第4話 TELEPHONE

トゥルルル・・・

トゥルルル・・・

トゥルルル・・・

僕は四度目のコールが鳴る前に、

受話器を取った

「もしもし・・・」

あの人からではなかった

「それじゃ、また」

用件だけ聞いて受話器をおいた。


一月くらい前だった

日曜日も終わり、もうすぐ新しい週になろうとするころ

ベッドサイドの小さなガラスのテーブルの上で

オフホワイトの少し丸みを帯びた四角い電話機が

インテリアライトの薄暗い照明の中で

誰かが僕と話したがっていることを教えてくれた。

「もしもし、」

「あたし、誰だかわかる?」

こんな時間にお遊びの相手なんかしたくなかった

「もしもし、どちらさまでしょうか?」

とりあえず丁寧に聞いた

「あたしよ、あ・た・し」

ふざけてるとしか思えなかった

でも、この声は確かに聞き覚えがあった

僕は、自分の知っている女性を順番に思い出そうとした瞬間

声の持ち主の顔が浮かんだ

「あれぇ」

「元気だった?」

意外だった

僕は、もうこの人からは電話なんてかかってこないだろうと思っていた

本当に意外だった

もしも、誰かに「世の中で一番好きな異性の名前を挙げよ」といわれたら

迷わず彼女の名前を挙げるだろう

僕にとって彼女は、100%の女の子だった

その彼女からの突然の電話だった

「何年ぶりだろうね。ずっと前に何度か電話したけど、いつも居なくて管理人さんに後で電話をくれるように頼んでおいたのに、君からはちっとも連絡がなかった」

彼女の部屋には電話が無かった

だから、彼女に用事があるときは、管理人のところへかけて呼び出してもらわなくてはならない

しばらくの間、お互いの新しい恋人のことや最近の身近な出来事などについて話をした。

今夜は近くのコンビニエンスストアの公衆電話からかけてるそうだ、たまにクルマの走っていく音が聞こえて来る

「来月になったら引越すことに決めたの

まだこれから住むところを探すんだけどね」

「今度は、どこの町に?」

「今のところが便利だから、この近所を探すけど・・・決まったら連絡するね」

そして、別れの挨拶をして電話を切った。


一昨日僕は彼女のところへ電話をしてみた

管理人がでて、彼女はもう引越してしまったことを教えてくれた

僕は、新しい連絡先を聞いた

「ちょっとメモを無くしてしまってね、わからないんだよ」

もう、彼女からの連絡を待つしかなかった。

ベッドの脇にあるラジオのスイッチを入れた

810kHzに合わせてある古ぼけたブラウンのSONYが

新しい週に変わったことを教えてくれた


" This is the Far East Network Tokyo. Time at tone ZERO am. "

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る