茶店の歌姫 4
渋谷かな
第1話 エヘッ! 1
「よいか! ユウ! 我が渋谷家は由緒正しき武士の家柄! おまえにも侍の血が流れているのだ!」
おじいちゃんが孫に一族の説明をしている。
「おう! じいちゃん! 俺も立派な侍になる!」
剣道をやっている孫は侍を目指す。
「それでこそ! 我が渋谷家の跡取りだ! ワッハッハー!」
大喜びのお爺さん。
「そんなことより勉強しろ! この世は学力社会なんだから!」
ユウの父親はサラリーマン。
「お爺さんも変なことをユウに教えないで下さい!」
ユウの母親は専業主婦。
「何を!? おまえが侍になっていればカワイイ孫を侍にしなくて済んだんだろうが!」
反論するおじいちゃん。
「侍で飯が食えますか? 父さんは私の稼ぎでご飯を食べているんだから大人しくしていてください。」
世帯主のユウの父親。
「バカモン! 少しは年金があるもん。」
おじいちゃんのささやかな抵抗。
「ユウ。あんたも早くご飯を食べて学校に行きなさい。遅刻するわよ。」
母親は息子の心配をする。
「大丈夫! 俺は侍になるから! 遅刻しても許されるのだ! ワッハッハー!」
開き直るユウ。
「そんな訳ないでしょが!」
母親は息子を殴る。
「ギャアアアアアアー!」
殴られて痛がる息子。
「ピンポンパンポン!」
その時、臨時ニュースがテレビから流れてくる。
「街に侍が現れて無差別に通行人を斬りつけています!」
現代にいないはずの侍が現れた。
「え!?」
「そんなバカな!?」
目が点になり時間が止まる父親と母親。
「じゃあ、ちょっと侍してくるわ。」
ユウは侍が現れた街に向かう。
「キャアアアアアアー!」
渋谷のスクランブル交差点は血の海になっていた。
「ガオー!」
鎧を着た侍が刀で通行人を切り刻んでいるのだ。
「撃て! 撃て!」
警察が駆けつけて侍に発砲する。
「ガオー!」
しかし鎧に弾かれて侍い拳銃は効かない。
「こうなったらパトカーで引いてやる!」
警察官はパトカーで侍を引こうと突撃する。
「ガオー!」
しかし、パトカーは侍に真っ二つにされ炎上。更に被害が広まった。
「自衛隊に連絡しろ! バズーカだ! 戦車を持ってこさせろ!」
警察の威信は丸つぶれであった。
「なんだあれ!? あれが侍か!? スゲエー! 強い! カッコイイ!」
ユウは初めて見た侍の強さに憧れる。
「あれは侍じゃないですよ。落ち武者ですよ。エヘッ!」
そこに変な女の子が現れる。
「俺はユウ。君は?」
ユウは女の子に尋ねる。
「私の名前はおみっちゃん。私の夢は江戸で歌姫になることです! 昔、この渋い谷で茶店の看板娘をやってました。エヘッ!」
現代に甦るエヘ幽霊。
「昔? まるでお化けみたいな言い方だね。」
ユウは気軽に言う。
「大正解! 実は私はお化けなんです! エヘッ!」
いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。
「ご冗談を。」
少しも信じないユウ。
「見てください。私、足がありませんから。エヘッ!」
おみっちゃんは足が無いことをアピールする。
「ギャアアアアアアー! お化け! 妖怪! 俺はオカルトには弱いんだ! やめて! 近づくな!」
ユウはお化けが怖かった。
「女将さん、この子で大丈夫ですかね?」
おみっちゃんは着物についている蛍に声をかける。
「仕方がないよ。こいつしかいないんだから。」
女将さんは答える。
「ギャアアアアアアー! 蛍が喋った! お化け! 妖怪! 怖いよ!」
ユウは目の前で次々起こる怪奇現象に驚く。
「あんた、侍になりたいんだろ?」
蛍がユウに尋ねる。
「はい! 侍になりたいです!」
ユウの夢は侍になることだった。
「なぜ? 侍になりたいんだい?」
蛍がユウに尋ねる。
「俺、勉強もできないし、剣道じゃダサいし、やっぱり侍がカッコイイだもん。」
少しひねくれた志望動機だった。
「どうします? 女将さん。こんな子を侍にしてしまっていいんですか?」
おみっちゃんと女将さんは密談を始める。
「まあ、動機は不純だけど、侍になるのが本人の希望なんだから。」
蛍が押し切った。
「おい。全部聞こえてるぞ。」
密談も相手に聞こえる時はある。
「いいだろう。あんたを侍にしてあげるよ。私とおみっちゃんの姿が見えるんだ。あんたは侍になることを選ばれた人間なんだ。」
蛍はユウを侍にすることを決めた。
「やったー! 侍になれるんだ! わ~い!」
ユウは侍になれることを喜んだ。
「さあ、願いな。そうすれば自分に1番合った鎧が現れるよ。」
蛍はユウに鎧の出し方を教える。
「俺の鎧。」
ユウは自分の鎧を考える。
「カッコイイ鎧、強い鎧、悪い奴を倒せる鎧、困っている人を助ける鎧・・・・・・。」
ユウは頭の中で自分の鎧を錬成していく。
「いでよ! 俺の鎧!」
そして、遂にユウは自分の鎧を呼び出す。
「勇気の鎧だ!」
ユウは勇気の込もった鎧を生み出す。
「これが俺の鎧!?」
現れた鎧に驚くユウ。
「立派な鎧ですね。エヘッ!」
無事に鎧が出てきて喜ぶエヘ幽霊。
「渋い谷で生まれた渋谷の鎧だね。早速、装着してみなよ。」
鎧の名前は渋谷の鎧。
「おお! こい! 渋谷の鎧!」
ユウの体に鎧が装着していく。
「すごい! 体から力が溢れ出してくる!」
ユウは鎧から凄まじいパワーを感じていた。
「これで落ち武者と戦えるね。イヒッ!」
蛍が楽しそうに笑う。
「落ち武者って何?」
ユウは蛍に尋ねてみた。
「落ち武者は私たちと同じで昔の者で、何らかの原因で次元が歪み、現代に現れてしまった哀れな侍の亡霊だよ。」
蛍は軽く落ち武者の説明をする。
「落ち武者には現代兵器は効きません。倒す手段は侍の刀だけです。エヘッ!」
おみっちゃんも落ち武者の説明を補足する。
「よ~し! やってやるぜ! 俺があいつを倒してやる! 落ち武者狩りだ!」
鎧を装備したユウが落ち武者に戦いを挑む。
「こい! 落ち武者! 俺が相手だ!」
「ガオー!」
落ち武者もユウを認識し刀を振り上げて襲い掛かってくる。
(相手の動きをよく見るんだ! 見えた! 胴がガラ空きだ!)
過去の時代に刀を振り回していた落ち武者よりも、剣道で基礎稽古を論理的に積んでいる現代を生きるユウの方が刀の才能があった。
「必殺! 落ち武者斬り!」
ユウの必殺の一撃が落ち武者の銅に入り、落ち武者の体を上下に切り離す。
「ガオー!?」
負けた落ち武者は消滅していった。
「やったー! 落ち武者を倒したぞ! これで俺も侍だ! アハッ!」
初勝利に大喜びのユウ。
「やりましたね! 女将さん! エヘッ!」
落ち武者を倒せて喜ぶエヘ幽霊。
「そうだね。志望動機は何でもいいんだよ。人生なんて結果が全てさ。イヒッ!」
勝てば官軍負ければ賊軍の女将さん。
「これで俺も侍として生きていけるぞ! アハッ!」
調子に乗っているユウ。
「それはどうかな?」
その時、渋谷の空に暗雲が立ち込める中から一人の侍が現れる。
「何者だ!?」
ユウは侍に尋ねる。
「私は竜侍のドラゴン。」
現れたのは竜の侍ドラゴン。
「魔王トロ様の配下のものだ。」
魔王の名前はトロ。
「魔王トロ!? マグロの仲間か何かですか? エヘッ!」
可愛く笑っていれば許されると思っているエヘ幽霊。
「開いた口が塞がらないよ。大人しく黙っときな。」
蛍がおみっちゃんに注意する。
「は~い。」
落ち込むおみっちゃん。
「魔界を支配した魔王様は今度は人間界を征服しようと人間界に落ち武者を送り込んだのだ。ワッハッハー!」
落ち武者が現れたのは魔王トロの魔力だった。
「なんだって!?」
ユウは地上が狙われていると知り驚く。
「そんなことはさせるか! 俺が! 俺が魔王を倒してやる!」
ユウは魔王と戦うつもりである。
「フッ。そんなことができるかな?」
余裕があるドラゴン。
「何事もやってみないと分からないじゃないか!」
挑戦者のユウ。
「面白い。人間の力がどれ程のものか見せてもらおうか。」
ドラゴンはユウの相手をしてあげようと思った。
「なめるな! 俺は侍だ!」
ユウはドラゴンに斬りかかる。
「なに!?」
あっさりユウの攻撃をかわすドラゴン。
「こんなものか?」
笑ってい見下しているドラゴン。
「何を! でい! でや! でお!」
ユウは刀を振り回すがドラゴンには太刀を浴びせられない。
(全く当たらない!? こいつは俺の立ち過ぎを見切っているというのか!?)
ユウは自分の相手がとてつもなく強いと悟った。
(こんなはずでは!? こんなはずではないのに!? 俺はもっとカッコよく活躍できるはずだ!?)
現実を受け入れられないユウ。
「落ち武者の中には強い者もいるので注意してね。エヘッ!」
今更ながら注意を喚起するおみっちゃん。
「早く言ってよ!?」
万事休すなユウ。
「可愛いから許して。エヘッ!」
笑っていれば許されると思っているエヘ幽霊。
「つまらん。遊びにもならなかったな。餞別に私の必殺技であの世に送ってやろう。」
ドラゴンが剣を構える。
「必殺! 竜斬り!」
ドラゴンが必殺技を放つ。
「ギャアアアアアアー!」
直撃を受けたユウは空高く飛ばされる。
「人間がこんなにも弱いのであれば、簡単に魔王様が人間界を支配するだろう。ワッハッハー!」
勝ち誇る竜侍。
「1番! おみっちゃん歌います! 竜の鱗剥がし!」
茶店の歌姫が歌を歌い始める。
(な、なんだ!? この悍ましい気配は!? この邪気はあのカワイイ女の子から出ているというのか!?)
竜侍はおみっちゃんに恐ろしく大きな気配を感じ取った。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。
「ウワアアアアア!? 脳みそが壊れる!? 早くこの場から逃げなければ!?」
ドラゴンは暗雲の中に飛び去って行った。
「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」
大好きな歌が歌えてご満悦のエヘ幽霊。
「あの竜侍。危険を察しておみっちゃんの歌声から逃げ出すとは優秀だね。」
蛍は竜侍を称えた。
「ユウ!」
敵が去ったので優に駆け寄るおみっちゃん。
「う・・・・・・うう・・・・・・。」
ドラゴンの一撃で鎧が砕けているが鎧に守られてユウは一命を取り留めた。
「大丈夫だ! まだ息があるよ!」
蛍はユウが生きていることを確認する。
「早く運んで手当てをしよう。」
「はい。」
おみっちゃんはユウを安全な所に運ぶ。
「はあっ!? ここは!? なんて恐ろしい夢を見ていたんだ!?」
怖い夢を見てうなされていたユウが目を覚ます。
(死ね! 竜斬り!)
夢の中でドラゴンと戦っているユウ。
(ギャアアアアアアー!)
圧倒的なレベルの違いに自分が殺される夢を見ているユウ。
「おはよう。エヘッ!」
いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。
「お、気がついたかい。若いっていいね。傷の治りが早い。」
初めて見る若い女の人もいる。
「あなたは?」
ユウは尋ねてみた。
「何を言っているんですか? その人は女将さんですよ。」
蛍が人間の姿になっていた。
「ええー!?」
驚くユウ。
「おみっちゃん。説明しないと誰でも分からないよ。」
女将さんは物の道理を説く。
「そうですね。エヘッ!」
笑って誤魔化すエヘ幽霊。
「ここは茶店の中だよ。私はお茶とお団子の茶店の女将をやっているんだよ。」
女将さんの正体は茶店の女将だった。
「私は茶店の看板娘です。もちろん歌も歌いますよ! エヘッ!」
おみっちゃんは茶店のアルバイトだった。
「ここは私たちが人間界で暮らすための茶店さ。イヒッ!」
女将さんは茶店を経営している。
「ああー!? おみっちゃんに足がある!?」
幽霊のおみっちゃんに足があった。
「やっと気づきましたか。これが人間界バージョンの私です。エヘッ!」
足も生えて饒舌なエヘ幽霊。
「あんたは弱い。あんたはドラゴンに負けたんだよ。コテンパンにね。」
女将さんはユウに現実を突きつける。
(そうだ。俺は負けたんだ。あいつに・・・・・・。)
ユウの脳裏にはドラゴンに負けた時のシーンが思い浮かぶ。
「教えてくれ! 俺はどうすれば強くなれる?」
必死に強くなる方法を知りたがるユウ。
「強くなる方法。それは茶店で働くことだね。イヒッ!」
女将さんはタダ働きのアルバイトを手に入れようとした。
「え?」
キョトンとするユウ。
「それは違うでしょ! 女将さん!」
さすがのおみっちゃんもツッコミを入れる。
「チッ。もう少しでアルバイトが手に入ったのに。」
本当に残念がる女将さん。
「いいかい。あんたのお遊び剣術では話にならない。」
現代の剣道など、戦国時代の殺し合いの剣術の前に遊びにもならない。
「今のあんたでは竜侍のドラゴンには絶対に勝てない。」
恐るべし竜侍。
「そこで、あんたも強い力を手に入れなければいけない。」
ユウを強くする方法を語りだす女将さん。
「剣術は私とおみっちゃんが教えてあげることはできる。」
女将さんとおみっちゃんは剣術の使いであった。
「うそ~ん。」
信じられないユウ。
「後はあんたの渋い谷の鎧を強くするしかないね。」
女将さんはユウの鎧を強くするという。
「どうすれば俺の鎧は強くなるんですか?」
ユウは女将さんに尋ねてみた。
「深~い谷に言ってもらおうじゃないか。深~い谷にね。イヒッ!」
女将さんは面白そうだ。
「深い谷?」
ユウは深い谷に思い当たるものがない。
「そう。深い谷。奈落に行って、奈落の神侍のタルタロスに修行をつけてもらうことだね。」
女将さんの言う深い谷は奈落のことだった。
「そんな侍いるんかい!?」
疑うユウ。
「他にも夜刀神侍とかもいますよ。エヘッ!」
丁寧に説明してくれるエヘ幽霊。
「俺は強くなって竜侍を倒すんだ!」
強くなることを誓うユウであった。
つづく。
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