第5話 とりあえず決闘で

 カンイチは探偵に畳敷きの事務所の一室へと通されていた。

 探偵事務所の内部は、外観と同じく日本家屋風の造りになっていた。

 ちなみにお茶は出ていない。


「君がウチを訪ねてきたのは、一昨日の……何の件だったっけ」

「はい、人探しをお願いしたくて」

「あー、そうだったね。人探しか……。人探しは一発じゃ終わんないことも多いんだよね、正直面倒だ」

「お金はできる限り準備してきました、どうかお願いします。彼女を見つけたいんです!」


 乗り気ではなさそうな探偵に向かって、頭を下げる。


「お金はいいよ、エナドリ一か月分くらいで。ウチはそんなに貰うつもりないから」

「エナドリですか?」


 それがどのくらいの額かはわからない。けれど、今日のためにカンイチが準備してきた現金より少ないことは間違いないだろう。


「その代わり、捜査を手伝ってもらうことになるよ。ウチは『一発スピーディ解決』がモットーだけど、今回は難しそうだからね」

「ええ、頑張ってお手伝いさせていただきます!」

「いい返事だね。その調子で私の分まで働いてくれ」

「お役に立てるかはわかりませんけど……。ちなみに、いつもはどんなお仕事を?」

「個人から受ける案件だと、失せ物探しとかかな」


 しょぼい。人探しを依頼しようとしているカンイチに言えた話ではないが、流石にしょぼい。報酬がエナドリなのも納得だ。


「それって探偵のお仕事なんですか」

「そこはほら、ウチの得意分野だからね。すぐに終わるし、何より面倒が少ない」

「はぁ……」


 想像していた探偵と、目の前の女性の話しぶりの違いに困惑を隠せない。

 とりあえず、依頼は受けてくれるようだと判断したカンイチは、脳裏に浮かんだ疑問をひとまず棚上げすることにした。


「それでは、前にも少しお話ししましたけど、詳しい事情についてなんですが……」

「それ、長くなる?」

「え? はい、多少は……」

「オーケイ。それじゃあ決闘しようか」

「け、決闘?」

「ああそうさ。ついでに私のやり方も理解できるだろうからね」

「えっと、話が見えないんですけど……? 決闘って何です?」


 さらに困惑の度合いが深まる。

 どうして事情を説明するためにそんなことをする必要があるのだろうか。

 そもそも決闘とはいったい何なのか。


「決闘と言えば、この体感型カードゲーム≪ADGs≫でのバトルさ」

「あ、なるほど。ここ、ゲームの中ですもんね……。じゃなくて! どうしてそんなことを」

「ほら、ケンカを通じて分かり合うみたいな言い回しがあるじゃないか。それと同じだよ。そんな感じ」

「意味が分からないです、少なくとも探偵さんとやることでは……」

「ああもう、面倒だな、ぐちぐちと言うんじゃない! やればわかるさ!」

「そ、そんなこと言われても……、決闘(?)は初めてですし……」

「チュートリアルは受けただろう。習うより慣れろだよ」


 有無を言わせぬ強引さを見せる探偵。

 彼女に押し切られる形で、カンイチは目を閉じてゲーム開始時に受けたチュートリアルを思い起こす。


「決闘開始の合図は?」

「はい、なんとか覚えてます」

「いいねぇ。そうでなくっちゃ。さぁ行くよ」


『私の剣に決闘を誓う!』

『お、俺の剣に決闘を誓う!』


 二人の声が響く。その瞬間、カンイチの視界が青く染まり、決闘が始まった。

 

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