第2話 エヘッ! 2

「奈落の神!? タルタルソース!?」

 ユウは勉強が苦手だった。

「タルタロスだよ! 渋い谷の守り神なんだからね! 失礼な言い方はよしておくれ!」

 ツッコム女将さん。

「他に風の谷の神ナウシカなんていう谷神もいますよ。エヘッ!」

 物知りなエヘ幽霊。

「あんたは黙っときな。話がややこしくなる。」

 怒る女将さん。

「は~い。エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「で、どこに行けば会えるんですか? そのタルタルソースに。」

 他人の名前が覚えられない頭の弱いユウ。

「考えるより動けだね。どうせ、言っても分からないだろうから行っといで。えいっ。」

 女将さんは奈落の入り口をユウの足元に呼び出す。

「え? ギャアアアアアアー!」

 ユウは奈落に落ちていった。

「行ってらっしゃい~! お土産を待ってますよ! エヘッ!」

 笑顔で見送るエヘ幽霊。

「あいつ、生きて帰ってくるかね?」

 女将さんは半信半疑。 

「知りません。エヘッ!」

 笑っていると可愛いエヘ幽霊。

「まあ、これで帰って来れないんなら、それまでの男ってことだね。」

 女将さんはユウを試していた。

「おみっちゃん。ほどほどして帰って来なかったら奈落まであいつを迎えに行っておくれ。」

 女将さんはおみっちゃんにユウを迎えに行くように言う。

「ええー!? 私ですか!?」

 キラーパスに驚くおみっちゃん。

「たまには自分で迎えに行ってくださいよ!」

「30円ボーナスを出すから。」

 女将さんはお金でおみっちゃんを釣る。

「はい! 行きます! 行かせてください!」

 見事に釣られるおみっちゃん。

「ちょろ幽霊。イヒッ!」

 女将さんは海老で鯛を釣る。

「やったー! ボーナス! ボーナス! エヘッ!」

 大喜びのエヘ幽霊。

「上がってくるな! 上がってくる! 私が迎えにいくまで上がってくるな!」

 念を送るおみっちゃん。

「あんた。何をやっているんだい?」

 女将さんは尋ねてみた。

「呪っています。これもボーナスのためです。エヘッ!」

 幽霊だけに呪うのは専門分野のエヘ幽霊。

「長生きするよ。」

 呆れる女将さん。

「いいえ。もう死んでますよ。エヘッ!」

 幽霊の自覚がないエヘ幽霊。

「はいはい。お団子の仕込みでもやって来るかね。」

 女将さんはお手上げで去って行った。


「ここはどこだ? 真っ暗だ。これが奈落なのか。」

 ユウは奈落にやって来た。

「誰だ? なぜ奈落にやって来た?」

 どこからか声が聞こえてくる。

「俺はユウ。渋い谷の侍だ。俺は強くなるためにやって来た。おまえがタルタルソースか?」

 自己紹介するユウ。

「誰がタルタルソースだ!? 私は奈落の神タルタロスだ!」

 奈落の神タルタロスは姿は現さない。

「谷の字を持つ侍か。おまえはどうやって冥界よりも深くにある奈落にやって来たのだ?」

 質問するタルタロス。

「茶店をやっている女将さんとおみっちゃんに落とされて来たんだ。」

 これは事実である。

「なに!? 渋い谷の茶店の守銭奴とエヘ幽霊か!?」

 タルタロスは女将さんとおみっちゃんを知っていた。

「あの二人を知っているのか?」

 尋ねるユウ。

「当たり前で。私の奈落を宝物庫代わり使うお金の亡者の女将と極度の音痴でデスボイスの持ち主のエヘエヘ笑っている気持ち悪いおみっちゃんのことだろう。」

 散々な言い様であるが正解である。

「あの二人って有名人なんだな。」

 感心するユウ。

「おまえはどうして強くなりたいんだ?」

 タルタロスは尋ねる。

「実は俺の住んでいる世界に侍が現れて暴れているんだ。そいつらには化学兵器は効かないで侍でしか倒せないんだ。だから俺は強い侍になって、みんなを守るんだ。」

 ユウ100点満点の回答。

「おまえは知っているのか? 人間界に侍が現れた原因が女将とエヘ幽霊にあることを。」

 侍が現れたのは女将さんとおみっちゃんに責任があった。

「それはどういうことだ?」

 ユウはタルタロスに尋ねてみた。

「可哀そうに。そんなことも知らないであの悪魔の二人にいいように操られていたのか。」

 ユウに同情するタルタロス。

「教えてくれ。タルタロス。なぜ俺の世界に侍が現れるようになったのか。」

 ユウはタルタロスに頭を下げる。

「あれはまだエヘ幽霊が人間界、魔界、天界の3世界を治める地球の支配者だった頃の話だった。」

 エヘ幽霊はかつて地球の支配者だった。

「ええー!? あいつそんなに偉かったのか!?」

 ユウはおみっちゃんが元地球の支配者だと知り驚く。

「だが宇宙の支配者のカミラス星のテスラー総統が現れて地球に宣戦布告をして地球の侵略を始める。」

 地球に敵がいなくなったので宇宙から侵略者を迎えたのだった。

「そして女将は茶店の宇宙支店のフランチャイズ出店に乗り出し、エヘ幽霊は反撃に出て宇宙戦争に突入する。」

 おみっちゃんの次なる敵は宇宙人だった。

「なぜに妖怪が宇宙戦争を!?」

 ユウは疑問に思った。

「最終的に女将は宇宙にお茶とお団子の茶店を出しまくり丸儲け。エヘ幽霊はエヘエヘ星人として全宇宙を支配する歌姫になったのだ。誰もエヘ幽霊の歌声の前では歯向かうことはできない。」

 壮大な宇宙戦争が繰り広げられたのだった。全宇宙の支配者カミラスの科学力を打ち破ったのは、巨大妖怪ロボットではなく、おみっちゃんの極度の音痴でデスボイスであった。それが真実である。

「全宇宙をおみっちゃんが支配したんだろう。それなら問題はないじゃないか?」

 ユウは疑問に思う。

「甘いな。ところがどっこい。エヘ幽霊が地球を離れている間に空っぽになった魔界に新しい魔王トロが現れて支配してしまったのだ。」

 おみっちゃんが宇宙に入り間に魔界がトロに支配されてしまったのだ。

「まさか!?」

 嫌な予感しかしないユウ。

「そのまさか! エヘ幽霊が宇宙に出かけなければ新しい魔王など誕生しなかったのだ! 新魔王がいなければ人間界に侍が現れることも無かったのだ!」

 残酷な真実である。

「なんですと!? では! では! 侍が現れたのは女将さんとおみっちゃんが原因だったのか!?」

 ユウは驚愕するしかない。

「可哀そうに。ある意味でおまえも被害者だ。」

 ユウに同情する奈落の神。

「俺の気持ちを分かってくれるのがタルタルソースだけなんて。シクシク。」

 ユウは泣けてくる。

「これから新魔王を倒すまで、おまえは茶店の歌姫の侍として様々な侍と戦い続けることになるだろう。」

 タルタロスはユウのこれからの人生に待ち構える苦難を教えてくれる。

「俺は生き残るため、立派な侍になるために、困っている人を守れるように強くならなければいけないんだ!」

 修行のために奈落に来たことを思い出しユウの闘志が燃え上がる。

「いいだろう。面白い奴だ。修行をつけてやろう。」

 タルタロスはユウを気にいった。

「ありがとう。タルタルソース。」

 感謝するユウ。

「俺と戦ってくれるのか?」

 ユウはタルタロスと戦うと思っている。

「私ではない。私は奈落の神侍。おまえとでは私とレベルが違いすぎて話にならない。」

 レべチな存在の奈落の神。

「おまえの相手をするのはこいつだ。」

 どこからか一人の侍が現れる。

「こいつは奈落の侍。この奈落の雑魚だ。だが、初心者侍のおまえには丁度いい相手だろう。」

 奈落侍がユウの相手をすることになった。

「なめやがって! 俺を舐めていると痛い目に合わせてやる!」

 ユウの侍魂が燃え上がる。

「でい!」

 ユウが刀で奈落の侍に斬りかかる。

「あれ? どういうことだ!? 俺は確かに斬ったはずなのに!?」

 しかし奈落の侍は影を斬ったかのように手応えが無かった。

「舐めているのはおまえの方だ!」

 奈落の侍が反撃してくる。

「ウワアアアアアー!?」

 直撃の所を間一髪で避けるユウ。

「俺は奈落の侍アビス。おまえ如きへなちょこ侍が俺を倒せるものか。」

 奈落の侍アビスが現れた。

「へなちょこだと!?」

 バカにされて逆上するユウ。

「そうだ。へなちょこだ。俺が本物の侍というものを教えてやる。」

 仁王立ちするアビス。

「クソッ! バカにしやがって! 俺の本気を見せてやる!」

 ユウはアビスに攻撃をする。

「必殺! 面! 胴! 突き!」

 ユウは自分の最大の必殺技で攻撃する。

「フン。」

 刀も出さないでユウの攻撃を避ける奈落の侍。

「バカな!? 俺の攻撃が効かないなんて!?」

 さすがのユウも堂々と必殺技をかわされてショックを受ける。

「その程度の実力でよく奈落まで来る気になったな。」

 正確には女将さんに奈落に落とされただけだった。

「おまえ程度の力では奈落から脱出することは不可能。この暗い奈落で彷徨い続けることになるんだ。」

 アビスは容赦ない。

「メイドの土産におまえに俺の必殺技を見せてやろう。」

 刀を構えるアビス。

「必殺! 奈落斬り!」

 アビスはユウを斬り捨てる。

「ギャアアアアアアー!」

 ユウは深い暗い底を彷徨うことになった。


「おみっちゃん。そろそろ迎えに行っといで。貴重なバイト君だからね。イヒッ!」

 正確には無償で働く鴨である。

「は~い。行ってきます。ボーナス! ボーナス! 30円のボーナス! エヘッ!」

 ボーナスという言葉に踊らされているエヘ幽霊。

「底の底で泣いてる姿が目に浮かぶね。イッヒッヒッー!」

 女将さんの笑い声が不気味に響き渡る。


「嫌だ! やめてくれ! 勉強なんか大っ嫌いだ!? Aってなんだ!? Bはどこからやって来た!? Cは俺を殺すというのか!?」

 ユウは奈落で目に見えない自己の恐怖と戦っていた。

「助けてくれ! 誰かここから出してくれ! ウオオオオオー!」

 発狂するユウ。

「知らなかった・・・・・・こんなにも暗闇が怖いものだとは・・・・・・俺はこのまま生きる屍の様に永遠に奈落を彷徨うのか・・・・・・これなら死んだ方がマシだ・・・・・・。」

 何もできない、分からない、見えない世界でユウの闘志は消え失せていた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 その時、どこかからか奈落に極度の音痴でデスボイスが聞こえ暗闇にヒビが入る。

「眩しい!? 暗闇に光が!?」

 ユウの目は長い間暗闇にいたので光が痛かった。

「なぜだろう。光が懐かしくて、とても心が温かくなる。」

 ユウはどん底の中に救いを感じる。

「おお! 生きてたんですね! エヘッ!」

 奈落に現れるエヘ幽霊。

「おみっちゃん!? どうやって奈落に?」

 ユウはおみっちゃんの登場に驚く。

「私と女将さんはタルタロスさんのお友達なのでフリーパスです。エヘッ!」

 奈落の神ともお友達のエヘ幽霊。

「それならそうと早く言って!」

 ユウはおみっちゃんに抗議する。

「可愛いから許して。エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。

「さあ、お茶とお団子の茶店の奈落支店の店長に会いに行きましょう。」

 おみっちゃんがユウを助けたのはついでである。

「奈落にも茶店があるのか!? いや、違う! 俺を助けに来たんじゃないのか!?」

 一人ボケができるユウ。

「行けば分かりますよ。エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。


「ご無沙汰しています。タルタルソースさん。エヘッ!」

 奈落の神に挨拶するエヘ幽霊。 

「誰がタルタルソースだ!?」

 遂におみっちゃんにまでタルタルソース扱いされる奈落の神。

「ユウさんの喋り方がうつっちゃった。エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。

「話は変わりますが、ユウさんを私の侍として鍛えてくれないと困るじゃないですか。」

 おみっちゃんは奈落でユウが強くなると思っていた。

「知るか。こいつが弱すぎるんだ! 歌姫の侍になんかなれる訳がない。」

 奈落の神は言い捨てる。

「酷い! そんなことを言っていいんですか? 冥王ハーデースでも壊せない奈落を私の歌で破壊しますよ。そしたらあなたはかくれんぼうができなくなりますよ。それでもいいんですね?」

 脅しにかかるエヘ幽霊。

「また壊すと言うんですか!? それだけは勘弁してください。私、住む所が無くなってしまいます。」

 おみっちゃんは以前に歌を歌って奈落を滅ぼしたことがある。

「分かってくれればいいんですよ。エヘッ!」

 恐るべし、エヘ幽霊。

「神が幽霊に屈服するとはどういう会話だ。」

 違和感を覚えるユウ。

「実は私ってすごいんです。エヘッ!」

 笑っているだけでもスゴイエヘ幽霊。

「その弱っちい人間の稽古はアビスにやらせましたよ。」

 タルタロスは責任逃れをする。

「こらー! 誰が弱っちいだ! 誰が!」

 実際に弱いユウ。

「そうですか。じゃあ、タルタルソースさんにはお咎めなしですね。エヘッ!」

 単細胞のエヘ幽霊。

「アビスさん。アビスさん。出てきてください。」

 おみっちゃんは奈落の侍のアビスを呼ぶ。

「誰だ? 俺を呼ぶのは?」

 奈落の侍アビスが現れる。

「私ですよ? エヘッ!」

 笑顔で出迎えるエヘ幽霊。

「ギャアアアアアアー!? おみっちゃん!?」

 おみっちゃんを見て恐怖で顔を歪ませるアビス。

「お久しぶりです。アビスさん。ダメじゃないですか。ちゃんとやってもらわないと。」

 抗議するおみっちゃん。

「やるもやらないも、その人間が弱すぎて話にならないんだ。」

 抵抗するアビス。

「違いますよ! 私が言っているのは奈落支店の売り上げですよ! 全く伸びてないじゃないですか! こんなことでは私が女将さんに給料を減らされてしまいます! どうしてくれるんですか!」

 おみっちゃんは茶店の奈落支店の売り上げのことで怒っていた。

「茶店の奈落支店の店長って、アビスだったのか・・・・・・。」

 衝撃を受けるユウ。

「仕方がないだろう! 奈落は簡単に人口が増える訳じゃないんだ! そう簡単に売り上げが上がるはずがない!」

 また抵抗するアビス。

「だから言ってるでしょ! 自分の給料で買って自分で食べるんです! そうやって茶店の売り上げは作るものです! できないなら今度からあなたのことをアビスさんからアナルさんって呼びますよ!」

 自作自演を強要するおみっちゃん。

「すいません。許してください。変な名前で呼ぶのだけは勘弁してください。」

 アビスは白旗を上げて降参した。

(あれだけ強いアビスを従えるなんて、いったいおみっちゃんは何者なんだ!?)

 おみっちゃんはただの音痴です。

「ということで、早速ユウさんの稽古をつけましょう。」

 1話5000字でも長いが既に超えているのでちゃちゃっと終わらせよう。

「俺にあいつが倒せるのか!?」

 自分に自信がないユウ。

「安心してください。ユウさんなら勝てますよ。なんてったってあなたは私の侍なんですから。エヘッ!」

 ユウを応援するエヘ幽霊。。

「ありがとう! おみっちゃん! よ~し! やってやるぜ! 燃えろ! 俺のサムライ・スピリット! うおおおおおー!」

 ユウの闘志が燃え上がる。

「なんだ!? あいつの闘志が燃え上がっている!? さっきまでとは比べ物にならない程に!?」

 ユウの成長に戸惑うアビス。

「こい! アビス! おまえの必殺技! 奈落斬りをうってこい!」

 ユウはアビスを挑発する。

「いいだろう。そんなに死にたければ死ぬがいい。そして永遠に奈落支店の茶店で皿洗いをさせてやる! くらえ! 必殺! 奈落斬り!」

 必殺技を放つアビス。

「見える! 見えるぞ! 俺にもアビスの太刀筋が見えるぞ!」

 ユウはしっかりと見切って避ける。

「バカな!? 俺の攻撃を見切ったというのか!? ただの人間の侍如きが!?」

 驚くアビス。

「アビス。おまえには聞こえまい。俺に力を与えてくれるおみっちゃんの歌声が。」

 ユウの後ろでおみっちゃんが歌っていた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 ただし、おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「これは!? ゴットボイス!? あいつの力が急に大きく膨大になったのはおみっちゃんの力か!?」

 おみっちゃんの歌声がユウに力を与える。

「いくぞ! アビス! 今度はこっちの番だ! くらえ! 必殺! 渋谷斬り! 面! 胴! 突き!」

 ユウは必殺技でアビスを攻撃する。

「ギャアアアアアアー!」

 アビスにダメージを与え吹き飛ばす。

「やったー! 俺の攻撃が当たったぞ!」

 喜ぶユウ。

「まぐれだ!? まぐれに違いない!? この俺が人間なんかにやられるなどあり得ない!?」

 予想外の展開に動揺するアビス。

「よ~し! やってやるぞ! こい! アビス!」

 調子に乗るユウ。

「ストップ! そこまで!」

 戦いを止めるおみっちゃん。

「止めるな! おみっちゃん! 面白くなってきたんだ!」

 戦いたいユウ。

「そうだ! 人間と思って甘く見ていた。今度は本気で相手をしてやる!」

 侍魂を燃やすアビス。

「ダメです! これ以上戦っては! なぜなら・・・・・・私のバイトの時間に遅れます!」

 おみっちゃんはある意味で時間を守る真面目な子だった。

「え?」

 ぽか~んとなるユウ。

「遅刻したら女将さんに給料を減らされてしまいます! あの守銭奴め! さあ! 帰りますよ!」

 おみっちゃんはユウの手を引っ張る。

「ウワアアアアアー!?」

 奈落から飛び立つおみっちゃんとユウ。

「またね! タルタルソースさん! アナルさん! さようなら!」

 おみっちゃんは地上に向かった。

「誰がタルタルソースだ!? いい加減名前を間違うな!」

 こうして奈落に平和が戻った。

「おみっちゃん。あれだけ強ければ安月給の茶店なんかで働かなくてもお金なんかいくらでも稼げるだろうに。」

 それは単におみっちゃんの頭が弱く銭勘定ができないだけである。


「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ! エヘッ!」

 茶店が大好きなエヘ幽霊。

「しっかりお皿を洗いな。これも修行だよ。イヒッ!」

 タダ働きのユウをこき使い満足な女将さん。

「よ~し! やってやるぜ! 燃えろ! 俺のサムライ・スピリット! ウオオオオオー!」

 ものすごい勢いでお皿を洗うユウ。

パキン!

 慣れないのでお皿を落として割ってしまうこともある。

「いいよ。いいよ。気にしなくて。」

 意外と優しい女将さん。

「割れたお皿の分だけおみっちゃんの給料から引いておくから。イヒッ!」

 そうでもないらしいイヒ女将。

「クシュン。誰か私の噂話でもしているのかな? モテる看板娘は辛いぜ。エヘッ!」

 エヘ幽霊が笑っていられる世界は平和である。 

 つづく。

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