第153話 後輩へのアドバイス
アサルトが床を擦り、激しい火花が散った。
奏と心の二人が姿勢を低くして駆け抜ける。二人とも息ピッタリの走り方で、前後に並ぶことで正面から見たときに数を誤認させるようにしていた。
先頭を走る奏が腕を背中に回して指で合図をすると、一斉に左右へと分かれて攻撃の姿勢に移る。
二人と戦っているラビットホロゥはどちらを狙うべきか迷うように顔を動かし、そして奏に狙いを定めた。
だが、もうその瞬間には二人共がアサルトを構えてスライディングで距離を詰めている。
「今ッ!」
「うん!」
二人のアサルトが同時に形態変化を起こす。
奏も心も第二新世代だ。アサルトの変形機構は自在に使いこなせている。
ラビットの両脇を滑りながら抜けるようにして、すれ違い様に連続で射撃を叩き込む。
ライフルタイプの強力な弾丸がラビットの装甲を削り、足回りを支える重要部分の金属を撃ち抜いた。
姿勢を維持できずに転倒するラビットを見て素早く態勢を戻すと、今度はアサルトの形状を奏は剣、心は鎌に切り替えて飛び上がる。
「貫く!」
「こっちで腕を封じるから奏ちゃんはトドメを!」
先に降下した心が鎌を振るってラビットの両腕を切りつけた。
三日月を描くような凶刃が手首を見事に斬り裂き、頭部への防御を不可能にする。
「やああぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声と共に奏が降下し、痛みで暴れるラビットの首に剣を突き立てた。
ちょうど中心を捉えたことで致命傷となり、ラビットは短い断末魔を残して消滅する。
同時に部屋が明るくなり、訓練終了を告げる音声が聞こえてきた。
「お疲れ様。二人とも、すごく強くなったね」
「ほんと。まっ、まだまだアドバイスするところはあるけどね」
拍手をしながら二人へ近付く百合花と樹が笑いながらそう言った。
まず、百合花が心の横に立って一緒にアサルトへ手を添えると、射撃形態にするように言う。
それに従って心がアサルトを射撃形態にすると、次は実際に射撃してみるようにと言われて的を狙い引き金を引く。
弾丸は真っ直ぐ飛ぶが、反動で心の体がわずかにぶれた。
「心ちゃんの弱点はリコイル制御が甘いところだね。単射式だから連続射撃はあまりしないかもしれないけど、すぐに近接形態に戻そうとすると鎌の先端が地面に引っかかるかもしれないから気をつけて」
「あ、はい!」
これからも頑張るようにとの激励も兼ねて、心の頭を撫でてやる。
百合花に撫でられる様子を羨ましそうに見つめる奏には樹がアドバイスを送るのだ。
「奏ちゃんって実は斬撃が苦手でしょ」
「え……分かるんですか……!?」
「そりゃこれでも御三家のワルキューレですから。斬撃が苦手だから、刺突を好んで使ってるんだね」
「仰るとおりです」
樹の指摘通り、奏は斬撃が苦手だった。
その理由は簡単で、アサルトを振るとつい力を入れすぎて大振りになってしまい、隙を作ってしまう癖がどうしても直せなかったからだ。
だからこそ弱点を一撃で貫く刺突を多用しているのだが、それだと剣型アサルトの戦い方は向いていない。刺突に向いているのはやはり槍型のアサルトだ。
奏の努力の賜物か、刺突はある程度の実力がある。ならば当然教えるのは斬撃だ。
「奏ちゃんの弱点をそのまま攻撃に転換できるよ。あたしがやり方教えてあげる」
「ッ! どうすれば?」
「簡単。奏ちゃんは中途半端に止めようとするからダメなの。だったら最初から大振りで切り込んで止めずに体を回して回転斬りにしちゃえばいい。結構な力業だけど、三半規管とか鍛えておくと割とバカにできない威力になるんだなこれが」
事実、樹もアサルトを片方しか使わないときは同じやり方で多くのホロゥを屠っている。また、双剣を構えているときでも回転斬りはよく使う手法だった。
目を回してしまうという欠点はどうしてもできてしまうが、それをカバーするのが後衛でありワルキューレはチームでホロゥに立ち向かうのだ。
樹のアドバイスを受け、奏はメモを取りながら明日からの訓練をどうするかを考える。
「勉強熱心ね。またすぐに強くなるかな」
「百合花様や樹様に直接指導していただけるんです! お話は全部聞いておかないと!」
目を輝かせる奏と心に教えるのは百合花たちにとっても楽しい。
「っし百合花! あたしらもお手本見せますか!」
「だね。先輩として格好いい所見せてあげましょ」
百合花と樹がアサルトを持ち、離れた場所で奏と心が期待に目を輝かせて見守る。
樹が訓練開始の操作をすると、訓練場中央に朱雀が出現した。
「タイラント種ホロゥ!?」
「百合花様、樹様、まさか……!」
奏たちが驚いた瞬間、百合花がアサルトにリリカルパワーを込めて振った。
斬撃は空中で停止し、足場となったそれを踏み台にして樹が素早く駆け上がっていく。
接近してくる樹を見て朱雀は胸の溶鉱炉を発熱させて口から火炎を放出するが、空中で身をよじって回避した樹が朱雀の頭上から斬撃の嵐を浴びせる。
翼を集中して切り刻み、飛行できなくした。苦悶の声を漏らした朱雀が墜落する。
それを、待ち構えていた百合花がアサルトに全力でリリカルパワーを通して迎え撃つ。
極太のエネルギー刃となった斬撃が朱雀の体を両断し、空中にまで届いた攻撃を蹴って樹が地上へと戻ってくる。
降ってきた樹を百合花がお姫様抱っこで迎えると、その隣で朱雀が塵となって消滅した。
訓練終了の音声が聞こえ、朱雀を瞬殺した二人に奏たちが口を半開きにして驚いている。
「うそ……朱雀がそんな簡単に……」
「あっはは……目指すべき高みは富士山よりも高いなぁ」
憧れの百合花たちの実力を目の当たりにしてますます尊敬の念が強くなる。
いつか、瞬殺とまではいかずとも朱雀くらいは倒せるようになりたいと二人が思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます