13 なんだかんだでほんの少し縮まった距離
休みは過ぎ去り俺は月曜からまた普段通りに学校へ行く。
今はもう6月の下旬。数日経てば7月に入る。まだ梅雨は続いているが、今日は久々の晴れで、まるで夏の様に太陽の光がじりじりと俺を焼こうとしてくる。
土曜日にようやく帰った白宮は少し不服そうな顔をしていた。なんでも、日曜日まではいるつもりだったらしい。俺としても彼女の料理が食べられるのなら本望でもあるが、それでもやはりそろそろ帰らせるべきだと思い、無理やり帰らせた。
あまりにも帰りたくなさそうだったので何か一つ言う事を聞いてやるというと「じゃあ、先輩が送ってください」とのことだったので、それくらいならと送ってきた。勿論、マスクに帽子、サングラスを装着し、半ば不審者と化して雨の降る中、傘を差しながら送っていった。
途中警官に睨まれたが特に職質されることも無かった。
「それにしても暑いな。また倒れるわ」
「じゃあ、これ飲みますか?」
「あーサンキュ。おお、結構冷えてる。レモネードか!……!?」
「おはようございます。先輩!」
俺はその少女の顔を見た瞬間急いで離れる。
「おま、!この前学校では近づかないって約束だっただろ!」
「ここ学校じゃありませんよ?」
「通学路も学校内も一緒だろ!」
「先輩は自意識過剰なんです。別に誰も先輩の事は見ていません!」
「お前を見てるんだよ!!結果として俺の方も見られるの!分かるか?」
「別に良いじゃないですか。見られて減る物でもないんですし」
こいつ、話を聞かないタイプらしい。
(いや、知ってたよ。知ってた。前々から話を聞かない奴だって、そのくらい理解していたよ)
「それに、ここ、誰もいないですし大丈夫ですよ」
「誰も……確かにいないか」
そこでほっと一息つこうと、渡されたペットボトルのキャップを回して中のレモネードを飲む。
この時期に冷えたレモネードは格別のうまさで、今も俺の喉には爽快感が澄み渡っている。
「あー癒される。で、いくらだった?」
「それ期間限定らしいんです。私も好きで、だからよく飲んでて。家にも何本か買い溜めてあるんです。なのでおすそ分けです」
「まあ、そう言う事ならありがとう」
「いえ、この前送ってくれたお礼です」
礼をされるほどの事は何一つしていないのだが、それでも本人がしたいのなら、飲み物一本ぐらいなら受け取っておく。
「先輩、まだ長袖ですね」
「そうだな」
「熱くないんですか?」
「日焼けするよりはいいな」
「先輩って女の子みたいに肌白いですよね?」
「うるせ。ほっとけ」
そんななんでもない会話をしながら学校近くまで来る。
流石にこれ以上二人で歩いていると俺はやばいので、そろそろ白宮から離れることにする。
「白宮。そろそろ離れてくれ」
白宮の肩に手を置き距離を取る。
「別にいいじゃないですか。もういっそのこと二人で行きましょうよ?」
「お前は俺に死ねと?」
「いえ。何も皆さんそこまではしないと思いますよ?」
「それが分からないんだよなぁ……」
俺の服の裾を頑なに離さない白宮。
そして、そうこうしているうちに予鈴が鳴り響く。その予鈴に気がそれた瞬間、白宮の手をほどいて全速力で走る。
これでも男の端くれであり、全速力で走れば100メートルなどおそるるに足らない。
そう考えて懸命に足を動かす。
俺はよく頑張っている。頑張っているのだ。
ただ、後ろから物凄い勢いで走って来る白宮が異常なのだ。
(そうだよ、忘れてたよ!あいつ運動も出来たんだよ!やばい、このままだと本気で追い付かれる!)
最後の力を振り絞り、俺は今日の全ての体力を此処で使い果たすつもりで足を回転させた。
結果を言うならば、俺は何とか逃げ切ることが出来た。
周りには恐らくだが遅刻をしそうで急いでいるちょっと変な人、ぐらいにしか思われていないだろう。
急いで靴を履き替えてすぐさま教室へ向かう。
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたが、その声の主から逃げているのだから決して止まらず、寧ろ気持ち速めに階段を駆け上がる。
「はぁはぁはぁ。危なかった」
「お、少しギリギリの登校とは、今日もあの人と?」
「はぁはぁ。そうだった。お前には色々と礼をしないとだったな」
「え?お礼?いいっていいって。親友として当然の事をしただけだって。別に特別な事なんて何もしてないだろ?」
「そうだな。だからお前にはたっぷりと関節技をプレゼントしてやるよ!」
「あー……。そっちのお礼か……。いやーッハッハッハ!もう授業が始まるな。席に着かないと、グギャ!?い、痛い痛い!!やめ、やめろー!」
「ま、とりあえずこれぐらいで我慢してやるよ」
「ひっでーな!せっかくお前の為を想って白宮さんを連れてったのに!」
「まあ、白宮には色々と助けられた。でも、別にお前のおかげではない。それよりもその邪推脳をたたき割ってやろうか?」
俺の手からするりと抜け出した柾が自席へと駆け足で戻っていく。
席から気持ち悪いニヤついた顔を向けて来る柾に、俺は心の中で決意する。
(よし。もうあいつは放課後、鼻から激辛パスタにしてやろう)
俺がそうやって恐らくかなりの悪役っぽい表情を向けると、何かを察したらしく休み時間になると俺に謝りに来るのだった。勿論、いつもの様に茶化しを入れてきたので、ドロップキックを喰らわせてやった。
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