03 美人の圧ってなんでこんなに怖いんだろうか?

 家に帰って、俺がまず最初に何をするか。学校の授業の復習?それとも家事?


 まさか。俺は学校の復習なんて無駄なことは絶対にやらないし、そんなことに労力を割くぐらいならテレビを見てだらだらする。家事も同じで、まず食器洗い等などは全くと言っていいほどやらない。まず洗うものが無いからだ。洗濯だけは出来なきゃ困るので大丈夫だが、それ以外は絶対にしない。


 それは勿論俺の部屋も例外ではない。


 「相変わらずの汚部屋ですね」

 「仕方がないでしょう。それに、ここに散らかってるのは大体が没原稿であって、別に洋服類を散らかしてるわけじゃないんだから、そこは突っ込まないでくれると助かるんですが?」

 

 俺はそう言って、俺の担当編集の田中さんに今回の原稿を渡す。

 

 「今回も遅い仕事でしたね。締め切りまであと一日でしたよ。もう少し早めに仕上げてもらえないですか?」

 「現役高校生に締め切り一週間前に仕上げろって、無理があるでしょう」

 「他の作家さんは早い人だと一冊分のストックを溜めて書いている人もいますけどね。しかも会社に勤めながら」

 「俺は高校生であって、大人よりもキャパが小さいのは当たり前でしょう?」

 「はぁー。まあ、書きあがってるのであまり文句は言いませんが、ここから徹夜で見直す私の身にもなってください」

 「すみません」


 そんな少し怒り気味の編集者の田中さんに平謝りをする俺は、気づいてるだろうがラノベ作家をしている。

 高校二年でラノベ作家。一応は流行りのファンタジー物を書いており、現在は5巻まで続いている。この原稿は6巻にあたり、なかなか長い事続いている作品でもある。


 中学三年生の時。なんとなくで送って大賞で見事受賞し、そのまま書籍化したのだ。中学三年で書籍化し、異例のデビューとなったわけだがなんだかんだで今も続いている。まあまあな人気作でもあり、もうすぐで100万部にも到達するといったところだ。


 「でも、これでも最近は結構頑張って仕上げたんですよ?昨日だってカロリー○イトを食べながら必死に」

 「そうですね。それじゃあ今日からは私の番ですね?」


 かなり語気を強めたその言葉に、流石に反論できなくなり、またもや謝る俺。

 まだ20代後半になったばかりで、結構若い田中さんは俺にそう圧力をかけて来る。美人の圧ってなんでこんなに怖いのかよく分からない。とにかく誠心誠意謝っておこう。


 「はぁー。本当なら今頃は10巻位出て、そろそろアニメ化の話も出てきてもおかしくないのに、そうならないのは先生の仕事が遅いからですよ?」

 「うぐっ、それは分かってます。まあ、のんびり行きましょうよ?まだまだ人生長いんですし」

 「こんな人が作家だなんて、ほんと人間ってわかりませんね」


 頭を抱えてそう呟く田中さん。

 確かに、中学三年生の頃には自分でも思う程考えがおやじ臭かったのだから、人間本当に分からない。自分でも本当は自分は中年オヤジの転生者なのでは?と思うこともあった。

 まあ、普通に子供時代はあったし、少なくても小学校中学年辺りまでは他ともあまり変わらなかったから恐らく違うが。


 「まあ、取り敢えずお預かりします。何もなければ一週間以内に送ります」

 「はい。毎度ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 「もう少し私を労わってくれると助かるんですけどね。次はもう少し早くお願いします」 

 「ど、努力します」

 「……はぁー。まあ、期待しないで待ってます」


 そう少し疲れた風な顔をしながら玄関から出ていく田中さんを見送る。

 

 それから少し休憩を挟んでから、俺はまた執筆に戻る。

 流石に最近は執筆スピードがかなり落ちているのは自分でもわかる。ネットでも読者が「刊行スピードが遅い」と言っているのは良く目にする。流石に読者がそれで減るのは本望でもないので、これからは少しづつ仕事のペースを上げようと思う。


 「取り敢えず、一冊分のストックを目指すか」


 田中さんが恐らく皮肉で言った、俺には到底成し得ない仕事量。俺はそれを目標として、今日も片手にバランス栄養食を握り絞め、パソコンをひたすらに叩くのであった。

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