第143話 百合花の覚醒
背中側の発光に注意しつつ、杏華たちの準備が整うのを待つ。
ホーミングレーザーに核爆撃。どちらも受ければひとたまりもない威力がある。
ラグナロクチェインの防衛に余分に人員を割かなくてはならないかとも考え始めた。
しかし、そうすればパンドゥーラからの攻撃はさらに苛烈なものになる。
意識を自分たちに向けつつ、生き残りながら防衛もこなす。
想像を絶する苦難を感じさせるような戦いだった。
「でも、泣き言は言ってられない!」
戦っているのは自分たちだけではない。
パンドゥーラの眼球を押さえ込み、百合花たちが勝つと信じて今も命を張っている香織や咲、他にも多くのワルキューレが後方にいる。
彼女たちに恥じない戦いをしなくてはならないのだ。
――オオオオオオォォォォォォォォッ!
パンドゥーラの咆哮。
その声に影響されたホロゥがより凶暴になり、活性化して瑞菜と宮子に襲いかかる。
二人とも迎撃の速度を上げるのだが、先ほどの火傷が響いて動きが固い。
致命的な状況にはなっていないが、体力が尽きる瞬間が見えてしまったような気がした。
歯噛みする百合花。
と、その前でパンドゥーラが再度口を開き、禍々しい黒の球を形成し始める。
「核攻撃!」
「これ以上撃たせたら東京の放射線濃度が大変なことになる! 倒せたとしても復興が難しくなるかもしれない!」
樹が強く飛び上がった。
両腕に渾身の力を込め、全力で振り抜いて巨大な二つの斬撃を放つ。
チャージ中だった球を斬撃は斬り裂き、パンドゥーラの正面で爆発して球が消滅していった。
「チャージ初期なら第三世代の能力で破壊できる!」
攻撃を中断させられて怒ったパンドゥーラが背中を発光させた。
ホーミングレーザーの第二撃だと判断し、百合花たちは眼下で戦っている皆を守るために急降下した。
なるべく三カ所に固まってもらい、全力でシールドを展開する。
同時にパンドゥーラが吼え、青白い閃光が無数に放たれた。
弧を描くように飛んだレーザーが百合花たちに襲いかかり、連続で爆発する。
不意打ちとは違ったために被害は先ほどより軽微だが、ソラマチの支柱はボロボロだった。また攻撃を受けるとどこかで倒壊の危険があるだろう。
レーザー攻撃を食らわせてなお生きていることを確認したパンドゥーラは、全身に青い光を走らせた。
光の何カ所かは穴が開き、青黒い雲のようなものが噴き出していく。
「待って待って! どんだけ隠し球を持ってるのこいつ!?」
「ガスか……それともまさか!?」
――オオオオオオォォォォォォォォッ!
全身を震わせるような嫌な予感を感じた百合花がアサルトを突き刺し、渾身の力でシールドを張り巡らせる。
全員をカバーしたその瞬間、雲から無数の雨粒のようなビーム攻撃が放たれ、辺り一帯を蹂躙していく。
「これ以上はもう……っ!」
シールドの向きを調整することで足場は確保できているが、周囲の建物が次々塵になっていく。
さらに、パンドゥーラは背中を発光させて――、
「ホーミングレーザーの第三射!」
「ここまでか……!?」
悔しそうに彩花が歯噛みする。
再度の咆哮が轟き、光が強くなって――、
「――あきら、めないッ!」
押されながらも、百合花が大きく目を見開いた。
細胞のすべてから力を振り絞るイメージで息を吐き出して――
……どくんっ。
パンドゥーラの周辺で戦闘している全員に、心臓が脈打ったような感覚があった。
「たあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
渾身の叫びと共にアサルトを振り抜くと、今まで見たことがないような虹色の斬撃が音速で飛んだ。
斬撃はパンドゥーラの背中を斬り裂き、攻撃を中断させてエネルギーの翼を一つ奪い取る。
――オオオオオオォォォォォォォォッ!?
痛みに驚くパンドゥーラは、地面から立ち上るいくつもの光の柱を見た。
柱は空の一点で交わり、その下には百合花が立っている。
「これは……」
当の百合花は何が起きているのか分からないといった様子で自分の手を見つめていた。
しかし、その現象にもしやと心当たりのある宮子が呟く。
「第四世代能力……」
「え?」
「第四世代の能力はまったくの未知の領域です。だから、百合花さんのそれはもしかしたら……!」
沙友理やあやめと同じ、第四世代としての能力覚醒。
この土壇場で奇跡を起こした百合花が、目を閉じて息を整えた。
「皆のリリカルパワーを感じる……いける!」
まるで、全員分の力を足した状態が全員に施されているような状態。
全体的に爆発的な戦力向上が起きていた。
この状態であればパンドゥーラにも通じると思ったその時、運命の瞬間が訪れる。
「ラグナロクチェインどちらの弾丸も準備完了! 合図は任せた百合花!」
杏華からの報告に、口元が緩む。
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