第154話 希望か恐怖か
上層部の人間から命令を受け、城ヶ崎彩花と彩葉は富士山にあるという基地に向かってヘリで移動していた。
窓からは、富士山中腹に作られた鉄扉が開いてヘリの着陸を受け入れようとしている光景が見える。誘導のためのライトが点滅し、それに従ってヘリは降下を開始する。
やがて、ヘリが着地するとエレベーター式になっていたヘリポートが降下してさらに地下深くへと進んでいくことになった。
「富士山のマグマだまりとかどうやって避けて安全に作ったんだろう」
「さぁ? でも、連中ならそれくらい簡単にやってのけそう」
途中で何度か見えるイズモ機関の模様を横目に彩花はぶっきらぼうに答える。
二人を乗せたヘリはさらに地下深くへと進んでいき、そして急に空間が開けた。
富士山地下に作られたイズモ機関の基地などろくなものがないだろうと彩花がため息を吐くと同時に、窓の外を見ていた彩葉が息を呑む。
「お姉ちゃん……あれって……!?」
震えながら彩葉が指さす先を見て、思わず彩花も顔を引きつらせた。
「え……なんで……」
基地中央で建造される巨大兵器。
銀光りする巨体は龍を模しており、体表には無数の機関銃が取り付けられて銃口が全方位に向いている。開かれた口には巨大なビーム兵器が取り付けられており、作業員と思しき者たちが尻尾にドリルの取り付け作業を行っていた。
かつての富士市での戦いを想起させるその兵器は、ドラガンゼイドそっくりの姿をしていた。
あんなものを作るなんてどういうつもりかと彩花が憤っていると、目的地に着いたヘリの扉が開かれた。
ホロゥ由来のエネルギーが暴走を引き起こした可能性が高いとは言え、それでも万が一別の要因で暴走した際の被害規模について分かっているのかと問い詰めるため、彩花がヘリを飛び出す。
と、見知った顔二人が彩花たちの出迎えに来ていたため、彩花も彩葉も揃ってその場で挨拶を行う。
「西園寺隊長! 小暮副隊長も!」
「視察と聞いていましたが、ここだったんですね」
「ええ。現役最高峰のワルキューレの意見を聞きたいって言われたから仕方なくね。でもまさかこんなものを作っているなんて」
「こらこら。……わざわざごめんなさいね。私たちだけじゃなくて、ドラガンゼイドと実際に交戦した貴女たちの話も聞きたいって施設長が言うから」
そこにいたのは、自衛隊のワルキューレ部隊を率いる西園寺神子と小暮三奈の二人だった。
そこからは四人で固まって基地の責任者である施設長の元に移動することになる。
道中、彩葉がずっと気になっていた建造中の兵器について質問のために口を開いた。
「三奈様、あのドラガンゼイドは一体……」
「ドラガンゼイドⅡっていう、そのままの名称らしいわ。対超大型ホロゥ用に開発されている先代の後継機」
「富士市の一件で当時の開発責任者である城島博士は自殺。ドラガンゼイド関連のデータもアストラルコード関連のデータも全部破損して解析不可能だったはずなのに、どっから設計図を持ち出してきたのやらよ」
神子の呆れるような物言いに、彩花と彩葉が押し黙る。
百合ヶ咲学園帰還後に博士の自殺を知った二人は、まだお墓参りができていない。
富士市の件はかなりの犠牲者を出してしまったため、当然世界中から城島博士とイズモ機関を非難する声は飛び出した。それでも、結果的に暴走という最悪の事態を引き起こしてしまったがファーヴニルを撃破できたのは事実なので、二人としては博士を擁護したい気持ちもあるのだ。
複雑な気持ちにはなるが、それは後回しとして彩葉が可能性を口に出す。
「もしかしたらバックアップデータか何かがイズモ機関のメインサーバーにあったとか」
「絶対それよね。愛鷹山のサーバーにあったデータが解析不可能って結論を出したのは国連のチームだし、そこからサルベージしたというのはありえない」
ガラス張りの通路を歩きながら、彩花はドラガンゼイドを見上げる。
「だとしたらこれもまた暴走するんじゃないですかね?」
「聞いた話だと、このドラガンゼイドⅡはアストラルコードを介した操作ではなくバーストワルキューレをコックピットに乗せて操縦するみたいなの。稼働に必要なエネルギーもHLエネルギーじゃなくて電気を使うって」
「それなら安心……?」
「そのコックピットの設計が口に出すのもおぞましい最ッ低な作りだけどね。二人は知らない方がいいよ」
三奈の説明を補足するように神子が嫌悪感を隠そうともせずに口に出す。
神子はイズモ機関反対派の筆頭である西園寺家の人間だ。だからこその意見なのかと思うが、三奈も同じように嫌悪感と怒りの混じる表情をしていたために、やはりろくでもないものなのだと改めて思う。
三奈からタブレットを受け取った神子は動画ファイルを開き、富士市でのドラガンゼイドと百合花たちの戦闘記録映像を再生する。
「私たちは万が一ドラガンゼイドⅡが暴走した場合に備えて、ワルキューレによる破壊マニュアルを作成するために呼ばれたんです。緊急停止プログラムと自爆プログラムは状況別に分けて数百以上組み込んであるらしいけど、予測できない事態に陥った際の手段としてのね」
「こんな危険物を実戦に出せるかってことで、それはもういろんな方面からダメ出ししてあわよくば開発中止にしてやろうと思ったんだけど……」
そこまで言ってから神子が頭を掻いた。三奈も釣られて苦笑する。
「私が口出しするまでもないわよ何なのこの化け物。こんなのワルキューレがどうこうできるわけないでしょ」
「ほんと、今でもこの記録映像が信じられないですよ。ビーム兵器はビルなんて紙細工みたいに破壊するし、全身の機関銃には死角がほぼない」
「ビーム兵器を防いだ彩花ちゃんにもビックリだし、なんでこの弾幕を百合花と樹ちゃんは突破できてるのよ……並のワルキューレなら百回は死んでるわよ」
当時を思いだし、我ながらよく二人を守れたなと彩花も思う。
遠くで見ていた彩葉も、あの時は無我夢中だったが今思い返せば百合花たちは相当人間離れした動きをしていたと思った。
「今からもう一度文句言いに行ってやる。現場ワルキューレに対処できないものを開発なんてバカじゃないのかって」
「それは同意ですお供します」
「だよね! やっぱり彩花ちゃんは話が分かる子だ!」
開発中止を訴えるために結託した神子と彩花。
そんな二人を後ろで眺めていた三奈と彩葉は、顔を見合わせて困ったように微笑んだ。
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