第3話 THE LAST SONG
観客の興奮がさめやらぬ今、俺はステージを去った。
俺たち最後のステージは、予定のプログラムを終えた。
スタッフの一人がスポーツドリンクを持ってきた。
俺はそいつを一気に飲み干してメンバーと固い握手を交わした。
「お互い歳をとったな」
ドラムスがスティックをまわしながら言った。
「ああ・・・」
他のメンバーもお互いに顔を見合わせ
「まったくだ」とうなずいた。
ステージからは、アンコールの声と手拍子が、楽屋にいる俺たちの腕をつかんで引っ張りだそうとする。
「そろそろいくか」
「そうだな」
「俺たちのラストにあの曲をやってくれないか」
俺は少し恥ずかしかったが、すぐにOKのサインをだした。
俺がはじめてギターを手にしたのは13のときだった。
アマチュアでバンドをやっていたアニキのステージを観て、ものすごくカッコ良く見えた。
そして、その夜からアニキにロックンロールを教えてもらった。
街を歩けば、女の子はみんな振り返り熱い視線をアニキに送っていた。
でも、アニキは自分がもてているなんて思っていなかったようだ。
だた、ロックンロールが好きなだけだった。
俺は、そんなアニキが大好きだった。
ハイスクールに入ると俺は、学校帰りにバイトを始めた。
アニキの20回目の誕生日に、前から欲しがっていたチェリーサンバーストのギブソンをどうしてもプレゼントしたかった。
バイトが終わるといつも俺は、アニキの働くガスステーションに行って仕事が終わるのを待っていた。
そして、一緒に近くのコーヒーショップに行くのが常だった。
ロックの話や女の子の話をよくしたものだった。
アニキの誕生日に俺は、バイトに行く途中に楽器屋に予約しておいたチェリーサンバーストのギブソンを取りに行った。
そして、バイトが終わるとアニキの喜ぶ顔を思い浮かべながら、いつものようにガスステーションへと急いだ。
でも、そこにアニキはいなかった。
そこで俺を待っていたのは、
バラバラになったアニキのレスポールと血の付いた譜面だった。
それには、昨日二人で作ったはじめてのオリジナルソングが書いてあった。
アニキは、店を出るときに酔っぱらいの運転したトラックにはねられたそうだ。
俺は、アニキのために買ったギターを抱いて泣いた。
その日から、このチェリーサンバーストのギブソンを持って、でかいステージでロックンロールを歌うことを夢見ていた。
「そういえば、今日はアニキの命日だったな」
俺はふっと、昔のことを思い出していた。
「いつの間にか、俺たちもビッグになったもんだ」
そういってキャメルをくわえ火を付けた。
ライブではやったことのない、あの初めてのオリジナルソングが俺の最後の曲になってしまった。
ギターケースからチェリーサンバーストのギブソンを出した。
アニキの名前が入っていた。
俺は、そいつにキスをして肩からさげた。
観客の声が、一段と大きく聞こえてきた時に俺は、
スポットライトへと歩きはじめた・・・
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