第137話 ゲイルスコグル

 三機のヘリが羽田の滑走路に着陸した。

 横須賀在留で羽田まで移動していたアメリカ軍兵士たちが列を作り、ヘリから降りてくるワルキューレたちを迎える。

 百合花たちも外に出ると、ちょうどヘリの扉が開くところだった。

 と、そこから飛びだしてきたのは――、


「こんにちはジャパン! ハロー東京! 観光だったら良かったんだけどね~」


 ウェーブで流した金髪を揺らし、ほとんど下着のような衣服で現れた巨乳の女性。

 彼女はヘリの外側に付けられていたコンテナのロックを解除して中から巨大なライフル型のアサルトを取り出すと、空に向かってサングラスを放り投げた。

 別のヘリから降りてきたアメリカ軍のワルキューレが上手くサングラスをキャッチし、一方の金髪女性は百合花の姿を見ると満面の笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。


「おっと! 噂には聞いてるよ! あなたが日本が誇るネームドワルキューレ、ブリュンヒルデの西園寺百合花ね!」

「そうです。日本語、お上手なんですね」

「恵理とはよく国際電話で通話してるからね!」


 女性の言葉を聞き、百合花はなるほどと手を打った。

 と、ここで後ろから静香が百合花の服をちょいちょいと引っ張る。


「あの、こちらの方がもしかして……?」

「そうだよ。こちらが……」

「初めまして日本のワルキューレちゃん! 私がサテリナ=ルーズベルト! ゲイルスコグル、のほうが親しみある呼び名かな」

「で、サテリナさんが言ってた恵理っていうのは、九條恵理さんだね。今は負傷で引退したけど、九条家のワルキューレだよ」

「ですでーす! 恵理から百合花の活躍はよく聞かされていますよ! 私でもできなかったバルムンクの討伐を成し遂げるなんて、ほんとすごいです!」


 アメリカ人特有の距離感なのか、初対面からぐいぐいくるサテリナに静香は若干の困惑気味だった。

 しかし、徐々に慣れてくるとぎこちなかった動きも解消され、普通に握手に応じることができている。サテリナもそれが嬉しいようで、静香に対して遠慮もせずに抱きつくようにもなっていた。

 ヘリからは他のアメリカ軍ワルキューレたちが続々と降りてきて、さらには総合参謀本部の副議長まで事前連絡なしに同行していたため、急遽アメリカ大使と在日米軍の上層部に連絡が入る事態にもなっていた。

 バタバタとアメリカ軍関係者たちが慌ただしく動く中、サテリナたちを遠目に見ていた凜風が近付いていく。


阿姨、你还没退休呢まだ引退してなかったんですねおばさん

「ちょ――!?」


 いきなりの挨拶に美麗が目を剥いて驚く。

 静香も宣戦布告とも取れる発言に驚き、アメリカ軍の通訳も眉をひそめた。

 だが、当のサテリナはけろっとした顔で凜風に手を差し出した。


「あ、あなたがフリストの台凜風だよね! 中国のエースだとか!」

「……问候よろしく


 挑発に乗ってこないどころか友好的に接されたことで、凜風も面白くなさそうだった。

 おとなしく握手に応じ、顔を逸らす。

 が、手を離すとサテリナは満面の笑顔を浮かべて――、


「Asian brats aren't big of a deal either」


 今度は英語で返し、アメリカ軍通訳がぷっと吹き出して百合花も静香も頭を抱えた。

 美麗もどうしたものかと本気で悩む素振りを見せており、外務省官僚に至っては国際問題に発展しないかと顔色を悪くして鞄から胃薬を取りだしていた。


现在怎么办今、なんて?」

「知らない方がいいわよ……」

「???」


 トラブルの種を上手く回避した美麗に周りから称賛が送られ、百合花も慌てて話題を切り替える。


「じゃ、じゃあ早速ですけど移動しましょう! 作戦まで近いので!」

「そうね! 案内よろしく百合花!」

我们早点去好早く行くにこしたことはないか

「同胞たちに集合かけてきますね」


 美麗が一旦離れ、凜風もサテリナもそれぞれの軍高官と軽い話のために歩いていく。

 防衛省官僚が車を持ってくる間、静香はずっと百合花の側を離れようとしなかった。


「百合花ちゃん……外国のワルキューレの方々が怖いです……」

「うーん……あの二人が特段仲が悪いだけ……だと思いたいな……」


 二人の間に何があったかは知らないが、仲良くしてほしいというのが百合花の本音だった。このやりとりも軽いじゃれあいで、海外だとこういうのが一般的だと信じたかった。

 そこら辺は、後で詳しいであろう神子に詳しく聞くとして、今は作戦のために早期の打ち合わせが必要だ。

 すぐに車がやって来て、大規模な車列を作り霞ヶ関の基地へと中国、アメリカのワルキューレたちを移送する。

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