第5話「災禍の狗・後編」

瞼の上に、僅かな光を感じた。


「うっ……痛っ……!」


混濁した意識を引き戻そうと目を開けた瞬間、首元の激痛で一気に目が覚めた。


どうも背後から殴られ気絶してしまっていたらしい。


まずい、今何時だ?


左腕の時計を見た。

時刻は午後八時。


「くそっ!」


スマホを取り出そうとポケットをまさぐるが、ない。

ご丁寧にスマホを持っていかれたようだ。


痛みを堪え立ち上がり周りを見渡した。


月明かりがあるとはいえ、行きと違い森の中は真っ暗だ。


方向感覚さえ失いそうだった。


キョロキョロと当たりを見回すと、木々の間から不自然な光が垣間見えた。


光は二つ。不規則に揺れてはいるが、こちらに近付いてくる。


一瞬あの男達が戻ってきたのかと警戒したが、


「教授!」


聞きなれた声、椿だ。


「椿!ここだ!!」


光に近付き大きく手を振ると、二つの光が俺を捉え照らしてきた。


眩しさに目をしかめるが、光の先に目をやると椿の姿、そして元子さんの姿がそこにあった。


「大丈夫ですか教授!?」


「あ、ああ、それよりなんで二人共ここに?」


「決まってるじゃないですか!心配して探しに来たんですよ、一人じゃ迷うからって、元子さんも着いて来てくれたんです」


「そ、そっか、すまん助かった、元子さんも、わざわざすみません」


俺は椿と元子さんを交互に見てから二人に深々と頭を下げた。


「そんな事よりもハクは、ハクはどうしたんだい?」


元子さんが心配そうな顔で椿の後ろから身を乗り出してきた。


「それが……」


俺は歯痒さを堪え、さっきここで起こった出来事を全て二人に話した。


「そんな、ハクちゃんが……」


「すまん椿、元子さん、俺が着いていながらこの様で……」


「あんたのせいじゃないよ。相手も二人いてハクを人質に取られたんだ、一人じゃどうしようもないさ」


「奴らの居場所は分かっています。今から追い掛けるつもりです」


「しかしだね、アンタ一人じゃ……」


元子さんが心配そうに俺を見た。

すると突然椿が


「私も行きます!」


と、声を張り上げ手をおでこに当て、なぜか敬礼して見せてきた。


「あのなあ……いや、危ないからお前は、」


「いいえ、私も行くんです!」


「遊びに行くんじゃないんだぞ?」


「そんな事私にだって分かりますよ!ハクちゃんはもう私の友達でもあるんですから!」


ダメだ、こうなると椿は俺の言う事なんて聞こうとしない。


「分かった、分かったから落ち着け。その代わり危なくなったら直ぐに逃げるんだぞ?いいな?」


「はい!」


本当に大丈夫なのだろうか……不安になってきた。


「元子さん、森の外まで案内してもらっていいですか?」


「あ、ああ分かった、ついといで!」


元子さんは大きく頷くと、先頭に立ち先を進み始めた。


俺と椿は互いに顔を見合せ頷くと、元子さんの後に続き、森の外を目指した。







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