14 嫌な予感程結構当たるもので
「奏汰君や」
「なんだ、赤点マン?」
「その呼び方やめろい!」
「イチャコラ不振者か?」
「誰がリア充だって?」
「うるせぇ。ぶっ殺す○!」
「いや、最後の一文字隠しても……」
最後の一文字?なんのことだ?なんて無粋なツッコミはやめておこう。
なぜこいつを見て赤点マンなんて呼んだかって?そんなの決まってる。
こいつは、秋葉と一緒にいちゃついてばかりで碌に勉強をしなかったらしい。おかげで今回のテストは二教科も赤点を取っている。一教科ですら赤点なんてやばいというのに、それを同時に二つも。
しかも、こいつはあろうことかこの世の終わりのようなその成績表を隠しもせず、フルオープンで俺の元まで持ってきたのだ。
「奏汰さんは、今回の成績どうっすか?」
「いや、俺は特に変わらないけど」
そう言って返された成績表を柾に見せる。
「こんなの普通にしてれば誰にでも取れるだろ?」なんて、赤点のオンパレードだった柾に少し嫌味を込めて言う。
柾はその俺の成績表と自分の成績表を見比べて、そのあとで苦い顔を作る。
「なんでいなんでい!別にいいもんね!俺には秋葉がいるからいいもんね!可愛い彼女がいるからテストも成績も知ったことかあー!」
「逆にそこまで言い切るといっそ清々しいな」
「なんだよ、その、3以下の無い成績表は?なに?お前がり勉なの?」
「別に。というか俺の成績なんていつも見てんだから知ってんだろ?」
「お前の成績表っていつも安定して面白みに欠けるよなぁ。もっとコメディー要素をふんだんにさ?」
「成績に面白さ求めんなよ。お前はそろそろ焦ったらどうだ?進路だってあらかた決めないと終わるぞ?」
「まあ、俺は大体決まってるけどな」
なに?こいつがもう進路を決めている、だと?俺よりも成績は低いはずなのに。顔は良いがそれ以外は点で駄目な奴だから同じ底辺生徒だと思っていた柾が、あろうことか俺より先に進路を決めている?
「まあ俺の場合はお前みたいに成績良くないからそれしか選べないってだけだけど。その分やりたいことを見極めて打ち込めるのは良いよな」
「お、お前、いつの間にそんな悟って!?」
なんだろう。この間まで隣にいたはずのこいつが、いつの間にか遠くに行ってしまったようでとても寂しく感じる。
「ま、お前はそこまで成績良いなら逆に選ぶのが大変じゃないか?」
「俺はそこまで良くねーよ」
「それ俺からしたら嫌味にしか聞こえねーんだけど?」
「多少の嫌味は含めてるからな」
「ケッ!いやな奴だ!」
とはいっても、俺の成績が高いか?と聞かれれば、別にそこまでではない。と誰もが答えるだろう。
それに、俺は……
「……」
「あー。そう言えば、家の事情があるんだったか?」
「あ、いや。違うんだ、今の間は」
「まあ、なんでもいいけどさ。でも、そんなことばっか考えてないでほんとにやりたい事とか考えた方が良いと思うけどな」
「あぁ……そう、だな」
進路と言われたは否が応でも思い出してしまう家庭の事情。
だが、今はまだそれは胸にしまっておく。
「それで、お前、補習は?」
「ああ、今回は無いって。次もう一回取ったら補習で、また取ったら学年末の春休み中に追試らしい」
「へー、結構甘いな」
「お前は赤点取らないからわかんないんだよ!」
逆にそんな毎回取ってたら終わってるわ!と突っ込みながらも、こいつがここへ来た目的を悟る。
「つまり、お前俺に勉強教えろと?」
「流石に赤点はそのままにしたらやばいだろ?しかも、お前この二教科はどっちも9割超えてるし」
こいつの赤点は……どうやら古文と世界史だ。
(ていうかこいつ、文系選んだくせにこの二つを、よりにもよって赤点て……)
俺の顔には呆れが滲む。流石にこれは呆れざる負えない。数学や化学くらいならまだわかるが、流石にこの二教科は……
「まあ、かなりやばいみたいだし……仕方が無いか」
「よっしゃー!ありがとう。ありがとう心の友よ!心友ってこういうことを言うんだなぁー!」
「やめろ暑苦しい!」
俺に抱き着いて来ようとする柾を突き放す。
なんでこの暑い時期に、しかも野郎と抱き合わなければいかないんだか。
「そう言うのは秋葉とやれよ」
「いつもやってるって!」
「うっざ!!」
「ひっでーなおい!」
そんな会話をしながらチャイムが授業終了を告げる。
この時間はこの成績表を渡すだけだったため、それ以外は特に何もなく、結果こうして雑談タイムとなったわけだ。
ちなみにこの後は集会をしたらあとは下校となる。
終業式は来週の火曜日なので、あとは来週の月曜に行くだけだ。
「じゃあ、今日からお前の家に泊まるわ。だから着替えとか貸してくれる?」
「お前は裸で外に放り出してやろうか?」
「冗談だよ!こうしてしっかりと着替えは持ってきてるって!」
「柾。お前まさか、自分が赤点になること知ってて?」
「いやーハッハ!」
どうやら確信犯らしい。
こいつは駄目だ。と諦めて仕方なく家への滞在を許可するのだった。
―――
学校も終わり、俺達はこうして二人で帰っている。
今日は最近サボり気味だった執筆作業をそろそろ始めようかと思ったのだが、こいつがいる以上はそれも出来そうにない。
(ま、まあまだ焦るような時間じゃない。そうだ。だってまだ一冊分のストックがあるんだから)
「ん?どうした奏汰?俺が泊まるのがそんなに不満か?」
「ああ、不満だな」
「なんだよ、いいじゃんたまには。男の友情を深め合おうぜ!」
「お前は秋葉と愛でも深めてればいいものを」
「なんだなんだ?もしかして嫉妬か?」
「ちっげーよ!」
なんとも微笑ましい。でも、少し暑苦しい友情を確かめ合いながら、俺達は家路を辿っていく。
(そう言えば、今日ってあいつ来るのか?……あ、だとしたらやばくない?)
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