15 夏の熱気にあてられて、面倒な奴に面倒な事がばれました

 嫌な予感とは結構な確率で当たる物だ。

 テストの点数が悪そうなとき。先生の顔が怖いとき。ふと外を見た時の雲の動き。

 どれをとっても、嫌な予感がすると、大体がその予感通りになる。


 俺はさっき嫌な予感を覚えた。

 もしかしたら、彼女が今日来ているかもしれない。そんな嫌な予感。

 いつもであれば美味しい夕食が食べられるので飛び上がる程喜ばしい事ではある。しかし今は憎たらしい事に隣に柾がいる。こいつの事だ、白宮を見たら色々と邪推するに決まっている。


 どうするか。今からどこかに引き返すか?どこかファミレスやらでお茶と称して彼女に今日来るのか聞くか?

 しかし、もう既に遅く、あと数十メートル先の角を曲がれば後は家へ一直線。

 (もう、この際だから来るにしても俺たちの後で来てくれ!)

 と、そんな願いも虚しく、角を曲がると家の前に人影が見えて……


 「ん?なんか誰かいないか?」

 「いいや?気のせいだろ?というか俺腹減ったんだよな。やっぱりどっか行かないか?」

 「なんでだよ。もう家目の前だろ?お前の家なんて何かしらあるんだからお前の家で食えよ」

 「ちょ、ちょっと待て!」

 

 また前を向いて歩きだす柾の腕を力強く引く。

 流石にこのまま行ったら邪推確定。恐らく秋葉にも伝わって、俺は二人から色々と面倒な事を聞かれるだろう。

 ただでさえ可愛いあの白宮に、あろうことか料理まで食べさせてもらっているなんて、柾たちが知ったらしばらくはそのネタでいじられること間違いなしだ。

 (そんなのごめんだ。ただでさこいつらのこの恋愛脳にはうんざりしてるんだ。面倒ごとをこれ以上増やされてたまるか!)


 「なんだよ?なんか奏汰らしくないぞ?」 

 「い、いや、その……」

 「人も待ってるんだぞ?」

 「それは、もしかしたら多分知らない人で……あれだ!壺売りに来た人だよ!最近結構頻繁に来てて。いつも居留守使ってるから、ここで出てくと少し面倒に……」

 「は?それ、逆に強く言わないとこれからもずっと来るんだぞ?だったら尚更早く行かなきゃだろ!」

 「あ、ちょ!!」


 そう言って柾は怪しげな訪問販売に物申すためにさっきよりも気合を入れて走っていく。

 俺と違い運動も出来る柾に俺が足で追い付くはずもなく、柾はすぐに家の前まで走っていき……


 「おいおい。こんな可愛い訪問販売がいたんですけど?ははーん。さては奏汰、これを隠そうとしたわけか?」


 夏の熱気にあてられて息を切らしながらもなんとか家の前まで走ってきた俺に、やはりいつもの面倒な表情を浮かべる柾。


 「言っとくが、なあ。俺と、白宮、はぁはぁ……は、そう言う、関係じゃ……」

 「もう少し落ち着いてから話せよ。まあ、一先ず中入ろうぜ?白宮さんも暑かったでしょ?」

 「いえ。私が勝手に待っていただけなので」

 「おい聞いたか奏汰?なんていい子なんだ?もうほんと天使、いや、女神様じゃん!?なんでお前白宮さんを好きにならないの?俺も秋葉がいなかったら一発で落ちてるぞ?」

 「俺はお前みたいに単純じゃないんだ。一緒にするな!」

 

 急いで鍵を開けて中に飛び込む。

 リビングにダッシュで向かってはエアコンを付ける。鞄はソファの横に置きっぱなしにして自身はソファにダイブする。


 「もう先輩!鞄はしっかりと片してください!それに着替えてからソファに座るべきです!」 

 「別にいいだろ?」

 「駄目です!汗をかいたままだとソファで菌が繁殖してしまいます!」

 「あ、そ、そうですか。すみません」


 流石に菌を出されると俺も言う事を聞かざる負えない。つまりは異臭を放ったり、革が痛んだり、カビが生えたりするのだろう。確かにそれは良くない。

 そして、最近ではこの家に来る頻度が高い白宮がそれらをたまに掃除、洗濯をする。

 つまり、誰に迷惑が掛かるか、というと必然的に彼女にかかるのだ。


 「おやおや。これはもう夫婦の会話ですな」

 「そこ、うるさいぞ!」

 「だってその通りだろ?俺だって秋葉とそんな会話しないぞ?」


 確かに、恋人でもこんな会話は滅多にしないだろう。だが、それは彼女がこの家の家事を諸々やってくれたりするから言うのであって、別にそれ以外の理由はない。


 「だから、俺達はそんな関係じゃ断じてないし、そんな関係になる予定もない」

 「と、言ってますけど、白宮さん的にはどう?」

 「わ、私ですか?そう、ですね……」


 なぜか話を振られた白宮は少し顔を赤くしている。

 

 「おい柾!白宮は暑さで少し思考が鈍ってるんだからあんまり話を振るな!」

 「は?……あ、ああ。なるほど。そうかそうか。よーく分かったわ」

 「何がだよ?」


 何が分かったのだろうか?というかなんの話なのかもいまいち理解できない。

 が、柾は少し呆れた風な表情でこう呟くのだった。


 「全く……。お前が如何に馬鹿かってことがだよ」


 別に、特に間違ったことは言っていない柾であったが、そんなことは奏汰にはわかるはずもなく、結果柾は奏汰から今日の布団を剥奪されるところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る