第161話 死地への救援
四国陥落から四時間。
自衛隊からの緊急要請を受け、百合花と樹、そして選ばれた数名の三年生のワルキューレは学園都市なんばを目指していた。
四国を陥落させたホロゥの軍勢はその後三個集団に分かれ、それぞれが広島、岡山、淡路島へと攻撃を仕掛けた。
そのうち既に岡山と淡路島は陥落してしまっている。現在、ホロゥ集団は北九州から増援に出たワルキューレ部隊と広島で、高天原女学院を中心とした部隊と岡山北部で、聖蘭黒百合女学院を中心とした部隊と大阪でそれぞれ戦闘を繰り広げていた。
そのうち、あり得ない話だが一番戦線が崩壊寸前のなんばに百合花たちは派遣されている。
「聖蘭のワルキューレに尋常じゃないくらいの死者が出てるって!」
「分かってるよそんなこと!」
樹からの状況確認に、百合花はつい荒っぽく返してしまう。
関西に展開していた自衛隊のワルキューレ部隊はとっくに全滅。今は西園寺家と関わりのある現役復帰組のワルキューレたちと聖蘭のワルキューレでどうにか食い止めている状況ではあるが、それでも死者があまりに多すぎる。
聖蘭での戦闘となると杏華が最前線に立っているのは当たり前の話で、もし彼女が殺されていたらと考えると気が気ではなかった。
祈るようにしてアサルトを握っていると、突如ヘリの警報音が鳴り響く。と、同時に二つ隣を飛んでいたヘリの真上から巨大な影が降下し、プロペラを破壊して機体を真っ二つにへし折ってしまった。
現れたホロゥはヘリのパイロットを引きずりだすと外へと放り投げ、乗っていたワルキューレを咥えてそのまま飲み込んでしまう。
ホロゥの体表に不気味な光が生じ、衝撃波を伴う咆哮が発せられた。
「ケツァル! タイラント種ホロゥの襲撃です!」
「既に戦闘空域に入っていたのね!」
「今すぐヘリを放棄して即時脱出を! 散開!」
樹が素早く指示を出したことで、パイロット含めてすべてのヘリに乗っていた全員がパラシュートを背負って飛び降りた。
外に飛び出すと、下からワイバーンホロゥが何体も上昇してくるのが見える。
パラシュートを展開するタイミングを間違えると死ぬことは確実だ。早すぎるとホロゥの胃袋に収まるし、遅すぎると地面に叩きつけられる。
三年生全員がアサルトを射撃形態に変形させ、向かってくるワイバーンを迎撃する。とにかく接近させるわけにはいかないと、ひたすら弾丸をばらまいていた。
頭を撃ち抜かれたワイバーンが何体も絶命し、落下しながら消滅する。
だが、反撃してくる個体もいて、火球を吐いて攻撃を仕掛けてきていた。
運悪く火球が直撃してしまったワルキューレは黒焦げとなり、炭化した四肢が崩れながら落ちていく。
と、そこに追い打ちをかけるように上空のケツァルがヘリを蹴って高速で滑空すると、さらに二人のワルキューレを捕らえて丸呑みにしてしまう。
これ以上犠牲を出すものかと、百合花はリリカルパワーを足場にして滞空状態での戦闘を選んだ。
自身を包囲するワイバーンの群れとケツァルに対し、リリカルパワーを解放することで意識を向けさせる。
「百合花ッ!」
「大丈夫! 樹たちはそのまま――」
「違う! 避けて!」
樹からの警告。同時に、黒紫の結晶がいくつも飛び上がってきた。
結晶からはいくつものビーム攻撃が放たれ、百合花を殺す気満々で追尾してくる。
いくつかの結晶は降下中の樹たちにも襲いかかった。
ワイバーンが巻き込まれようと関係ない波状攻撃を受けてはひとたまりもない。とにかく防御に徹するも、ビームは防御を貫いてくる。
樹は体の正面でアサルトを交差させることで、百合花はアサルトを盾の形態にすることで防ごうとする。
が、ビームは百合花のアサルトを貫いて右手首を吹き飛ばした。樹のアサルトも破損し、貫通するほどの威力は失っているがビームが腹部を打ち据える。他のワルキューレたちは防御できずに頭を吹き飛ばされて殺されていた。
ワイバーンやケツァルたちも全滅させ、結晶が地上へと引き返していく。
使い物にならなくなったアサルトを投げ捨て、百合花はリリカルパワーの足場から飛び降りた。空中で樹を抱きかかえる。
「大丈夫!?」
「ちょっとマズいかも……!」
「離れないでね! ちょっと傷口痛むよ!」
脅威が去った状態で百合花がパラシュートを開いた。
上空からホロゥの少ない場所を探し、どうにかその方向に向けて降下していく。
戦闘開始直後に負傷、そしてアサルトも失うという最悪の事態。
着地と同時に一時撤退を余儀なくされる状況に、百合花は悔しさから奥歯を噛みしめた。
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