16 赤くて甘い少しの変化
現在、俺達は柾の赤点仮補修を行っている。
流石赤点マンなだけあって、柾はほとんど何も理解できていない。本当にこれで進路が決まってるのか?と言いたくなってくる。
俺も俺で、テストの点こそそこそこだが、人に教えるのはやはり難しい。自分ですらテストで点を取るためぐらいしか勉強しなかったので、そこまで深く掘り下げて勉強していない。
が、そんな中、一人異彩を放つ人物がいる。
そう、白宮だ。
「それで、これはここでこうなるので、そうです」
「なるほどな。ていうか白宮さん俺よりも出来てる!?」
「お前一年生だよな?」
今柾がやっているテストは、一応二年生のテスト範囲であり、一年生たちはまだ古文とは何ぞや?的なところの筈なのだ。というかこの時期だと古文すらやっていないまである。
「私、一応高校三年間の学習は先取りで終わらせているので、なので大体の事なら教えられます」
「はーこれは凄いな。流石は天才白宮祈莉様だ。テスト二回連続オール満点はやっぱり違うのか」
この俺たちの通っている学校は、全部合わせて一年間にテストが五回ある。1、2学期にそれぞれ二回ずつ。そして3学期に一回の計五回。
そんな中で、なんと白宮は一回目のテストから全教科満点を取り続けているらしい。
まさに不動の頂点。
(全教科満点て、ラノベに出てきそうだなこいつ)
「いえ、別に私は大したことは……」
「いやいや。これは誇っていいって。だってテストってどんなに簡単でも難しくても、満点ってほとんど取れないんだよ?それを取ってるんだ。逆に誇ってくれないと俺の立場が無いから!」
「それは……先輩は、どう、思いますか?」
「どうって?」
「そ、その。テストで満点なんて、当たり前、で。でも、先輩はそれをどう思いますか?」
「は?そんなの凄いに決まってんだろ?お前はなんか妙なところで自信なさげだけど、でもそれは凄い事だ。お前は凄いぞ?」
「!!……あ、えっと、その。ありがとうございます」
なんだか心無しか白宮の顔が赤くなっている。熱でもあるのだろうか?
「白宮、顔赤いぞ?」
「あ、その、これは……えっと」
なんだ?何をそんな必死に隠そうとしてるんだ?
白宮の顔を下から覗き込む。
「やっぱり赤い」
「……!!」
「……あ、もしかして照れてるのか?」
「あ、えっと、あぁー……!!」
「そ、そこまで!?」
みるみるうちに白宮の顔は赤くなっていく。
そこまで照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
(考えてみれば、さっきの下から除いたのはアウトだったか。やっちまった!あー、くそ。可愛いなあ!!)
「おい柾!お前何ニヤニヤして見てんだ!?」
「いんやー?あまりにも二人が微笑ましいからさ、つい」
「お、お前は見てないでさっさとその問題を解け!」
「えー!?おいらももっと二人のイチャイチャ見てたーい!」
「あ、蜘蛛」
「ヒィえええー!!」
壁に架空の蜘蛛がいると仮定して柾の横を指さす。
「え、え!?ど、どこ!?後ろ!?とととと取ってえー!か、奏汰!やばいって、俺動けないから!蜘蛛だけは駄目だから!?」
「……ぷっ!あはははっ!!」
「ちょ、白宮さん!?ほんとに、笑い事じゃないから!?か、奏汰ぁー!!」
「ぷっ!やばい……お前がこれから真面目に茶化さず勉強するなら助けてやるよ」
「やる、やります!寧ろやらせてください!お願いします!」
「しょうがねーな」
本当はいもしない蜘蛛を取るふりをして窓の外に投げるふりをする。白宮は俺の目を見て察したのか、窓を開けてくれた。おかげで俺のこれは完璧な演技として、しばらく柾の集中力をアップさせたのだった。
しばらくして時間が経ち、外はすっかり日が落ちかけている。
昼前に帰ってきて、白宮の作った昼食を食べて、また勉強を再開する。
そうしているうちに流石に柾も限界に達したのか椅子の背もたれに体重を預けて腕をだらしなくのばす。
「あー疲れた疲れた。これをいつも平気でやってるって、奏汰って結構凄いのな?」
「いや、ここまで長時間はやらないぞ?というか普段俺は二時間以上勉強しないからな」
「それはそれで凄いわ!なんでそれであんな点数取れんだよ!?カンニングしても無理だろ!」
「先輩って意外と頭良いんですね。まあ、それ以外が……ふふっ!」
「おい!お前今なぜ笑った!?訳を聞こうじゃないか!?」
なんて失礼なやつなんだろうか?
ああそうだ。俺は勉強以外は何もない。何ならその勉強も全然だ。
なら運動?駄目だ。コミュニケーションは、取れるが積極的には取りに行かない。容姿は言うまでもなく悪い方だ。
(あれ?俺って思うと何もなかったのか?)
「白宮さん。奏汰といる時は話し方違うよね」
「え?」
「なんていうか。いつもと違って取り繕ってる感じが無いっていうかさ。初めて食堂で話した時とも変わってて、なんかこっちの方が良いね!」
「あ、その……」
「それは俺も同感だな。あの頃は違和感だらけだったが、今はまだ普通に話せる分やり易いしな。前のあの取り繕った笑い方とか、見てるだけで吐き気がしたぞ」
「そ、そこまででしたか」
「ま、これも奏汰のおかげかね?」
「おう。どうやらそう言う思考が戻ってきたようだな。じゃあ、もう一回勉強するか?」
「いえ。もう何も言わないので勘弁を!というか奏汰、俺風呂入っていい?」
「ああ。良いぞ。むしろ風呂に入ってくれた方が静かで助かる」
「その方が白宮さんとも二人になれるしな!」
「湯船に沈めてやろうか?」
「それじゃあ行ってきます!」
俺の言葉を聞いてそそくさと逃げるように浴室に向かう柾。
ついさっきまで騒がしかったこの空間には、既にほとんど音がなくなっていて静寂が支配している。向かいに座る白宮は少し目を泳がせて部屋を見渡している。
さっきまで煩いと思っていた筈なのに、もう既に柾が早く帰ってこないのかついつい浴室の方を見てしまう。が、まだ出て来る気配はない。
「その、あの……今日はありがとな。おかげで柾も助かった」
「そ、そうですか……」
柾がさっきからいろんな事を言いまくったせいで、それらが今一気に脳内を駆け巡って、とても居たたまれない気持ちになる。
(くそ。あいつのせいで最悪だ)
お互い変に意識し合ったりするせいで中々居心地の悪い空気が流れている。
と、そんなとき、不意に白宮が笑う。
「ふっ、ふふっ!」
「し、白宮?」
「すみません。でも、先輩、顔が赤くて、それで可愛かったのでつい」
「か、可愛い!?」
待て、落ち着こう。そう。別に可愛いと言われただけ。言われただけで……
(いや、そう言ってる白宮も結構赤くなってるんだけどね!)
「あ、別に気持ち悪いとかじゃないので、それとも、やっぱり嫌、ですか?」
「べ、別に嫌ではない。ただ、」
「ただ?」
(ああ、もう。なんでこんな最近、こいつはこんなに……。もういいか。分かった。言ってやる!いつも……は言ってないけど。別にこいつは聞きなれてるだろうしな。別に好きになったわけではない。ただ、お返しとして言うだけだ。そうだ。お返しだ……)
俺は顔を手で押さえ、なるべく表情を見せないようにする。
我ながら、なぜこんな考えに至ったのかは分からない。
「お前も、可愛い……な、って……」
でも、どうやら可愛さは時に人の思考を少し奪うことも出来るらしい。なんとも怖い武器だ。
俺の言葉に目を数回しばたかせ、そして次の瞬間、声になっていない悲鳴をあげながら白宮はトイレへと走っていく。
(あれ?俺、なんか……どうしたんだろう?)
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