学園都市の戦乙女

第144話 悪夢を撃ち抜け

　百合花の第四世代能力による補助もあり、全員の動きが格段に良くなっている。

　今ならいける、と杏華ともう一人の聖蘭のワルキューレが銃口をパンドゥーラヘ向けた。

　狙うは正面。直撃を狙う。

　杏華の合図で初撃となるフレイヤバレットが撃ち放たれた。

　危険を察知したパンドゥーラが正面にリフレクトシールドを展開する。

　フレイヤバレットはリフレクトシールドに直撃し、激しい火花を散らせながら互いに削り合っている。

　そして、せめぎ合いはパンドゥーラに軍配が上がり、フレイヤバレットは跳ね返されてはるか遠くへと吹き飛び、雷門の残骸を破壊した。

　嘲るように咆哮を発するパンドゥーラだったが、直後に慌てたような仕草を見せてわずかに後退する。

　ここまでは作戦通りで、杏華がしっかりと照準をパンドゥーラに固定していた。

「これでトドメッ！　オーディンバレット、発射！」

　聖蘭が誇る正真正銘最強の一撃が放たれた。

　あらゆるホロゥを刹那の時間で粉々に打ち砕く必滅の一撃が音速を超えてパンドゥーラを襲う。

　即座にリフレクトシールドで弾こうとするが、先ほどの防御の際にかなりのエネルギーを失ったシールドは薄く、脆い。

　当然、オーディンバレットの威力を防ぎきるなど不可能で――、

――オオオォォォォォォォォッ！！

　焦りが混じる咆哮が轟く。

「獲った！　貫けッ！」

「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇーッ！！」」」

　全員の気持ちが一つとなり、弾丸が一層眩く煌めいて。

　そして――、

　ガシャン、という音が響いてパンドゥーラのリフレクトシールドが砕けた。

　勢い余ったオーディンバレットは止まることなくパンドゥーラに突っ込み、内側にめり込んで盛大な爆発を生じさせる。

　爆音に混じり、パンドゥーラの絶叫が轟いた。同時に金属が砕ける甲高い音も聞こえる。

「仕留めた！？」

　樹が前のめりになって状況を確認しようとする。

　それに返答したのは彩葉だった。

『爆炎内部に青白い発光を確認！　ホーミングレーザーの可能性大！』

「全員防御態勢！」

　彩花の掛け声と共にパンドゥーラがレーザー攻撃で反撃を仕掛けてきた。

　集中的に聖蘭のワルキューレを狙っている攻撃により、局所的な爆発が連続して悲鳴が聞こえる。

　ラグナロクチェイン発射後という防御が弱まった状態でのこの攻撃。

　最悪の事態が脳裏にちらつき、百合花たちの呼吸が速くなる。

「杏華！？　大丈夫！？　皆は！？」

　通信機に向かって必死に呼びかけるも、返答がない。

　黒煙が消え、直撃箇所の惨状が目に入る。

　足場は形が残っているのが奇跡なほどで、至る所に破損したアサルトと血痕が飛んでいる。

　血がこびりついた鉄筋などを見ては、視界が急速に狭まっていった。

「うそ……でしょ……」

「まさか、全滅したの……？」

　彩花も樹も震える声で呟く。

　百合花が怒りに燃え、拳を握り固める。

　まさにその時だった。

「けほっ！　こほっ！　連絡網を立つとは小賢しい真似を……！」

　そんな声が聞こえ、全員がその場所を向いた。

　すると、瓦礫を押しのけて綾埜が姿を見せる。

「綾埜さん！」

「聖蘭全員生きてまーす！　ただし、杖は折れて活力もなく、命の雫は漏れ出しこれ以上の力添えは厳しいかと！」

「アサルト損壊、リリカルパワー切れ、負傷者多数ね。全員生きているのなら大丈夫！　即座に離脱を！」

「合点承知！」

　綾埜に続き杏華も無事な姿で這い出てきて、比較的重傷なワルキューレを背負うようにして離脱を始める。

　援護に来た学園都市北見の北風高原女学院のワルキューレたちに後を任せ、百合花たちはスカイツリーに視線を向けた。

　黒煙が消え、パンドゥーラの姿が露わになる。

　全体に亀裂が生じ、体のいたる場所で炎が燻っている。足が震えていることから相当なダメージを受けていることだろう。

　それでもまだ戦闘は続けられるようで、目を光らせながら咆哮を轟かせた。

「まだ動けるか……！」

「なんってタフな……」

「でも、だいぶ効いてるみたいね」

　彩花が笑って指を指す。

　口を開き、例の黒紫の球体を形成しようとするが、ある程度の大きさになったところで光が霧散して球体が消滅した。

　受けたダメージが大きく、核爆撃を伴う攻撃が発動できない。

　そう判断でき、安全性が格段に跳ね上がる。

　百合花がアサルトを凪いだ。

　途端に樹たちにも再び力が満ちていく。

「私たちでトドメを刺す。この長い絶望を終わらせる」

　樹も彩花も、遠くで彩葉も静香も瑞菜も宮子も頷いた。

　これが最後だと自らに発破をかけ、勢いよく飛び込んでいった。