第148話 卒業の日
一人一人の名前が読み上げられる。
名前を呼ばれた生徒は立ち上がり、卒業証書を受け取るために壇上へと上がっていく。
今日は、百合ヶ咲学園の卒業式の日だ。
夢や彩花、彩葉やアイリーンたちの晴れ姿を涙ながらに見つめながら、百合花は在校生席で拍手を送っていた。
全員分の名前が呼ばれ、校長がマイクを握る。
「今日この日を迎えられたこと、心より嬉しく思います。今年一年はまさに激動の年で、例年よりも卒業を迎える人数は少なくなってしまいましたが……」
グッと拳が固められる。
「それでも、こんなにも多くの皆さんの巣立ちが見られること、大変嬉しいです。皆さんはこの先、ワルキューレとして戦う者、アサルトメーカーで前線の支援をする者など、それぞれ別の未来が待っているでしょう。しかし、忘れないでください。私も含め、皆さんは強い絆で繋がった仲間なのです! 困ったときは一人で悩まず、お互いを頼って助け合って生きてください! 皆さんの未来に輝かしい光があることを心より願います!」
校長が一礼し、壇上から降りていく。
次に上ってきたのは、迷彩服に身を包んだ荘厳な雰囲気を纏う壮年の男性だ。
一礼し、咳払いをしてマイクに口を寄せる。
「統幕長の宗森です。皆さん、ご卒業おめでとうございます。まず、アサルトメーカーに就職される方々。我々の活動はあなた方なしには行えない。縁の下の力持ち、という言葉があるように、ワルキューレだけじゃなくあなた方も含めてホロゥと戦う勇敢な戦士です。どうかそのことを誇りに思ってください。今後一層の活躍を祈っております!」
男子を中心とした将来の技術職として就職する面々が強く頷いた。
次にワルキューレとして自衛隊に入る面々に視線が向けられる。
「次にワルキューレの方々。貴女方がこれから向かう先は、きっとこれまで以上に危険な……あぁいやここ最近はそうでもありませんが、それでも学校生活以上に危険な場所になるでしょう。しかし、校長先生の言葉にもあったように、この激動の一年を乗り越えた貴女方は、きっと現役のワルキューレにも劣らない練度がある。それに、我々は形式的な上下関係はあれど基本的には肩を並べる戦友です。困ったときには助け合い、日本のために尽力していきましょう! 学んだことを力に変えて、今後の活躍を期待します!」
最後は強く言い切り、頭を下げて壇上から降りていった。
司会の教員が合図を出すと、在校生席の前にマイクが運ばれていく。
在校生代表の挨拶となり、百合花が立ちあがった。
夢の笑顔を見て気持ちが落ち着き、深呼吸をして話し始める。
「卒業される皆様、ご卒業おめでとうございます。皆様には毎回私たちが困ったときに手を差し伸べていただきました。それがどれだけ私たちにとって嬉しかったことか。言葉にするのも難しいほどです。これから先、皆様はそれぞれの進路に進まれると思いますが、そのすべての道に栄えある祝福があることを、この私、ブリュンヒルデ西園寺百合花の名でお祈り申し上げます!」
ネームドワルキューレに旅路を祝福されること。
それがどれほどの栄誉かは、ワルキューレなら誰もが知るところだ。特にそういった事情に詳しい者ほど、涙を流して喜びを表している。
マイクが引っ込められ、卒業生からの言葉として夢が立ちあがる。
「誉れあるブリュンヒルデより送辞の言葉を賜ったこと、私たちにとってこの上ない喜びです。この百合ヶ咲学園で過ごした日々は、辛いことも楽しいこともたくさんあった宝物のような日々でした。ここで学んだこと、得た経験はきっとこれからの私たちの未来に活きてくると思います。どうか、旅立つ私たちのことを応援していてください。そして、在校生の皆さん。これから先は皆さんが百合ヶ咲学園の中心となるのです。未来のワルキューレたちを導くという大役、任せましたよ」
後半は涙で声がかすれていた。
それでも最後までしっかりとなすべきことを成し遂げた姿に、会場の全員から拍手が送られた。
誰もが涙に包まれる。
だが、これは悲しい涙ではない。
ほんの一時のお別れだ。すぐにまた会えると信じているからこそ、辛くはなかった。
マイクが回収されるその直前、夢が強くマイクを握りしめる。
「皆! 私たちは一足先に進んで待っています! あななたちが私たちのところに来るのを……待っていますから!」
誰も止めはしなかった。頷き、号泣の拍手で送られる。
会場を感動の渦に包み、百合ヶ咲学園の卒業式は幕を閉じた。
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