第155話 次世代のアサルト

 百合花と神子の母で、西園寺家の当主である西園寺清美はこの日、防衛省の本部にやって来ていた。

 自衛隊の幹部が揃って清美を出迎え、そんな彼らにお礼を伝えた清美は廊下を歩いてその奥にある許可を得た者しか乗れないエレベーターに乗り込んだ。

 地下にある施設へと、自衛隊ワルキューレ部隊の中で三奈に続いて偉い女性を引き連れて降りていく。


「そういえば清美様。百合花さんが第四世代としての能力に覚醒したそうで」

「そうなの。ビックリしたわよ」

「第四世代が存在する可能性は以前より噂されていましたが、東京の一件でイズモ機関の秘密部隊が第四世代に該当し、まさか百合花さんもそうなるとは。驚きの連続すぎて脳の処理が追いつきません」

「そうね。でも、これで人類はホロゥに対して有利に立ち回れるかもしれない。少なくとも鎌倉の激戦区はこちら側の勝ちは確実ね」

「世界的にホロゥの出現自体がほとんどありませんけどね」


 笑いながらそんな会話を交わす。

 パンドゥーラ出現以降、世界的に活動を縮小させているホロゥたち。わずかに出てきても初心者でも撃破できる弱い個体のみ。

 人類とホロゥの長い戦いにおける分水嶺を乗り切ったと専門家たちは分析していた。人類の勝利はもう目前と言っても過言ではない。

 ホロゥの生態に関しては謎が多いが、このままいけば根絶も可能ではないかと考える者も少なくない。

 もしそうなった場合、人類は再びの平穏を取り戻すことができるのだ。

 そんな歴史的瞬間がすぐそこまで迫っているかもしれないと思うと、現役世代のワルキューレたちは一層気合いが入っていた。

 彼女たちは日々訓練でベスト記録を更新し続け、本物が出ると戦闘開始から撃破まで一分とかからない。

 世界的にホロゥの撃破時間を競うタイムアタックのようなものが行われている風潮さえあった。

 既に引退したワルキューレたちも復帰の兆しが見えている。

 清美もそのうちの一人で、今日はここに新たなアサルトを受け取りに来たのだ。

 地下施設の部屋に入ると、そこには西園寺家と関わりの深いアサルトメーカーの代表取締役の男性と、自衛隊専属研究員のアイリーンがアタッシュケースを持って待っていた。


「ようこそ清美様! 例のあれ、完成していますよ!」

「アイリーンさんの協力で完成させることができました」


 清美の前でアタッシュケースが開かれた。

 煙と共にアサルトがその姿を見せ、満足そうに頷いた清美がしっかりと柄を握りしめる。

 刀剣のような形状をした比較的細身のアサルト。緋色の刀身が美しい逸品だった。

 随行していた女性が感嘆の声を漏らす。


「それが人工新世代アサルト試作一号機……エクスカリバーですか」

「ええ。旧世代でも新世代変形機構が使用でき、ブレード形態、プラズマ弾射撃形態、防護形態、近接捕食形態で戦うことができる。プラズマ弾丸はホロゥを捕食することでエネルギーが回復されるから弾切れの心配はなく、リリカルパワーによって刀身にプラズマ加熱やプラズマ付与ができ、ホロゥへの殺傷力が高まっている。だったかしら?」

「まさにチート級のアサルト! いやー、こんなすごいの弄れるなんて楽しかったですよ!」

「足りなかった近接捕食機構はイズモ機関のデータに詳しいアイリーンさんにお願いしました。彼ら、主張は過激ですが技術は確かですね」

「そうよね。主張は過激だけど」


 バーストワルキューレに関して、最近は扱いを改善させていると噂には聞く。

 いつまでもいがみ合っている場合ではなく、そろそろ否定から入るのではなく歩み寄ろうとする気持ちも大切なのではないかと清美は反省していた。

 アサルトを受け取り、清美が数回試し振りをした。稼働状況は問題なさそうだ。

 これで清美も現役復帰できる。一昔前は神子や百合花のように数多のホロゥをなぎ倒した実力をいつでも見せてやろうと、アサルトを見つめながら微笑んで――、


「なんですって!?」


 その考えを遮るような大声が部屋に響いた。

 声の主――清美に付いてきていたワルキューレの女性が顔色を青くして通信機に耳を当てている。


「どうしました?」


 アイリーンが詳細を尋ねると、女性は唇を震わせながら振り向いた。

 尋常ではない様子に、清美もアイリーンも視線を鋭くする。


「たった今報告があって……その……四国地方が……と……」


 空気が凍り付いた。時が止まったようだった。

 ありえない、と誰もがすぐに思う。


「冗談ですよね? 松山と鳴門に自衛隊ワルキューレ部隊が合わせて五十人はいたはずです! 淡路島と岡山には学園都市もありますし、高知は危ないかもしれないですけど四国全域がなんてそんなこと……」

「……敵は?」

「それが……バルムンクの変異種と思しき個体を中心に、禁忌指定タイラント種も数多く確認されたそうです。出現からわずか三十分で迎撃部隊は全滅、ホロゥの集団は現在、広島、岡山、淡路島に上陸して戦闘を開始したと……!」


 悪夢のような報告。

 同時に、防衛省内に緊急事態を告げる警報音がけたたましく鳴り響いた。

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