07 睡魔が俺を夢へと連れ去った。(一日寝てただけ)

 「おいおい、奏汰。お前流石に顔が死に過ぎて、軽いホラー映画になってんぞ?」

 「そうか。ならお前をかじれば仲良くホラー映画だな」

 「そんなの仲良くないじゃ―ん。というか、今日もあの人と登校してきたのか?最近よく一緒に居るよな?どうなんだ?お前ワンチャンあるんじゃね?ほら、もう告れよ」

 「うるさい。柾うるさい。そしてうるさい。というか、やめろって言ってるのになぜかやめないんだよな。おかげで毎日通学路で待ち伏せされて、結果離れて登校するためにいらぬ体力使わされるんだ」

 「だからそんなにやつれてんのか?もう諦めて告れよ」

 「そう言う事だ。あと、そろそろお前もやめないとテス勉終わるぞ?いいのか?」

 「いえ、すみませんでした。そしてノート見せて?」

 

 俺はノートの角で柾の頭を叩く。「痛ったー!」とか言ってるもののそんなのには構わない。

 本当の事を言うと仕事続きで、寝てもいなければ食べてもいないのでこういうことになっているわけだが、柾には言ってないのでそんなことは知るはずもない。

 柾はそんな俺を見てニヤニヤ笑いを浮かべている。きっと何か変なことを邪推しているに違いない。


 「とはいってもなあ。そう言えばお前、昨日は飯食ったか?」

 「いや、なんも食べてない」

 「一昨日の夜も?」

 「……某バランス栄養食だな」

 「……俺は冗談抜きでお前が本気で心配だよ。仕方ねえな。俺が何か作りに行ってやろうか?」

 

 柾がそう得意げな表情を浮かべる。が、俺はその表情に騙されてはいけないことを良く知っている。

 所詮はこいつも男なのだ。しかも、俺よりも幾分酷い部類の。

 以前、今と全く同じような事を言われたので、ついうっかり自宅のキッチンを貸したら、まあなんとも見事な油ギトギトのなんだかよく分からない食べ物(?)が出てきた。本人曰くチャーハンを作りたかったらしいが、なんか油と他の液体が混ざった撃液の中にご飯が沈んでいるという状況だった。

 だからこそ、俺は何があってもこいつに料理だけはさせないと心に誓ったのだ。


 「そうか。ならせめて秋葉を連れてきてくれ。お前だけだと俺は数回死ぬ羽目になるからな」

 「ちっ、お前に俺の手料理振るってやろうと思ったのに。まあ仕方が無いか。秋葉の料理はまあまあ上手いからな。俺の母さんよりも上手いしな」

 「意外と女子力高いのな。まあお前と付き合うならお前よりかはそっちのスペック高くないと終わるもんな」

 「そうそう。流石の俺も彼女にあれは出せないしな」

 「つまり俺は実験台だったってわけか。お、もう席座れよ」

 

 話してる途中で一限の鐘が鳴ったので少しうるさい柾を席に座らせる。


 流石に疲れた。一週間碌に寝ないで、今朝は徹夜明け。幾ら若くても結構体に負担をかけているのは分かる。最近じゃ眩暈に加えてなんだか息苦しくて胸の痛みも出てきた。これは流石にやばいと思ったので、一先ずこれから一週間はゆっくりしようと心に決める。


 あ、でも、今日は帰ったら田中さんに原稿を渡さないとだ。見直しも少し……

 この間から少し早めに原稿が出来たことで少しはしゃいで田中さんに言ったところ「じゃあすぐにでも取りに行きますね」なんて言葉が返ってきたのだ。その行動の速さに少し戦慄する。これで完成してなかったらどうなっていたんだろうか?


 授業開始の号令の後でも仕事の事を考えていると凄い速さで俺の元を睡魔が襲っていき、結果、この時間は熟睡してしまうのであった。


 熟睡しきった俺は気が付けば休み時間になっていて、柾に叩き起こされる。

 そのあと色々話をしながら、結局午前中の授業はほとんどを寝て過ごしてしまったらしい。昼食も取って、相変わらず白宮がやってきたものの、特に話すことなく俺はすぐに教室に戻り、そしてまた眠るのであった。


 「なあ、奏汰。お前今日寝すぎだろ?」

 「ああ。おかげで授業何も聞いてなかったな」

 「あの優等生の奏汰君が机に突っ伏して授業を休んでて先生たちも少し戸惑ってたな」

 「まあ、そこで何かを察してくれるのも先生なのさ。おかげで今日はよく眠れたよ」

 「なあ、俺不思議なんだけどさ。俺が寝てると叩き起こされるのに、なんでお前は静観されるんだ?」

 「日頃の行いじゃね?ほら、さっきも秋葉といちゃいちゃしてたろ?」

 「なんだよそれ!?もはや嫉妬の域じゃん!そうか、先生たちは俺達に嫉妬して……リア充は辛いな!」

 

 最後の一言は恐らく世の独り身男子諸君を敵に回すこと間違い無しだろう。

 ちなみに先生たちが何も言わなかったのは俺が恐らく仕事をしていたと知ってるから。それに加えていつもは真面目に受けていて、成績もまあ、悪くはない方だからだ。というと、結構日頃の行いだな。


 「ま、いちゃこらして点数落ちてんだ。それで寝てれば叩かれもするだろ?」 

 「くっ!これが優等生か!あーあ。俺もお前みたいに物覚え良くなりてーよ」

 「お前はその分顔があるんだから我慢しろ」

 「それ言ったらお前だって悪くはないだろ?なんだよそれ、不公平だ!」

 「俺はどう見ても悪いっての。あーもううるせー。ほら、早く座れ!」

 「ちぇっ、覚えてろよー!」


 まるで子供向け番組の悪役の三下みたいな事を言って自席に戻る柾。

 なんだかんだで俺を気遣って俺の体調を見てるのも知っている。結構いい奴なのだ。


 「相変わらず世話焼きだよな」

 

 ぼそっとそんなことを呟きながら、俺はホームルームを無心で聞き流す。そういえば、授業は受けないものの、一応教材は机に入れたんだった、とそれらを鞄に入れなおす。


 それから朝に配られたらしい茶封筒を鞄に詰めて準備完了だ。もう一つ封筒みたいなものがあったが、取り敢えず鞄に入るのはここまでだし、そこまで大切なものでもなさそうだと思ったので、一先ずそれは置いていくことにした。

 

 そう、置いてしまった。それが、如何に大切で、如何に俺の学校生活に支障を来すのかということを考えもせず、俺はこのことを後になって、詳しくは一時間後くらいに嫌という程思い知ることになるのだった。


 帰りにもやはり校舎内で白宮に突っかかられたが適当にあしらっては、そそくさと帰って来る。

 が、最後に見た白宮の顔は少し不満そうで、それでいてどこか愉しそうでもあった。

 

 この時の俺は、まさかこの笑みを、もっと間近で見せつけられるとは思いもしないので、俺は何も知らず帰路を辿る。

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