第7話 初めての決闘②

 4ターン目。

 決闘に慣れてきたカンイチは、手札3枚を全てセットした。

 これまでの3ターン、カンイチはずっと攻撃を続けてきた。

 確実にミノへダメージを与えている。


「このまま攻め続ければ、もしかしたら勝てるかも」


 カンイチはそんな希望と共に手札全てをセットし、さらに攻めることを選択したのだった。


「ふふっ。さっきの攻撃は良かったよ。だいぶ決闘が分かってきたみたいだね」

「ミノさんのおかげですよ。……このまま勝利もいただきます!」

「さぁ、それはどうかな?」 


『オープン』


「ええっ!?」


 セットしたカードの数は、カンイチの3枚に対して、探偵も3枚。

 ほとんど動きを見せてこなかった探偵が、大きく動こうとしている。


「何をしてくるんだ……?」

「それは見てのお楽しみだね」


『デュエル!』


 戦闘が始まった。

 先に距離を詰めたのは、やはりカンイチの方だった。

 前の3ターンとは違い、今回の狙いは胴体。カンイチは体の中心に向かって刃を振るう。

 一方の探偵は、仁王立ちのまま微動だにしない。

 視線はしっかりと相手を捉えているものの、その体は無防備そのものだ。

 カンイチの刃はしっかりと探偵へ届いた。

 腹部を切り裂き、そのまま腕へ。二連続で斬撃を浴びせる。

 大きなダメージを与えたはずだが、探偵に動じた様子はない。

 そのまま、三発目、カンイチが再び胴を狙ったところで、初めて探偵が動く。

 カンイチの斬撃よりも速く杖が閃き、腰のあたりを薙ぐ。ヒットする瞬間、杖が赤く燃え上がる。カンイチは反射的に目を閉じていた。

 しかし、不思議なことに、カンイチは痛みも違和感もなかった。それどころか、自分の体に触れた感触さえしなかったのだ。

 

「!??」


 混乱するカンイチだったが、体は止まらない。ゲームのシステムに導かれ、探偵に一歩遅れて、彼女の体へと届く。

 こちらの攻撃は明確にヒットした感覚があった。

 ただ、直前に目を閉じてしまったせいだろうか、手応えが浅い。

 

「びっくりしたかい? さっきの攻撃にはダメージがないんだ。その代わりに、次の攻撃を強化してくれる。……こんな風にね」


 その言葉と共に、探偵は杖を高く振りかぶった。

 いつの間にか、持ち手以外の部分が白銀色の刃に変わっている。どうやら、あの杖は仕込み杖だったということらしい。

 探偵は炎を纏った仕込み杖を、肩口から斜めに振り下ろす。 

 その瞬間、強烈な衝撃と痺れがカンイチを襲う。

 あの技自体はただの袈裟斬りのはずなのに、大きなダメージを負ったのが分かる。


「まだだよ!」


 そこへ、探偵のさらなる追撃。

 仕込み杖の刀身を包む炎が大きくなり、刃の軌道に合わせて虚空を走った。

 距離を取っていたにもかかわらず、カンイチは身構えることもできずに、頭から炎の塊を受ける。

 またごっそりとライフを削られてしまった。


「これでやっと追いついてきたね」

「そんなこと言って……」


 カンイチはこのワンターンで大きくダメージを負ってしまった。

 しかし、これまでに探偵が受けてきたダメージも相当なものだ。

 総ダメージ量でいえば、まだカンイチが与えたものの方が多いだろう。

 そして、決闘は先に相手のライフを削り切った者が勝者となる。

 そういう意味では、まだ、カンイチは優勢を保っていた。


「これも想定の内かもしれないけど……最後まであがいて見せますよ!」


 そして5ターン目。

 ドローを含め、カンイチの手札はたった1枚だけ。


「これだけじゃ倒せないかもしれないけど、次のターンも攻撃できれば倒せるかも……いや、きっと倒せる」


 カンイチは僅かな望みを託し、今引いた最後の手札をセットした。


『オープン』


「っ!!」


 探偵がセットしていたカードはなんと6枚。

 1ターンでセットできるカードは6枚が限界。上限いっぱいまで技を出すと宣言してきたのだ。

 つまり、探偵はこれまで温存してきたカードを一気に放出して、勝負をかけに来たのだ。


『デュエル!』


 カンイチは走った。これまでがそうだったように、探偵に向かって地を駆けた。


「でもさ、ここで一発攻撃を入れて、このターンさえしのぎ切ればいんだろ」


 カンイチの攻撃は防御されなかった。

 ゲームを決着させるには及ばなかったが、探偵は風前の灯火、わずかな猶予しかない。

 探偵は笑った。そんなことは初めからわかっている、とでも言いたげな自信に満ちた笑み。

 それから彼女の怒涛の攻撃が始まった。


 まずは、前のターンにも使ったダメージのない攻撃、それから小手斬り、振り下ろし、袈裟斬り、至近距離での飛ぶ炎の斬撃と、絶え間ない連続攻撃がカンイチを襲った。刃が纏う炎が弾け、火花がまるで血しぶきのように飛び散る。

 甚大なダメージを受けたカンイチだったが、彼はまだ立っていた。


 しかし、同時にカンイチは知っていた。

 このターン、自分が受けた攻撃は5回。

 探偵はセットした技(カード)をまだ1枚残している。

 

「これで終わりだよ」


 両者HPは残り僅か。

 探偵は距離を取ったまま、カンイチに向けて杖を構えた。


「≪追想:白天≫」


 ミノが何かを宣言した瞬間。

 カンイチの視界は、目が灼けるほどの光で白く染まった。


「くそぅぅぅ!!」


 強烈な衝撃で後ろに吹き飛ばされる。

 明らかなオーバーキルで、カンイチは敗北した。


「負けた……っ!! み、ミノさん!?」


 決着から一瞬遅れて、決闘に勝利したはずの探偵は、ばたりと畳に倒れ伏した。

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