第34話 スポットライト
ミノが解説席に戻ると、実況のアナウンサーが半目で睨んでいた。
軽く手を挙げると、アナウンサーは声を上げずに溜息をつき、やれやれとマイクに向き直った。
『間もなく決勝戦が始まります! ということで、解説のミノさんともう一度準決勝を振り返っていきましょう!』
アナウンサーはマイクを入れると、これまでの態度をおくびにも出さない。
『……そういうところは素直に素晴らしいと思うよ』
『リカさんからも素晴らしいとの評価がありました準決勝! リカ選手とヒワ選手の決闘を振り返っていきましょう。リカ選手は言わずと知れた鎌使い、道具カードを使ったゲームメイクに定評がある選手です』
『リカは安定感があるタイプだね。実力を十分に発揮しさえすれば勝てる。そんな自信がうかがえるよ』
『一方のヒワ選手の使用武器は大太刀、奇しくも剣派生武器対決となりました』
『剣派生武器は種類が多くて扱いやすいからね。火力に優れる大太刀が攻め切るか、鎌が戦局をコントロールし切るか』
『実際に決闘もそのような展開になりました。リカ選手が道具カードで先制、後を追って猛攻するヒワ選手を、防御と道具でいなします』
『リカはうまいタイミングで防御を差し込んでいたね。相手の動きを読み切っていたということだろう』
『対するヒワ選手、やや単調な攻撃だったようにも思いますが……』
『ヒワ選手はセオリーに忠実な動きだね。大太刀は何と言ってもバ火力が持ち味。読まれてなお強い戦術を通す、いい戦い方だと私は思うよ。それにヒワ選手の太刀筋はほとんどブレない。攻撃技のポテンシャルを限界まで引き出す、いわゆる肉体派だね。例えばこのシーン』
「はぁぁあぁぁぁぁ!!」
裂帛の声を上げて突貫するヒワ、事前に攻撃を読んでいたリカはガードの構えを取ったが、気合いの乗った一撃はガードの上からリカへと届いていた。
『クリーンヒット! これが読まれても強い一撃!』
『これがヒワ選手の大きな武器だった。けれど、少し足りなかったね』
「どちくしょおーーーぉ!!」
最終ターン、ヒワは手札を全て使い切ってしまい、断末魔の叫びを上げながら倒れ伏した。
『はい、終盤ではリカ選手の術中にハマってしまい、身動きが取れなくなってしまいました』
『得意の読みと練り込んだ戦術でねじ伏せたね』
ステージに映し出されていた準決勝の記録映像が終了し、話はもう一人の決闘者へと移る。
『こうして絶対王者リカ選手が順当に決勝へ進んだわけですが、もう一方のカンイチ選手はあまり聞かない名前ですね』
『これが、実は私の知り合いでね。まだ≪ADGs≫を始めて一月も経っていないのだが』
『なんと! ここで驚きの情報です! カンイチ選手は殿堂入り決闘者ミノさんの知人とのこと! これは期待の新人が現れました! しかし、相手は絶対王者リカ選手! 流石に分が悪いようにも思えますが……』
『その通りだね。だが、気持ちは本物だよ』
『なるほど! ただで負けるつもりはないと! これは楽しみですね! 闘杯’30決勝は、圧倒的強者リカ選手に殿堂入り決闘者ミノさんの秘蔵っ子が挑むという形になりました! 注目の決勝は間もなくスタートです!!』
アナウンサーは高いテンションで決勝の対戦カードを振り返る一方で、客席にはどこか白けた空気が漂っていた。
「優勝はリカで決まりだろ」
「だよなー。まぐれで決勝まで上がってきたにしても、リカは無理だろ」
それは圧倒的な下馬評の偏りによるもの。
この大会、闘杯'30は世界規模の大会ではないため、ブックメイカーなどは出ていないが、もし賭けが行われていたとしたら、ひどいレートになっていたことは想像に難くない。
決勝戦はワンサイドゲームになる。それが大方の予想であった。
……この時までは。
所変わって、決勝のステージの上。
決闘が始まると、場内に響くアナウンスは聞こえなくなる。逆に、試合開始前の今は、客席と同じように、アナウンスの声が届いている。
カンイチはミノの励ましを思い出しながら、ステージの中央へと進んでいく。
先に準備を終えたリカが待っている。
二人にスポットライトが当たる前に、リカが口を開いた。
「私はとても意外でした。あなたが出場すると耳にしたとき、控室でお見受けしたとき、向かいの山の準決勝に名前を見つけたとき、そしてこうして目の前に立つあなたを見ている今も」
体の奥まで見透かされてしまうような、ぶしつけな目線が注がれている。
「少し前に立ち会った時のあなたは間違いなく、毛も生え揃わないひな鳥でございました。しかし、ただのひな鳥がここまで登るなど到底不可能」
カンイチは怯まない。
「相応の翼をお持ちになられたご様子。その翼を捥ぐ前に、まずは賛辞を贈らせていただきたく存じます。おめでとうございます」
「ありがとうございます。今日はなんだか饒舌ですね」
「決勝の相手があなたで嬉しいのです。容易に勝つことができるでしょうから」
「俺もリカさんが勝ち残ってくれて、よかったです。これで約束を果たせます」
カンイチはステージの中央、リカの三歩前で目を閉じて、深呼吸をした。
深く息を吐いて、リカを見つめた。
「……知っていますか。同じ勝利なら、強い相手に勝った方が嬉しいんですよ」
「そうかもしれませんね。ただ、不可能だという点に目を瞑れば、ですが」
その瞬間、スポットライトが二人を照らした。
『長らくお待たせいたしました! 半年に一度の栄冠の頂、手にするのは一体どちらなのか!? 闘杯’30決勝が今始まります!!』
「私の剣に決闘を誓う!」
「俺の斧に決闘を誓う!」
待ちに待った決闘の幕が開いた。
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