第三章_助手が初めてアルバイトゲーマーを倒す(?)まで@××秒

第20話 バイト仲間への接触

 カンイチはADGsの定番の待ち合わせ場所、噴水広場で人を待っていた。


「本当に来てくれるかなぁ……?」


 予め、約束はしてあった。それでも不安だったのは、待ち人がほぼ初対面の相手だったからだ。

 念のためと三十分前から待ち続けて早二十分、少し前に数日間約束をぶっちぎられた経験があるカンイチが不安に駆られてしまうのは仕方ないことであった。


「せめて名前くらいは聞いておいた方が良かったなぁ……」


 貫一は待ち人と初めて会った、今日の午後のことを思い出していた。



 朝一番に箕の元に向かった貫一は、新たな手がかりとして、彼女のアルバイト仲間を当たることに決めた。貫一は彼女が利用していたアプリから最寄りの営業所を突き止め、突撃した。

 営業所のおじさんに事情を説明したところ、彼女は確かにココを利用していたと証言してくれた。


「あの子ね~、最近は特によく来てくれてたから覚えてるよ。キレイな子だったね~。バイト仲間? あ~、確かにいたよ。そっちはあんまり覚えてないなぁ、どうしても彼女に比べると印象が薄くてね。顔は覚えてるから、そっちの子が来たら連絡するよ」


 営業所のおじさんは貫一を気に入ってくれたらしく、かなり協力的だった。そのまま貫一が営業所内で一日待つことも許してくれた。さらに、当日中、事務所への訪問者数はわずかに数名(※貫一を除く)。貫一は暇を持て余し気味らしいおじさんから多くの話を聞くことができた。

 曰く、紹介しているアルバイトは単発の案件が多い。

 曰く、イベントスタッフなどの案件は人気が高いが、拘束時間が長かったり、長期の案件は人気がない。

 曰く、彼女は人気がない案件にも進んで手を挙げていて、おじさんを始めとするスタッフから好かれていた。

 曰く、彼女はここ一か月ほど新しい案件を受けておらず、この営業所にも姿を見せていない、などなど。


「来た! そっちの子だよ! バイト仲間の子!!」


 そして、貫一が探していた人物が営業所に現れたのは、その日の午後のことだった。

 思いの外、あっさりと見つけられたことに驚く間もなく、貫一は事務手続きを終えて営業所を出たターゲットの後を追った。


「待って!」

「…………っ!」


 ターゲットは暗めのラフな服装に身を包んだおさげの女性だった。

 ターゲットは迫る貫一の姿を見るや否や、走って逃げ始めた。女性は小柄ですばしっこかったが、致命的に体力がなかった。貫一は女性が荒く息を切らしているところへ簡単に追いつくことができた。


「はぁっ、はぁっ……」

「……とりあえず、近くのコーヒー屋に入ろうか」


 観念したのか、小柄な女性は素直に従って喫茶店へ入った。顔は伏せたたまま、目を合わせようとはしない。注文を待つ間、気まずい沈黙が流れる。やましいことはないのに、無性に罪悪感を掻き立てられる。


「申し訳ないんだけど、少し話を聞かせてほしくて」

「……」

「一緒にバイトをしてた彼女……大学生の女性がいると思うんだけど、その人について聞かせてほしくて……」

「……」

「……もしかして用事で急いでたりする?」

「……」


 女性は口をつぐんだまま、貫一は困ってしまった。完全に無視されている。このままではらちが明かない。


「…………違うの?」

「ん、何?」

「……ストーカーじゃない?」

「違う違う! 彼女が行方不明になっちゃったから調べてるんだ」


 どうやら、この女性が口を開いてくれなかったのは、怯えられていたかららしい。そういえば、ずっと体を震わせていた。貫一としてはてっきり息が切れていただけだとおもっていたけれど。

 何とか誤解を解くと、女性は言葉数こそ少ないながら、確かに彼女のバイト仲間だったことを話してくれた。確認が取れたことろで、ようやく本題へ入る。


「それで、詳しい話はゲームの中で聞きたいんだ」

「ゲーム……」

「ADGsって名前なんだけd」

「ADGs!? 知ってますよ!!」

「そ、そう?」

「お兄さんもやってるんですね! ちょうど帰ったらすぐログインするつもりだったんです!」

「そ、それは話が早くて助かるけど……」

「こんなところで決闘者に会えるなんて! バイトも新型のヘッドセットを買うために始めて、今は武器とかカスタマイズするのに使ってるんですけど、あ! そうだ! 先週Mitsurugiから発表された新しい応用武器なんですけど、あの運用思想は絶対Shiranuiの影響ですよね!! だってこれまでは――」


 突然に異常な食いつきを見せる女性。その豹変ぶりに貫一は全くついていけなかった。


「す、好きなんだね、あのゲーム……」

「あっ……すいません。熱くなっちゃって」

「いやいや、全然大丈夫だから! それで、さっき少し言ったけど、お願いがあってね」


 とにかく、話を聞いてくれるようになったのは助かる、と、貫一はその場でゲーム内で話を聞きたいと持ち掛けた。


「おーけーですよ。何時にします? こっちは帰ってからずっと向こうにいますけど……」

「こっちは夜の方がうれしいかな」


 現在時刻は午後三時過ぎ。この時間では、超が付くほどに夜型な箕はまだ寝ている可能性が高い。今ログインしてもらっても、探偵と引き合わせられない。

 そんな探偵の事情もあり、無事夜に待ち合わせの約束を交わすことができた。

 まさにスピード解決。まだ頼んだドリンクすら来ていない。先日まであれほど苦労したのが嘘みたいだ。

 注文したメニューが届くまでの間、女性はずっとゲームについて話し続けていた。その内容はまだまだ初心者な貫一にはほぼほぼ理解できなかった。この場で彼女の話を聞くのは難しいと判断した貫一は適当に相槌を打ちながら、順調に進む二人目の決闘式聞き取りに安堵の息をついた。

 元からゲームの大ファンなら、わざわざ布教する必要はない。

 女性は注文していた半分スイーツなコーヒーをハイペースで飲み干し、それ以上のハイペースで、ちびちびとホットブレンドに口をつける貫一へゲーム雑談をまくしたてた。

 終始話のペースを握られたまま、女性の名前すら聞き忘れていたことに貫一が気づいたのは、コーヒー屋を出て、別れた後のことだった。


「ま、いっか。何とかなるでしょ」


 それでも貫一は楽観的だった。

 布教の必要はなかったことだし、後輩の時以上に苦戦することはないだろう。漠然とそんな思いを抱いていたのだ。


 ≪ADGs≫の待ち合わせ場所で、カンイチは昼間のいきさつを思い返し、少し肩が軽くなったような気がした。

 そして、約束の時間が近くなってきた頃、周りで同じように人を待っているプレイヤーたちに端から声を掛けている小柄な女性の姿を見つけた。

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