霊は物陰からユウを尾行する。

「あ、私は幽霊だから隠れる必要はないのか。役得! 役得! エヘッ!」

 壁もすり抜けられるエヘ幽霊。

「ここがセンター街の入り口か!? 治安が悪そうだな。」

 渋谷のセンター街は不良のたまり場である。

「キャアアアアアアー!」

 その時、センター街から悲鳴声が聞こえる。

「助けてくれ! 落ち武者が出たぞ!」

 センター街に落ち武者が現れた。

「落ち武者だと!? 俺が退治してやる! 落ち武者狩りだ!」

 ユウはセンター街の中に駆けて行く。

「ガオー!」

 センター街では落ち武者が何人もの通行人を倒していた。

「やめろ! 落ち武者! 俺が相手になってやる!」

 ユウは落ち武者に立ち向かう。

「いでよ! 渋谷の鎧!」

 ユウは鎧を呼び出し体に装着していく。

「渋谷侍! 見参!」

 ユウは鎧を装着した。

「た、助けてくれ! 死にたくないよ!」

 若者が落ち武者に倒された。

「ギャアアアアアアー!?」

 若者の様子が少し変だ。

「大丈夫か!?」

 心配するユウ。

「ガオー!」

 若者は落ち武者に生まれ変わった。

「なんだって!? 人間が落ち武者になった!? これはどういうことだ!?」

 その光景にユウは驚いた。

「落ち武者は人間の荒んだ心から生まれるのさ。」

 そこに一人の侍が現れる。

「侍!? おまえは何者だ!?」

 ユウは名前を尋ねてみた。

「私は宇田川侍のウダ。あなたは?」

 侍は宇田川の鎧を持つウダというものだった。

「俺はユウ。渋い谷の侍だ。」

 素直に自己紹介するユウ。

「人間が落ち武者になるとはどういうことだ?」

 ユウは素直に分からないことを尋ねてみた。

「人間が暴力やいじめ、大学受験失敗、就職浪人、離婚などの辛いことを経験して希望を失くして人生が終わったと諦めて生気が無くなった時に落ち武者に変身しているみたいだ。」

 落ち武者が生まれる驚異のメカニズム。

「なんだって!? それじゃあ落ちこぼれの集まる渋谷なんかは落ち武者の量産工場じゃないか!?」

 恐るべし! センター街!

「そんな落ちこぼれから人々を守る為に私は侍になることを望んだのだ。私が落ち武者を成敗しまくる!」

 ウダは正義に燃える熱い男だった。

「いいね。俺も手を貸すぜ。」

 ユウも落ち武者と戦う。

「ありがとう。ユウ。」

 感謝するウダ。

「礼はこいつらを倒してから言ってくれ。いくぞ!」

 ユウは感謝されるのは慣れていないので照れる。

「おお!」

 ウダたちは落ち武者に斬りかかる。

「ギャアアアアアアー!」

 落ち武者たちはユウたちに倒されていく。

「でい! であ! であ!」

 意外に脆い落ち武者たち。

「この調子なら楽勝だな。」

 余裕なウダ。

「油断するな。きっと、ここらでボスの時間だ。」

 竜侍にやられたことのあるユウは慎重な男になっていた。

「おまえたちか? 私の邪魔をしているのは。」

 そこに新たな侍が現れる。

「何者だ?」

 ウダは尋ねてみた。

「私は魔王トロ様から宇田川町の侵略を任せられたスライム侍のスライムだ! 人間を滅ぼして人間界も魔王様が支配するのだ! ワッハッハー!」

 現れたのはスライム侍。

「そうはさせるか! 俺が相手だ! ウオオオオオー!」

 スライム侍に襲い掛かるユウ。

「くらえ! 面! 胴! 突き!」

 ユウは連続攻撃を繰り出す。

「そんな緩い攻撃を食らうものか!」

 スライム侍は簡単にユウの攻撃を避ける。

「なに!? 俺の攻撃がかわされただと!?」

 意外なユウは戸惑う。

「本物の侍の攻撃という奴を教えてやろう! くらえ! スライム斬り!」

 スライム侍は必殺の一撃を放つ。

「ギャアアアアアアー!」

 スライム侍の攻撃が命中して吹き飛ばされるユウ。

「ユウ!?」

 心配するウダ。

「見たか。これが侍の攻撃というものだ。ワッハッハー!」

 勝ち誇るスライム侍。

「今度は私が相手だ!」

 ウダがスライム侍に戦いを挑む。

「こい。おまえ如きでは私の相手にならないだろうがな。」

 スライム侍はただ立って待ちかまえている。

「くらえ! 必殺! 宇田川斬り!」

 ウダは必殺技でスライム侍を攻撃する。

「フッ。これが攻撃? これなら蚊が刺した方がマシだ。」

 スライム侍は微動だにせずスライム侍の攻撃を受け止める。

「バカな!? 侍の私の攻撃が効かないなんて!?」

 攻撃が効かず動揺するウダ。

「私の鎧は魔王様のご加護がある。そんな石ころが当たった程度の攻撃では私に傷一つつけることはできない。」

 スライム侍の鎧は魔王トロの力で強かった。

「私が冥土に送ってやろう。スライム斬り!」

 スライム侍が攻撃する。

「ギャアアアアアアー!」

 ウダもスライム侍の攻撃を受けて吹き飛ばされる。

「これが人間界の侍か。弱い弱すぎる。これだと魔王様が人間界を支配するのは時間の問題だな。ワッハッハー!」

 機嫌の良いスライム侍。

「それはどうかな?」

 ユウが立ち上がる。

「何!? バカな!? 私のスライム斬りを食らって起き上がれるはずがない!?」

 今度はスライム侍が動揺する。

「俺は生死の境で歌姫の歌を聞いたんだ。」

 ユウは茶店の歌姫の侍である。


「なかなか茶店が出店できそうな良い立地がないな。」

 その頃、おみっちゃんは茶店の出店場所を探していた。

「あ、忘れてた。ユウさんはどうしてるかな? エヘッ!」

 ユウのことを思い出したエヘ幽霊。

「ああー!? いつの間にユウさんが地面で寝転がっている!? こんな所で寝たら風を引きますよ。エヘッ!」

 ユウを心配するエヘ幽霊。

「ここは私の歌で起こしてあげましょう! エヘッ!」

 実は大好きな歌を歌いたいだけのエヘ幽霊。

「1番! おみっちゃん歌います! 曲は元気だぜ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でゴットボイスの持ち主であった。


「く・・・・・・クソッ・・・・・・俺はこのまま死ぬのか・・・・・・もう俺はダメなのか。」

 虫の息のユウ。

(ユウさん。ユウさん。)

 どこからかおみっちゃんの声が聞こえてくる。

「おみっちゃん!?」

 ユウはおみっちゃんの声に気づく。

(ユウさん。こんな所で諦めるのですか? あなたは困っている人を助けるために侍になったのでしょ。あなたは魔王を倒し世界を平和に導くのです。こんな所で眠っていてはいけません。)

 おみっちゃんはもっともらしい言い方で野宿を注意する。

「そうだ。俺は魔王を倒し、世界を平和にするんだ。人々の笑顔のために! ウオオオオオー!」

 ユウに再びサムライ・スピリットが燃え上がる。


「こい! スライム侍! 俺にスライム斬りを打ってこい!」

 ユウはスライム侍を挑発する。

「いいだろう。今度こそ地獄に送ってやる! スライム斬り!」

 スライム侍は必殺技で攻撃する。

「見える! 見えるぞ! 俺には奴の攻撃がはっきりと見えるぞ!」

 ユウはスライム侍の攻撃を見切って避ける。

「何!? 私の攻撃が避けられただと!? 信じられん!? たかが人間如きに!?」

 スライム侍は攻撃をかわされショックを受ける。

「これはどういうことだ!? さっきまで弱弱しかった人間のサムライ・スピリットが強大に大きく燃え上がっているだと!?」

 スライム侍はユウのサムライ・スピリットの高鳴りに戸惑う。

「分かるまい! スライム侍! 人間をゴミとしか思っていないおまえには、人間の誰かを思う心や守りたいと思うかけがえのない心が俺に力を与えてくれるんだ!」

 決しておみっちゃんの歌声とは思わないユウ。

「なんだ!? この圧倒的なサムライ・スピリットは!? 私を圧倒しているとでもいうのか!?」

 まだ現実を受け入れられないスライム侍。

「いくぞ! スライム侍! これが俺の必殺技だ! くらえ! 渋谷斬り! でやあー!!!!!!!!!!!!」

 ユウは必殺技を繰り出す。

「ギャアアアアアアー!」

 ユウの攻撃はスライム侍を吹き飛ばした。

「やったー! 勝ったぞ! 俺の勝ちだ! 俺でも勝てたんだ!」

 大喜びのユウ。

(バカな・・・・・・人間のどこにあんな強い力があるというのだ?)

 スライム侍は死にかけていた。

「ユウさん。スゴイですね。魔王の手下を倒せましたね。エヘッ!」

 遅れて現れるエヘ幽霊。

「おみっちゃん。見てくれた? 俺の活躍を。アハッ!」

 ユウは自分の活躍を見せびらかす。

「はい。すごい。すごい。エヘッ!」

 ユウを褒めるエヘ幽霊。

(あれは!? 元魔王の歌姫!? そうか人間に手を貸しているのか・・・・・・通りで奴のサムライ・スピリットが強くなったはずだ・・・・・・このことを魔王様に伝えなければ・・・・・・。)

 スライム侍は体から小さなスライムを切り離し魔界に逃がした。

「あれ? こっちにも誰か倒れていますよ。」

 おみっちゃんはウダを見つけた。

「そいつは宇田川侍のウダ。俺と一緒にスライム侍と戦ったんだけど、もう助からないかな。」

 ダメージが大きくウダの命は尽きようとしていた。

「悔いはない・・・・・・私は自分にやれるだけのことはやったのだから・・・・・・。」

 ウダは満足そうに死のうと思っていた。

「死ぬのはまだ早いですよ。」

 おみっちゃんは紙を一枚取り出す。

「ここに署名をして下さい。そうすればあなたは私の加護を受けることができるようになり命が助かります。」

 それは茶店の宇田川店の店長になるという雇用契約書だった。

「この人は救世主だ。なんて暖かい温もりなんだ。」

 死にたくなかったウダは喜んで契約書にサインする。

「ありがとう。ウダさん。私はおみっちゃん。これからもよろしくね。」

 自己紹介するおみっちゃん。

「はい。おみっちゃん。私はあなたに忠誠を誓います。」

 こうしてウダも茶店の歌姫の侍になった。

「やったー! これで宇田川町の茶店も出店できる! 女将さんに怒られなくて済むぞ! エヘッ!」

 自己利益しか考えていないエヘ幽霊。


「おかみさん! 宇田川町の出店が決まりましたよ! エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「さすがおみっちゃん! 我が茶店の看板娘だよ! これでガッポリ儲かるね! イヒッ!」

 守銭奴な女将さん。

「これで私の給料もアップだー! 記念に歌わせていただきます!」

 おみっちゃんは大好きな歌を歌おうとする。

「ストップ! それはやめておくれ。地球が崩壊しちゃうよ。やめないとお給料を下げるよ? それでもいいのかい。」

 しっかりと釘をさす女将さん。

「は~い。やめます。だからお給料を下げないで下さい。エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。

「頑張ってお皿を洗うぞ! これも強い侍になるための修練だ! 燃えろ! 俺のサムライ・スピリット! ウオオオオオー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 無駄にサムライ・スピリットを燃やすユウであった。

「本当に皿洗いは強い侍になるために必要なのだろうか?」

 研修に来ている新人アルバイトのウダであった。

 つづく。

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