第27話 武器再選択

 カンイチが出場することになった決闘大会“闘杯’30春”は一週間後。


「強くなりたい……。まずは武器を変えたいな。最初から変えてなかったしな」


 決意を固めたカンイチだったが、自力だけではどうしようもないことも理解していた。

 誰かに協力してもらわなければいけない。


「それで私に相談してくれたのは素直に嬉しいよ。だけど……」

「せんぱ~い、おひさで~す」

「……複数人で参加するなら事前に連絡してくれたまえ」


 定番の待ち合わせ場所に集合していたのは、カンイチ、ミノ、そしてハルの三人だった。


「元々は俺だけの予定だったんですけど、ハルが飛び入りで参加することになっちゃいまして」

「今日はショッピングなんですよね~? 楽しみです~」


 そもそも最初に相談したのはミノではなく、ヴィヴだった。そちらは“忙しい”とばっさり断られてしまったけれども。

 ハルから連絡が来たのはログインする直前のタイミングだった。今日は武器を変える予定だと伝えたところ、“私も行きたいです!”と反応されたため、待ち合わせ場所に連れてきたという次第であった。


「まあいいさ。少しばかり予定が狂ったが問題ない。行こうか」


 今日の目的地はミノの馴染みの店らしい。一行はミノを先頭に歩き出した。並ぶようにハル、そして一歩後ろにカンイチの順に並んでいる。


「どこでショッピングする予定なんですか~?」

「武器を選ぶ予定だからね。当然武器屋さ」

「武器屋? そんなものあるんですね~」

「俺も今日初めて聞いたんだよ」

「確かに、私や先輩の武器と探偵さんの武器、全然違いますもんね~」

「コレはオーダーメイドだから少し特殊だけども、オーソドックスなものだけでも相当な種類があるんだよ。着いてからのお楽しみだね」


 一行は街の中心部からどんどん遠ざかっていく。

 目的地はさびれた街外れの一角にあった。


「着いたよ、ここさ」


店先には“ARMS”とだけ彫られた看板。真新しい外観は、周囲から少し浮いていた。

 店構えは街のど真ん中にあっても驚かないような小綺麗さだ。

首をひねるカンイチを尻目に、ミノはためらいなく店のドアノブに手をかけた。その時、ミノが押し開ける前に、向こうから扉が開き、中から一人の男の子とメイド服を着た女性が出てきた。男の子はそのまま堂々と店を後にし、メイドがその後ろでぺこりと頭を下げた。


「……この通り、ここはそれなりに人気の店なのさ。偏りなくどこの企業の武器でも並べられる店は数少ないからね」


 さっきの男の子とメイドも武器屋の客だったということだろう。

 メイド服の女性に気を惹かれつつも、ミノに続いて店内に入った。

 すぐに目に飛び込んできたのは、剣。そして、刀、盾、杖、笛、銃……。数えきれないほどの武器の数々だった。それらが、棚や壁一面に陳列されている。


「なんだか、初めての楽器店を思い出しますね~」

「そういえば、店員がいないみたいですけど……?」

「この店のオーナーはプレイヤーだからね。常駐できないのさ。ログインしていれば会えるかもね」

「へぇ~。じゃあ、相談して買う~、とか、できない感じなんですね~」

「そういう時は事前にアポを取る仕組みなんだよ。買うだけならワンタッチで店員は必要ないからね。今日のところは私に聞いてくれたまえ」

「了解で~す」


 そのまま、ハルは店内をうろつき始めた。どうやらウインドウショッピングの構えのようだ。

 一方のカンイチは、数えきれないほどの武器に圧倒されて、何がいいのかさっぱりわからなくなってしまっていた。とりあえず、手近なところに置いてあった片手剣を手に取るが、どこを見ればいいのか、さっぱり分からない。


「そもそも武器ってどう選べばいいんですか?」

「ああ、説明していなかったか。すまないね。それぞれの武器の概要は、値札の部分をタッチすると読めるよ。気になったものがあれば、私を呼んでくれたまえ。大体の武器なら説明くらいはできるだろう」

「例えば、この剣だとどうですか?」

「これは“片手剣”。“盾”の応用武器だね。ほら、隣のバックラーとワンセットになっているだろう」

「あ、本当ですね。なんだかお得な感じがしますね」

「二つ持ちはその分慣れが必要だけどね」

「なるほど……」

「武器にはそれぞれコンセプトがあるんだ。“片手剣”は“盾”の派生だから守りが強い」

「その派生ってのは何ですか?」

「あぁ、そういえば、まだ言っていなかったか」


 ミノは頭を掻いてから、ばつが悪そうにコホンと咳払いをした。


「ここに並んでいる武器は全て“応用武器”だ。そして、“応用武器”には大本となった“基本武器”がある。“片手剣”の場合は“盾”だね」

「盾も武器扱いなんですね」

「そんなものだよ。あまり気にしない方がいい。それで、基本武器は応用武器と比べて数が少ない。一つの基本武器から派生した応用武器がたくさん存在したりする。片手剣の場合だと、“タワーシールド”などが、同じ盾からの派生で兄弟のような関係になるね」

「兄弟ですか、やっぱり、性能とかも似ていたりするんですか?」

「その通り。盾派生の武器は守りが固いという点で似ている。けれど、“片手剣”は攻撃と防御の両立、“タワシ”は防御特化という風に差別化されている」

「兄弟でも特徴があるんですね」

「カードゲーム的な視点で見ると、“盾”専用のカードと“片手剣”や“タワシ”専用のカードを組み合わせてデッキを組むことになるからね。使えるカードの半分は共通、残り半分が別々になるわけだから、似ているようで違う仕上がりになるのも当然と言えば当然だね」

「なるほど……。説明はわかりましたけど、何を選べばいいのかはもっとわからなくなった気がします……」

「そう難しく考える必要はないさ。手に取ってみてピンときた、とかそんな理由でも問題ないよ」


 ミノは目線でハルの方へと促した。ハルは巨大な笛らしき武器を持ちながら目を輝かせている。


「ミノさんが今の武器にしたのはどうしてだったんですか?」

「私かい? 探偵だから形から入ろうと思って。ほら探偵と言えば仕込み杖だろうってね」「すごく偏見のような気がします……」


 思っていたよりも適当な理由に、カンイチはがっくりと肩を落とした。


「それくらいでいいってことなんだよ。好みさ、好み。……大事なのはその後さ」


 ミノの言葉を聞いて、カンイチの脳裏に浮かんだのはリカとの決闘だった。

 リカの決闘は理詰めで力強く、美しかった。そして、自分と自分の武器に自信を持っていたような気がする。


「……そうですね。わかりました。一通り見てきます」


 少し気持ちが楽になったカンイチは、店内に並ぶ武器を見て回ることにした。

 改めてゆっくりと店内を回っていく。

 刀、盾、杖、笛、銃、剣と数えきれないほどの武器が並んでいる。これを全部見て回るだけでも大変な時間がかかりそうだ。

 そんな益体もないことを考えていた時、一本の武器が目に留まった。

 それはいわゆる斧と呼ばれる武器だった。

 一瞬、脳裏をよぎったのはリカが使っていた悪魔の武器、“鎌”。似ているけれど、少し違う。


「ミノさん、この武器について一つ聞いてもいいですか?」

「アックスタイプの斧だね。私が答えられる範囲でなら」

「これって、リカさんの武器と兄弟だったりしますか」

「リカの……“鎌”と“アックス”は兄弟ではないね。“鎌”は剣派生、“アックス”は斧派生だ。似ているのは見た目だけだと考えてくれて構わないよ」


 カンイチは斧を手に取った。不思議と手に馴染むような気がした。


「これにします」

「なかなか通なところだね。理由を聞いてもいいかい?」

「う~ん、言葉にするのは難しいんですけど、すごく強そうじゃないですか」

「…………」

「ダメですか……?」


 一度黙り込んだミノが、今度は堰を切ったように笑い出した。


「そりゃいい。いい答えだ。大切に使うんだよ」

「あ~! それいいなぁ~! 私もお揃いのやつにしちゃお」

「はい、それは少し待ってね」

「何ですか~? せっかくノってたのに止めないでくださいよ~!」

「いいや、助手クンも一度ストップだ」


 ミノはそのまま購入しようとしていた二人を、両手で制した。


「このモデルはちょっと特殊なんだ。斧にするならもう一つ選んでもらわなくてはいけないことがあるんだよ」


 突然にそんなことを言い出したミノを前に、カンイチとミノの二人はきょとんと顔を見あわせるしかなかった。

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