17 雨の日は好きだが流石にこれは想定外
金曜日から来ていた柾は土曜日になると帰っていった。白宮は金曜日のあの後、土曜日分の料理も作って帰っていった。
今は日曜日の昼。朝飯は食べていないので、流石にお腹は空いてきた。
何かを作ろうか?なんて思ったもののやはりやる気が湧かない。
「コンビニ……でもなー」
コンビニ弁当にでもしようか?と思ってふと白宮の顔が浮かぶ。最近は白宮のおかげで健康が保たれている、と言っても過言でないほどに世話になっている。
栄養バランスの取れて、尚且つ食べたことも無いような絶品の数々。
コンビニ弁当なんて食べたら、少なからず俺を心配して作ってくれている白宮に失礼ではないだろうか?せっかくバランスの取れていた食事をしていたのに、なんて思うとコンビニに行く気にはなれない。
「あーあ。なんか俺、いつの間にかあいつを……」
最初の頃は鬱陶しいただの可愛いだけの奴だと思っていた。しかもそれも全て作られたもので、何なら最初は付き纏われて嫌悪すらしていたかもしれない。
それが今ではこうして週に何度か家に寄っては料理を作ってくれるくらいに仲良くなった。
あの日、あの教室で、あいつが俺にとった行動の意味は聞いていないので良く分からない。まず、そんなことを聞けるほど俺もおおものではない。考えてもみて欲しい。自分で相手の女子に「お前俺の事好きなの?」なんて聞けるはずもない。そんなことが出来るのは一部のイケメンリア充だけで、俺達一般民にはただのイタイ行為でしかない。
「それに、相手は白宮だしなぁー」
俺自身、前でこそああだったものの、今では中の良い友達くらいには思っている。ただでさえ友達の少ない俺にとってその立ち位置は柾や秋葉と同じくらいで……
「でも、なんか違うような気もするな」
柾と秋葉は高校に入ってからの友達だ。
柾は一年からクラスが一緒で、秋葉も一年の頃は同じだった。
誰とも話さない、いつも無表情で窓の外を眺めるだけだった俺に興味を持って話しかけてきたのが柾だった。
高校の友達は生涯の友になりやすい。なんて言われているが、中学までは友達すら碌にいなかったのでそんなこと気にもしていなかった。
でも、恐らくだが柾と秋葉とは、これからも長い付き合いになりそうな予感はする。
そこできっと、今みたいに俺はあいつらの格好の的に……
「それってただ被害受けるだけじゃ?」
けど、まあ、それも良いのかもしれない。
なんだかんだで結局は俺の事をしっかりと考えてくれる頼れる友達。親友とでもいえばいいだろうか?
そんな柾と秋葉だからこそ、俺はこうして今も関係が続いている。
なら、白宮はどうだろうか?
と考えるとなかなかに分からなくなってくる。今でこそ、うちに出入りしているがまずあいつは本来俺となんて関わることも無い雲の上の存在。決して俺なんかと巡り合うことも無かったはずなのだ。
それがなんの因果かこうしてうちに来るまでに仲が良くなっている。
だとしたら、柾や秋葉と同じような親友なのだろうか?いや、違うだろう。
どちらかと言えば、ほとんどの事があいつからの一方通行。俺はあいつに何もしてないし何もしてやってない。
柾や秋葉になら出来ることも、あいつになると途端に出来なくなる。
「考えてみると、結構変な関係なんだな、これ」
ソファの背もたれに体重を預けながら、そう深く息を吐く。
思えば、あいつがなぜ俺に世話を焼くのかがいまいちよくわからない。
最初は倒れた俺への罪悪感とせめてもの罪滅ぼし的な事で世話を焼いてるのだと思っていた。だがあれから一か月経った今でもあいつはここに通い詰めている。
柾や秋葉とも違う良く分からない関係。友とは呼び難いこの関係性。
料理を作ったり世話をしに来てくれるお手伝いさんにしては、俺は給料も何も払っていない。
俺の生活がだらしないから何かとやってくれているそうだが、そこまで俺に何かをするメリットなんてほとんどない。
なら、あの日言っていた……それは無いか。
「ま、考えても分からないか」
考えても結局は行き止まり。答えなんて出るはずもなく時間だけが過ぎていく。
時計を見れば時刻は12時30分を過ぎている。
「ま、一先ずは飯だな。何か食材を買いに行くか?」
普段ならコンビニに向かうのだが、今日は料理をしてみようとスーパーに向かおうと思う。
空は生憎と雨模様だが、雨の日は嫌いじゃないので特に問題ない。
家で引きこもっていると、あの外がほんのり薄暗い感じが妙にしっくりくるのだ。おかげで雨の日は色々と捗る。
エコバッグを持って部屋着から外用のジャージに着替える。
傘とスマホを持ったら靴を履いて家を出る。
いつものコンビニには目も暮れず、俺はスーパーに向かって行く。
雨は結構な本降りだが、それでもその音は小説の執筆意欲を掻き立ててくれるのでとても好きだ。心地良さすら感じる。
道を行き交う人も休日にしてはかなり少なく、みんな家に居たり車で出かけているのだろう。
そうして俺はスーパーに到着し、傘の水滴を落とす。
最近白宮の作っていたものの中でも、オムレツが印象に残っていたので今日はオムレツを作ってみようと思う。
あいつ並みの物はどう足掻いても、奇跡に祈ったとしても確実に出せない。99%どころか100%絶対と言い切れる。どんな奇跡だろうとあの味は出せないと俺の舌が断言する。
「確か卵は切れてたよな?」
卵を二パック程カゴに入れる。
それからサラダ用に野菜やらもかごに入れ、最後に醤油やらの調味料も買っておく。
それらを持ってレジに並び会計をする。
すぐに袋に買ったものを詰めて、また家に戻る。
なんとも迅速な買い物だった。途中懐かしのバランス栄養食や10秒で色々チャージできるゼリー飲料などのコーナーを見ては、少し昔を懐かしんだ。
俺にもこんなもので飢えを凌いでいた時期があった。口の中がパッサパサになりながらもお構いなしに食べていたチョコ味のバー。ちなみに俺がチョコ味が好きなだけでプレーンやらチーズやらも色々と味がある。
まあ、そんなこんなで色々と昔を懐かしんだところで家路を辿ろうとしたときだった。
ここで、今日は何だか違う道から帰ろうと思ったのが間違いだったのかもしれない。
しばらく周りを見渡しながら歩いていると、やがて開けた場所に出てきては、中央に少し高級そうなマンションが三つほど立ち並んでいた。
その下には公園が広がっており、遊具やグラウンド、そして、ベンチもあって……
「あいつ、こんな雨の中で何をしてるんだよ!?」
そのベンチに座らず立っているのは最近見慣れた金にほど近い茶髪。日本人とは思えないほどの真っ白な肌。
何してるんだ!風邪ひきたいのか!?なんて声をかけようとしたその時、彼女の前に一人の男が立っていて、それが恐らく彼女の父親だということは、その金色の髪からすぐに分かった。
その空気感は俺にはとても重く、しばらく遠目から見ている事しか出来なかった。
ふと、少し顔を上げた彼女は、雨のせいなのかはたまた泣いているのか?それともどちらかなのか、とにかく疲れ切った顔をしている。その顔に気力と呼べるものはほとんど見受けられず、それを見た瞬間、その顔に見覚えがあって胸が苦しくなった。
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