第35話 再:リベンジ①

 闘杯’30決勝が始まった。

 カンイチの目の前で、リカは鎌を構えている。

 再びリカの前に立てたことに、不思議な感慨を覚えていた。


「倒すぞ、リカさん」


 1ターン目が始まった。


 カンイチの手札には、初手から有効に使えるカードはなかった。

 動けず、セット0枚で戦闘前フェイズに入る。


『オープン』


 リカは一枚をセット。間違いなく道具カードだろう。

 こちらが身動きを取れない間に動く。リカの上等戦術だ。


「けど、これでいい」


『デュエル!』


 リカは地面に向かって鎌を振るう。攻撃はなし。


「終了フェイズ! ≪月輪の侵食≫を展開致します」


『リカ選手、ここで道具カードを展開! 準決勝でも見せていたお決まりのパターンだ! 展開されたカードは≪月輪の侵食≫! 破棄された時、相手にデメリットをもたらす固有能力【落日】を持つカードです!』

『このターンは比較的安全にプレイできるからね。安定行動と言えるだろうね』

『どういうことでしょうか?』

『道具カードをセットした拍では防御ができない。攻撃されると大きな隙を晒してしまうことになるよね』

『それはそうですが、斧は一~三拍目が適正拍ですよね? 攻撃を受ける可能性は十分考えられるのではないでしょうか?』

『斧の攻撃カードのほとんどが“タメ”が必要。たとえ一拍目にセットしても、実際に攻撃を行うのは二拍目以降になる』

『なるほど、だから一拍目は安全というわけですね』

『そうだ。ここまでは決闘中の二人にとっても共通認識だろうね』


 ミノの言葉の通り、カンイチにとって初手にリカが動いてくることは予想の範囲内。決闘が始まる前、デッキを組んだ時点からわかっていたことでもある。慌てるほどのことではなかった。

 むしろ、自分の見立てが間違っていなかったことは、カンイチの自信を強めた。


 2ターン目。

 初ターンに続き、カンイチは迷わなかった。

 カンイチはカードを一枚セットし、戦闘フェイズを待った。


『オープン』

『デュエル!』


 リカの決闘場にはカードが二枚。


「やっぱり限界までセットしてくるよね」


 それもまた、カンイチが事前に予想していた通り。

 カンイチは斧を構える。

 前回、カンイチとミノが戦った時も、同様の展開だった。

 こちらは二ターン目に一発だけ攻撃、相手は一、一、二拍と動き続ける。


 だが、違う点もある。

 鎌を回して待ち構えるリカを見据え、斧の柄に力を込める。

 一つは、武器、そしてデッキ。リカを倒すために用意したもの。


「もう一つは、あの時よりもずっと、心の底からあなたに勝ちたいと思ってることだ」


 続けて道具を呼び出すリカに向かい、気迫を込めて斧を振るう。


『ここでカンイチ選手の≪負い断ち≫がクリーンヒット! これは痛いぞ!』

『動いたね。これは先にダメージを稼いで主導権を奪いたいという意思表示かな』

『今後の展開を見据えてということですね。斧は重い一撃が特徴の武器! これはリカ選手も一筋縄ではいかないか!?』


「終了フェイズ、≪月輪の侵食≫が誘発。一枚ドロー致します。さらに≪月輪の侵食≫は破棄され、さらに効果が誘発、ご選択を」

「俺はダメージを選ぶ」


 カンイチは間髪を入れずに宣言する。二点のダメージと一枚ドローし一枚捨てる、都合三点のダメージがカンイチに襲い掛かる。


「前からこうするって決めてたんだ」

「それもまた、私の想定内でございます」


 両者ともに自信を崩さず、決闘は3ターン目に突入した。

 カンイチはやはり堂々と二枚のカードをセット。

 次ターン以降の準備と攻撃を並行して行う。

 一方のリカは手早く準備フェイズを終えていた。


『オープン』

『デュエル!』


「えっ!?」

『おっと、ここでリカ選手カードを伏せず! カンイチ選手の攻撃を防御態勢で待ち構える!』


 リカのセットカードは0枚。

 前回の決闘ではこんな早いタイミングで一歩引くことはなかったはずだ。何度もシュミレートしたから間違いない。

 しかし、読みが外れたからといって、既に選んでしまった行動を変えることはできない。

 カンイチは道具カードを展開した後、斧を振りかぶった。


 手ごたえはやはり浅い。ガードでダメージを減らされてしまった。


「終了フェイズ、≪日輪の侵食≫が誘発致します。このターンに受けたダメージを一点回復」


 ダメージとしてデッキから燃焼領域へ移動していたカードの内、一枚がリカのデッキの一番下へ戻る。


「そんな、せっかくのダメージが……」


 カンイチは臍を嚙んだ。


「こちらも終了フェイズに道具カードを展開する。……後悔しても仕方ない。まだまだこれからだ」


 カンイチは自分を奮い立たせた。その必要があったからだ。たとえただの強がりでも。


 4ターン目。

 さっきのターンで生まれた弱気を振り払うように、カンイチは三枚のカードをセットした。事前に展開しておいた道具カードを活かすためのコンビネーションだ。


『オープン』

『デュエル!』


『決闘場にはリカ選手二枚、カンイチ選手三枚をセット! 3ターン目は待ちの姿勢で見事に攻撃をいなして見せたリカ選手ですが、うって変わって4ターン目は激しい攻防が繰り広げられます! 強化されたカンイチ選手の重い一撃がヒット!』


「攻撃がヒットした時、道具カード≪アフターマス≫が誘発します。デッキの一番上が攻撃カードなら、それを手札に加えます。一番上は……≪負い断ち≫! 手札へ」


 カンイチは手札を補充した。

 それでもこのターンの消費には追い付かないが、次の一手があるかないかは重要だ。打つ手がなくなってしまえば、なぶり殺しにされるだけ。


『これが斧の強みの一つだね。カード一枚が与えられるダメージ量が多い。ダメージ効率がいい攻め方で、継戦能力を重視した決闘ができる。まぁ、その分連続使用は少し難しいから、超短期決戦には向かないけどね』

『効率のいい攻撃でダメージを負ったリカ選手、その間に再度道具カードを展開するが、やはり傷は大きそうだ! これは面白くなってまいりました!』


「終了フェイズ、≪星海の侵食≫≪鍛造された衰滅≫を展開致します。さらに≪日輪の侵食≫が誘発、一点回復。さらにそのまま破棄された≪日輪の侵食≫の【落日】が誘発致します。選択を」

「……同じです。ダメージで」


 再びカンイチのデッキ、残りライフが減少する。そこに迷いはなかった。このターンでダメージレースは巻き返すことができた。作戦は間違っていないはずだ。


「……なるほど。私を倒す準備は万端ということでございますね」

「はい。もう、あの時みたいに迷いません」

「そうでございますか……。それは残念でございます」

「これで俺の勝ちで……」

「事前に回答を定めておく。なるほど、それも一つの策ではございましょう」


 リカはいつになく饒舌にしゃべっている。

 その様子を見て、カンイチの背筋を冷や汗が伝う。


「しかし、事前に定めた回答は、ヤマ勘と同じ」


 ただ勝ちたいから、負ける勝負はしたくない。そんな理由でミノとの決闘を拒絶したリカ。


「私の問いを見くびられては困ります」


 しかし、まるであれは、劣勢のはずの今(けっとう)を心から楽しんでいるみたいだ。


「正解のない不完全問答で、まだまだ私と踊っていただきます」


 カンイチは決闘中にリカが笑うところを初めて目にした。

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