19 なぜか今度一緒に出掛ける約束をしました。

 熱い。凄く熱い。

 これは本当に熱中症になるくらいの熱気で、


 「って、エアコンついてねーじゃねーか!!」


 あまりの熱さに魘されながら浅い眠りから解き放たれる俺は、エアコンが付いていないことに気づく。

 どうやら昨日寝てる間に布団の中にリモコンを巻き込んで消してしまっていたようだ。


 「これはやばい、マジでやばい。布団が体に張り付いて来るし、汗が凄すぎる。おまけに全然眠れてないから寝不足だし……」


 俺は自分の机を見やる。そこには一台のパソコンが置いてあって、結論から言うと昨日は一文字も書くことが出来なかった。

 机に向かい手を添えて、考察をして考えをまとめ、修正してはまた考察を練る。練れば練るほど色々とどんどん考察ばかりに時間を取られ、気づけば時間が3時を回っていたので流石に寝たのだ。

 

 結果は今のこの通り。昨日は本当に無駄な時間を過ごしてしまった。

 これから学校に行こうと思うと憂鬱になって来る。


 「取り敢えず風呂入るか」


 汗でぐっしょりの体を洗い流そうと下へ行く。

 脱衣所の扉を開こうとして中から少し音が聞こえる。風呂場特有の反響するあの音が。椅子を動かしたりするとくぐもった音が反響してここまで伝わって来る。


 「ああ、そう言えば白宮が……」


 普通のラブコメなら今の場合は何も気づかない主人公がちょうど浴室から出てきたヒロインと鉢合わせるシーンだろう。

 何も知らなかった主人公はその光景に好奇心と男の子のアレが反応し、ヒロインは体にタオルを一枚撒いただけのあられの無い姿。

 構える主人公、しかしヒロインは強くそのまま主人公ノックアウト。


 とかなる場面だろう。

 だが、そんなものは現実では起こり得ない。どれだけ鈍感な男だろうと流石に音には気づくし、中に人がいるのかは案外すぐにわかる物だ。そんなラッキースケベなんて現実で起こったらまず確実に意図的だろう。


 「とにかく待ってるか」


 リビングに向かい、そこでエアコンを付けてしばらく涼む。

 今の時刻はちょうど7時。学校が始まるまではしばらく時間がある。今から朝食の準備をしても十分間に合う。

 エアコンをつけ忘れて眠りが浅かったせいでこんな早くに目が覚めたわけだが、特にすることもなくソファに座って適当に朝のニュース番組を付ける。


 最近はニュースもいろんな要素を盛り込んでいて朝からいろんな情報が入って来る。

 そこで一つ気になる物を見つけた。

 

 それはつい最近近くに出来た大型ショッピングモールの取材で、中には多くの店舗が並んでいる。

 食料品や他にも書店、家電量販店、カフェに100円均一ショップなどがあった。


 「こういうの、あいつも行くのか?」


 そこで一つ気になったのは、俺でも名前は知っている海外のアパレルブランドで、少し高めではあるがお洒落な洋服やアクセサリーなどが置いてあった。

 

 普段どんな生活を送っているかは分からないが、白宮もこういう物には興味があるのだろうか?

 (って、なんでそんなこと考えてるんだ俺は?あいつが好きな物なんて知って、一体どうするんだ?)

 と、そこでいつもの冷静な俺が戻って来る。最近、特に昨日なんて白宮にあんなことがあったからか頭の片隅にはあいつがいる。ついこの間まで鬱陶しがって相手にすらしていなかったのに、相変わらず変わり身が早いものだ。


 「でも、こういうのも、いいのか?」

 「どういうのですか?」

 「うわ!?お前、普通に声をかけろよ。心臓止まるかと思ったじゃねーか?」

 「すみません。先輩を驚かせようと思って」


 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる白宮。


 「お風呂あがったので入って大丈夫ですよ。さっきお風呂入ろうとしてましたよね?」

 「ああ、分かってたのか?」

 「はい。階段を下りる音が聞こえたので。でも、先輩、覗いたりしませんでしたよね」

 「当たり前だろ。お前を覗いたなんて学校中に知られたら俺は殺されるしな」


 学校中にはこいつに振られた男も含め、大半の男たちが白宮に好意を寄せている。そんな学校に俺と白宮の仲が良いなんて噂が流れようものなら拷問にかけられ、覗きをしたとなれば恐らく火で炙られるか社会的に抹殺されるだろう。


 「それに、昨日あんなこと言ったんだ。俺がお前の敵に回ってどうすんだ」

 「そう、ですか。やっぱり先輩は先輩ですね」 

 「なんだそれ?」

  

 なんでもない普通の会話が出来るくらいには白宮も心の整理がついたらしい。

 昨日のあの無気力な瞳の影はなく、いつもの白宮に戻っているように見える。

 だが、それが根本的な解決に至ってないことも知っていて、

 (でも、待つって言ったしな)


 風呂に入り、汗と共に眠気も一緒に流し去る。流石にここで眠気が引いても、きっと学校じゃ眠いままだろうが。

 

 白宮が作った朝食を食べる。

 特に何かを話すこともなく、ただ黙々と。


 だが、流石に少し気まずくなって、つい話かけてしまう。

 自分でも驚いた。前までならこんな沈黙も何も気にしなかったのに、今では少し居心地悪く感じてしまう。


 「そ、そうだ。さっきニュースでやってたけど、お前最近できたショッピングモール行ったことあるか?」

 「ショッピングモール。そう言えばまだ行ってないです。それがどうかしたんですか?」

 「いや、な。俺も行ってないからさ……」


 (ああ、やばい。言葉が!ていうか会話ってこんなに続け辛かったのか?えっと、次は何の話を……)

 

 「あ、なら、先輩も今度行きますか?」 

 「え?どこに?」

 「ショッピングモールです!一緒に行きますか?」

 「ああ……って二人でか?」

 「嫌ならいいですけど……あ!やっぱり嫌とか無しです!」

 「なんでだよ!なぜに強制?というか俺の意思は?」

 「元はと言えば先輩が切り出した話ですし、それに、」

 「それに?」

 「……なんでもありません!」


 そう言ってパクパクと残りのおかずを口に放り込む白宮。

 (凄い気になる会話の切り方だな。なんでこれってこんなに気になるんだろうな?)

 変なところで会話を切られたせいで凄く先が気になるが、少し白宮も不機嫌なのでこれ以上の言及はやめた方が良さそうだ。


 そんな考えの奏汰が自室に戻った頃、下で片づけをする白宮はぽつりと一言呟く。


 「そう言うの、自分から言って来たくせに……ずるいです」

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