第141話 焔の獅子
事前偵察で最適ルートは既に導き出されている。
行く手を阻むホロゥを蹴散らしながら、百合花たちはソラマチへと急いでいた。
味方の生存率を最大にまで高めるには短期決戦以外あり得ない。雑魚には構っていられなかった。
何体もの大型ホロゥを撃破すると、ようやくスカイツリー駅が見えてくる。
「着いた!」
「ッ! 危ない百合花!」
杏華から警告が飛ばされ、ほとんど反射に近い動きで回避行動を取る。
直後、百合花が立っていた位置にマグマの塊が飛んで来て、道路を融解させてしまった。
警告が遅れていれば、百合花の体は溶けていたことだろうと思う。
「危なかった……ありがとう杏華」
「お礼は後で! 来るよ!」
巨大な影が瓦礫に着地すると同時に火柱が噴き上がった。
警戒を最大に現れた敵を睨み付ける。
煙が晴れ、全身が露わになった。
「バルムンク!?」
「いや、違う! 新型!?」
「樹ちゃんも百合花ちゃんも惜しい。出現報告はこれで二例目だね」
彩花がアサルトの切っ先をバルムンクのようなホロゥに向けながらゆっくりと後ずさる。
「マグス・バルムンク。バルムンクの上位種ってところかな。初日に東京に出たバルムンクの変異種よりは弱いみたいだけど、初出現でロシア軍のワルキューレを四十人は殺してるから気をつけて!」
吠えたマグス・バルムンクは、息を吸い込むと前方に向けて口から火炎放射を行った。
咄嗟に散開して被害ゼロで抑え込む。
「こいつは放電能力じゃなくてマグマや火炎放射能力がある! 戦いたくない相手だけど、一気に決めるよ!」
彩花が先陣を切ってマグス・バルムンクへと突っ込んだ。
彩葉が下がって援護射撃ができるように配置につき、すぐさま静香が彩葉の護衛ができる立ち位置で布陣する。
続いて樹と百合花も駆けだしていく。
「行くよ百合花! 速攻!」
「オッケー! 三分以内に倒す!」
マグス・バルムンクの背中に付いたブースターが火を噴いた。
バルムンクも見せた捕食攻撃の前兆だと察した彩花が射撃で意識を自分へと向けさせる。それと同時に瓦礫の細かな隙間へと滑り込んだ。
大きく吠えたマグス・バルムンクがブースターから極大の火炎を放出し、バルムンクとは比べものにならない速度で突進して彩花を喰らおうとする。
彩花の目論見通りマグス・バルムンクは瓦礫に突進し、けれど止まることなく瓦礫を粉砕して彩花に噛みついた。
まさか突破されるとは思ってもなく、油断していた彩花は左腕を噛まれて振り回される。
「いっ! この!」
アサルトで目を切りつけることでダメージを与え、それによりマグス・バルムンクは彩花を放り捨てた。
樹が彩花を抱きかかえて離脱し、百合花がお返しとばかりに右前足を斬りつけて走り抜けていく。
「大丈夫ですか!?」
「ごめん油断した……バースト来るよ……」
マグス・バルムンクの全身が赤黒く発光し、四肢が膨れ上がった。
周囲の気温が上昇し、火の粉を吹き上げながら咆哮が発せられる。
「ブルーブラスター!」
杏華による超加速荷電粒子砲による攻撃。
それすらもマグス・バルムンクは脚を凪ぐことで弾いてしまう。
「嘘!? あれを!?」
「樹! 最悪の時は止めてね!」
「無茶を言う! でも、お願い!」
杏華の攻撃が失敗すると同時に百合花はリリカルバーストを全力で発動させた。
「アアアァァァァァァァァッ!」
魂からの叫びでアサルトを振るう。
迎撃に出たマグス・バルムンクの脚とぶつかり合い、生じた衝撃波で高架上に止まっていた電車が粉砕された。
タイタンにも打ち勝つ百合花のバースト状態の攻撃。それをマグス・バルムンクは互角で打ち合っている。
決定的な一撃を与えることができないまま、マグス・バルムンクのバーストタイムが終了した。それを見て百合花も体への負担を考慮してバーストを気合いで解除する。
飛び下がったマグス・バルムンクから四発のマグマ玉が放たれ、道路に穴を穿った。
が、これは悪手で着地と同時に地面を彩葉の弾丸が撃ち抜く。
凹凸でバランスを崩したところを樹が地面すれすれを滑るように斬撃を放ち、マグス・バルムンクの巨体を一瞬だけ打ち上げる。
そこに百合花が合わせて全力で空中にまで飛ばし、背後を振り返った。
「トドメよ杏華!」
「ぶっ飛べーッ!!!」
再度放たれた超加速荷電粒子砲がマグス・バルムンクの胴体中央を直撃した。
青い閃光と真っ赤な火花が飛び、苦悶の呻き声が聞こえる。
「撃ち抜けーッ!!」
「「「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」」」
その場の全員で叫ぶ。
そして、ついに閃光がマグス・バルムンクを両断し、市街に響き渡る絶叫を轟かせながらマグス・バルムンクが消滅した。
勝利に安堵するが、まだ終わりではない。これからが本番なのだ。
ソラマチへの道が開け、パンドゥーラが百合花たちを見下ろして咆哮を発する。
――早く来い。
そう言われている気がして、百合花はパンドゥーラを強く睨み付けた。
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