厨ニ病小説大賞の感想

あきかん

藤原埼玉(敬称略)様が好き

 藤原埼玉という名が好きだと常々思っているのだが、それ以上に藤原埼玉(敬称略)という作家の自由奔放さが愛おしい。

 藤原埼玉という作家が描く物語は何処か優しい。登場人物への愛情を感じられる。私が最初に読んだ藤原さんの作品はアイリーンだった。復讐の話ではあったのだが、それは神話のように神々しく思えたのだ。今から振り返れば、作家の登場人物に対する溢れんばかりの愛情を行間から読み取っていたのだろう。

 それ以降、好きな作家として頭の隅に留めていた所、藤原埼玉(敬称略)は生物なまもの小説を書き始めた。ある日、登場人物の募集を行っていたのを見て、思わず飛びついて描いてもらったのがカン・ジ・エンプティというキャラクターだ。

 なかなかの無茶振りをしたな、と今では思う。リボルバーを使うガンマンでイーストウッドをモデルにしてくれ、と頼み込んだ。それに留まらず、イーストウッドはドMで撃たれて喜ぶ変態だから、そこのところよろしくと念を押した。

 活劇で見られるイーストウッドが撃たれる場面というのは早々ない。銀幕の中のイーストウッドは無敵の主人公だ。しかしながら、作家イーストウッドはドMであることはファンの間では周知の事実として認識されている。悲劇的な作品で自身を起用し、思う存分不幸を味わうその姿にイーストウッドの性癖を見ることができる。それはまるでウエスタンの拷問シーンのようである。故に、イーストウッドをモデルにするのならばマゾ要素は外せない。

 こういった経緯で生まれたカン・ジ・エンプティであるが、実際に読んだ時は期待以上の者を産み出して頂けたな、と素直に思った。マカロニ三部作を見ずにして、二択の問のセリフに入れる感性に脱帽した。カン・ジ・エンプティの骨格は既に私の想像の遥か上をいく器を持ち得ていたのだ。


 前置きが長くなったが、自作の『カン・ジ・エンプティはまた負ける』について少し語るとしよう。

 藤原埼玉(敬称略)はイーストウッドに詳しくは無い。ならば、私がカン・ジ・エンプティに肉をつけようと、具体的に言えばイーストウッドのドM部分を付け加える目的で書いたのがこの作品だ。

 悲劇ではあるが娯楽活劇として王道を行く話にしたつもりだ。物語としては、お世辞にもまとまった話ではないのだが、そこはマカロニウエスタンもそうなので気にしないことにした。

 マカロニウエスタンで重要なのはかっこいいシーンの連続だ。特にセルジオレオーネをリスペクトしている自分はそう思う。現在、西部劇と言われて思い浮かべるのはイーストウッドが主演したマカロニ3部作をベースにしたものだろう。そこにより娯楽性を足した物を我々は西部劇だと認識する。具体的には、強い主人公、ヒロインもしくはバディ、意味深なセリフ、情緒豊かな風景といったものが合わさると西部劇っぽさが出る。

 前途の要素の内、今作で意識したのはセリフ回しだ。会話劇の面白さをどうにか表現できないものか、と思って付け加えたのがオズの魔法使い。ベースとなるものがあれば会話劇も決まるだろう、と考えて書いてみたら功を奏した。

 と言っても、会話劇は主人公とヒロインの会話でしか上手くできなかったのが悔しいところ。もっと敵役のアイデアを練ればもう少し面白くできたとは思う。

 ヒロインのエリカ嬢の描写も甘かった。堕落論を元ネタに思いついたヒロインだったので、自殺願望者を想定していたが、その描写は書けなかった。もう少し話数を足して書こうかとも思ったが、主人公一人称視点だと自分には書けなかった。そこが一番悔しい所かな。

 兎にも角にも、厨ニ病小説大賞は面白かった。カン・ジ・エンプティの独自解釈を思う存分書けたので大満足な企画だった。ありがとうございました。

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