第12話 相談役

 貫一の通う大学の購買部。

 友人Aは昼食のミックスサンドを持って、レジに並んでいた。


「それでさ~、別の大学の子から聞いたんだけど~」


 会計を待っている間に、前に並んでいた女子学生たちの噂話が聞こえてくる。

 

「他の大学で、ウチの四回生のセンパイが元カノの場所を聞き回ってるらしいよ」

「卍ぃ? ストーカーじゃん、引くわ……」

「卒業前に別れたんじゃね?」


「次の方どうぞ~」

「あ、ちょっと待ってください」


 Aは会計の直前に、追加でレジ横のインスタントコーヒーの箱を手に取った。



 所変わって、同大学ミーティングルーム。

 Aはついさっき買ったサンドイッチを食べていた。目の前にはいつものようにカンイチがコーヒーをいれている。


「頑張ってるみたいだね」

「ああ、もちろん。けど、ちょっと行き詰まってる……」


 貫一は湯気の立つ二つのマグカップをテーブルに置いた。Aはサンドイッチの包装をゴミ箱に捨てて、マグカップに口をつける。


「詳しい事情は言えないんだけど、ほぼ初対面の人に、≪ADGs≫にログインしてもらわなきゃいけないんだ」

「なるほどね。ちなみに、それは紹介した探偵絡みの話?」

「ああ、その通り。」

「……やっぱり面倒なことになってるじゃないか」

「ん? 今何か」

「言ってないよ。話を進めて」

「それで、何かいい方法はないかと思って相談しに来たんだ」


 貫一がよくわからない事態に巻き込まれているらしいことは、Aにとって予想の範囲内。今日連絡を受けた時点から、ある程度覚悟できていた。 

 友人はホワイトボードの前で、備え付けのマーカーを手に取っている。


「こうなったのも、僕のせいみたいなところも多少はあるしね。手伝うよ。それで、なんだって?」

「だから、他人にゲームをプレイしてもらう方法はないかって話だよ」

「他人にゲームをしてもらう……、要は布教ってことだよね」

「布教、布教かぁ。確かにそう言えるかもなぁ」

「そうそう。そういう方向で考えようよ」

「具体的にはどうすんだ? 布教なんてほとんどやったことないぞ?」

「そこはこれから考えればいいじゃん」


 一時間後。

 ホワイトボードには、この一時間の間に出しあった『布教』のイメージがびっしりと箇条書きで並んでいる。


「うーん、いろいろ考えてみたけど、いまいちピンとはこないね……」

「確かに、方向性は間違ってない気はするんだけどな」


 貫一はボードの一か所をコツンと叩いた。そこには“ゲームを好きになってもらう”の一文を大きく丸で囲ってある。


「結局はどうにかして興味を持って、好きになってもらうしかないんだろうね」

「ああ。そうだな。このゲームをよく知ってる人に心当たりがあるから、その人に聞いてみることにする」

「それがいいかもね。……あ、ちなみになんだけど、その心当たりの人って女性?」

「そうだけど?」

「あー……、大変そうだけど頑張ってね」

「待て待て待て、何だよその意味深な口ぶりは」

「良かったら、このコーヒー差し入れに持って行きなよ。トラブルがちょっとはマシになるかもしれないよ」 

「それはありがたいけど、どうして帰り支度を始めるんだ!?」

「僕は応援してるからね。それじゃ!」

「お、おい! ……本当に帰りやがった」


 ミーティングルームには貫一だけが残されてしまった。

 とりあえず、メモ代わりにホワイトボードを写真に撮ってから後片付けをする。


「しかし、インスタントコーヒーをもらったのはいいが、直接は渡せないんだよな……。とりあえず箕さんに渡しておくか」


 貫一はコーヒーの箱を鞄にしまい、心当たりの人物に連絡を取るため、家路を急いだ。

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