第9話 助手の使い方

 「この仕事を受けるにあたって、君に手伝ってほしいことがあるんだ」


 カンイチは首を傾げた。

 さっき説明された探偵の能力が本物なら、誰も彼女に嘘をつくことはできないことになる。ずるいなんてものじゃない。ほとんどの事件を簡単に解決できるのではないか。


「さっき納得してもらった通り、私は他人の記憶を覗き見することができる。……だが、そのためには私と対象となる人物が決闘しなければならない」

「あ。そうか、ミノさんが秘密を探るにはこのゲームが必要なんですね」

「その通り。だから……」


 そう考えてみると、そこまで”ずるい”というわけでもないのかもしれない。探偵としてこの能力を生かすには条件が厳しすぎる。事件の犯人がこのゲームをプレイしている確率ってどれくらいあるんだ。


「……だから、君が対象をここに連れてきてくれ」

「は……?」

「だから、なんとかして被疑者なり参考人なりを見つけて、≪ADGs≫にログインさせてくれればいいんだよ」


 カンイチは目を丸くして、人差し指で自分を指さした。

 それに対し、当然とばかりに探偵は頷く。


「俺が……ですか? 失礼かもしれないですけど、ミノさん探偵なんですよね?」

「ほら、ホームズにもワトソン君がいるだろう? だから、デュエル探偵にも助手が必要なわけだよ」

「デュエル探偵……、なんですか、その謎肩書き……?」

「君が捜査担当、私がデュエル担当、的な」

「えぇ……無理ですよ? スコアさんも何か言ってやってください!?」

「……諦めた方がいいわよ。ミノだもの」

「裏切られた!?」


 スコアはため息をつきながら、カンイチの肩に手を置く。その顔には同情の色が浮かんでいる。

 どうやら、彼女もこの手の無茶の経験者らしい。


「それも含めて探偵の仕事なんじゃないんですか!?」

「苦手分野なんだよ。ほら、私、向こうでは引きこもりだから。適材適所ってやつさ」

「俺も適材ではないですって!」

「少なくとも私よりはマシさ」

「そんなので、どうして探偵やってるんですか!?」

「なかなかしぶといねぇ。私としても気持ちよく手伝ってほしいんだが……」


 カンイチは探偵の無茶ぶりに抵抗した。

 そもそも、自分では手がかりを見つけられなかったから、探偵に依頼しようと思ったのだ。犯人を連れてくる? そんなことができるなら自分で彼女を見つけている。


「……そうだ、こういうのはどうだろう」


 探偵はカンイチの耳元へと顔を寄せた。

 ふわりと探偵の赤髪が揺れて、鼓動が速くなる。

 しかし、次に探偵が囁いた言葉は、一瞬カンイチの心臓を止めた。


「お願い、おにいちゃん……」


 カンイチは目をむいて、バッと横へ振り向いた。


「……キミ、昔は実に甲斐甲斐しく弟さんに世話を焼いていたようじゃないか?」

「……」


 カンイチは理解した。既に自分の記憶は、探偵の人質に取られてしまったのだ。


「……手伝ってくれるよね?」


 探偵はいたずらっぽく笑っている。


「その無駄に上手い声真似で捜査して下さいよ」

「嫌だね。面倒臭い」


 こうして、カンイチはめでたく探偵の助手となった。

 ……本人がめでたいと思っていたかどうかは別にして。


 

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