第39話 取り調べ
「ふぁ~あ、夜分遅くに申し訳ない。お待ちしてたっスよ、長月さん」
箕は警視庁のエントランスで、欠伸をかみ殺している蒲田刑事と合流した。
「助手さんは取調室にいるっス」
「で、どういうことなんだい。助手クンが捕まったなんて、冗談じゃすまないぞ」
「歩きながら話しましょう」
廊下を歩き、エレベーターを乗り継いで、取調室へ向かう。その道中で、蒲田刑事は口を開いた。
「端的に申し上げると、住居侵入未遂ってところスね」
「……ま、そんなことだろうと思ったよ」
箕は安堵の息を吐いた。
「あるお屋敷の周りを調べ廻っていたみたいっスね。夜間ということもあって、警備員が所轄に通報、それを関係者としてウチが引き取ったって次第っス」
目をこすりながら、蒲田刑事は箕へと視線を向けた。
「感謝してくださいよ。こちらも立派な時間外労働っスから」
「ああ。助かったよ」
「……それで、実際のところどうなんスか、例のお屋敷は」
「くさいよ。かなり臭う」
「長月さんが言うのなら信頼性は高いっスね。こちらでも的を絞って調べてみるっス」
間もなく二人は目的地に到着した。
蒲田刑事に案内された取調室には、涙目で机に突っ伏すカンイチがいた。
「箕さん……」
「手続きは済んでるスから、早いとこ連れ帰っていただけると助かるっス」
箕は貫一へと近づくと、その手を引いて椅子から立ち上がらせた。
「行くよ。助手クン」
貫一はその手を振りほどこうとはしなかった。
「おやすみなさいっス。長月さん」
箕と貫一は手をつないだまま、建物から出た。
警視庁から駅へ向かう途中で、どちらともなく手を離した。貫一は俯いたまま、同じ電車に乗った。
「全く、今度からはもっと周りに注意することだね」
「……はい」
それきり、二人はしばし押し黙った。
貫一は罪悪感で押しつぶされそうだった。探偵が何よりも面倒を嫌い、滅多に外へ出ないことを知っていたからだ。
「……怒らないんですか。わざわざ迎えに来ていただいたのに」
「怒って素直に受け入れるような男じゃないだろう。むしろ、助手クンの真っ直ぐなところを自分でうまく使えるようにした方が建設的だ。私も、君のそういうところは嫌いではない」
貫一は顔を上げた。今晩、初めて箕の顔を見た。箕はやれやれと笑っているように見えた。
「次からは私に外出という苦行を強いることのないように注意したまえ」
「はい!」
貫一は自宅に帰った後、ベッドの中で、彼女へをつながる手がかりを追う別の方法について考え続けた。
翌日も、貫一は≪ADGs≫の事務所の中で、新たな方法を考え続けていた。
「もう一度あのお屋敷に近づくのは難しいよなぁ。敷地もすごく広いし」
お屋敷の警備員には顔を覚えられてしまっている。隠れて侵入することは難しい。おまけにお屋敷の敷地は学校のグラウンドくらいの広さがある、もし侵入できたとして、短時間で彼女を見つけ出すことは難しいだろう。
貫一は完全に行き詰まっていた。
「きゃっ!」
「おっと、す、すいません。……あれ、リカさん?」
「気を付けてくださいませ。カンイチ様」
「どうしてここに?」
「もうお忘れでございますか。また挑戦しに行くとお伝えしたと記憶しておりますが」
「そうでした。……ミノさんも喜ぶと思います」
そう言うカンイチも嬉しかった。自分がやってきたことに、彼女の手がかりを得ること以外の意味があったことを、嬉しく思った。
「カンイチ様こそ、随分と気もそぞろなご様子でしたが、何かございましたか」
「……リカさんなら事情を話しても大丈夫かな」
カンイチはミノの能力の辺りをぼかしつつ、ミノの助手として行方不明の彼女を追っていることを説明した。
「……なるほど。彼女が最後に向かったバイト先が怪しいとお考えなのですね。しかし、市乳する方法がないと」
「そうなんです。それに、なんだか悪い予感がするんです。このままだと彼女を無事に取り戻せなくなるような気がして……」
「焦っていらっしゃるということでございますね」
カンイチは首を縦に振った。
「それならば、実際にバイトへ応募なさってはいかがでしょうか。堂々と中へ入れるかと思いますが」
「……」
「安直でしたでしょうか……」
「……どうしてこれまで思いつかなかったんだ!!」
カンイチはリカの手を取り、ぶんぶんと激しく上下に振った。
「ありがとうございます!! おかげで何とかなるかも知れません!! ミノさんによろしく伝えておいてください!」
カンイチはすぐさまログアウトする。残されたリカは呆然とその場に立ちつくした。
それから、webに記載されていた連絡先に直接コンタクトを取り、早速、翌々日にお屋敷で面接を行う約束を取り付けることができたのだった。
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