第136話 フリスト
樹と別れ、百合花は静香と共に羽田空港へと向かっていた。
ギリギリのところでホロゥによる被害がなかったこの羽田は、民間機の離着陸こそ今はないものの各国の軍用機の臨時離着陸場として活用されている。
既に、アジア諸国やヨーロッパの一部の国からパンドゥーラ戦に向けてのワルキューレは到着しており、彼女たちは現在アサルトの稼働チェックや現場の確認などに出向いていた。
そして、どうして二人が羽田に向かっているかと言えば、それはこれから到着するワルキューレが大物だからだった。
「うぅ……本当に私も一緒でいいんでしょうか?」
「私からお願いしたんだから。でもまさか静香ちゃんが外国語もいけるなんて思わなかったよ」
「英語と韓国語、中国語、ドイツ語、フランス語だけですから。ワルキューレの最新情報を素早く集めるためにはこれくらいできないとって勉強したけど……まさかこんな形で活かす日が来ようとは」
静香が複数言語を理解できると聞き、あまり外国語に慣れない百合花の通訳として同席してもらっている。
二人の前に座る外務相と防衛省の女性官僚二人も静香の能力に驚き、それと同時に緊張を隠せないでいた。
それもそうだろう。これからやって来る予定なのは、ネームドワルキューレのフリストとゲイルスコグルなのだから。
車は空港の敷地内へと入り、駐車場に止まると運転手がドアを開けて百合花たちが降りる補助をしてくれる。
気遣いに感謝の言葉を述べていると、外務省の女性官僚の携帯が鳴って、内容を確認した彼女は空を見上げるような仕草を見せた。
「どうしました?」
「中国側から連絡がありまして。予定より早いですがもう到着すると……あ、あれですね」
指さした方向へと視線を移す。
中国空軍の戦闘機三機に護衛されながら着陸態勢に入っているジェット機。よく見ると、その機体は中国政府が航空会社から政府専用機としてチャーターするものと同型の機体だった。
さすがのVIP待遇だなと思う百合花たちが見ている前で、戦闘機は離脱していきジェット機は無事に着陸する。
「さて、行きましょうか」
百合花の一声で全員が頷いて空港内へ入っていく。
そして、今は機能を止めているゲートの前で姿が見えるのを待っていると、奥の扉が開いて中国軍の男性兵士たちが歩いてくるのが見えた。
その後ろからアサルトを構えた少女たちが続くのが見えて、そして。
「はじめましてこんにちは。もしかして、貴女がブリュンヒルデの西園寺百合花?」
最後尾にいた二人の少女のうち、明るいアッシュグレーに髪を染めたウルフカットの少女が流暢な日本語で話しかけてきた。
まさかこんなにも日本語が上手いとは思っておらず、一瞬だけ驚いたがすぐに百合花が前に出て握手を求めるように手を差し出す。
「そうです。はじめまして中国軍のワルキューレの皆様。私がブリュンヒルデ、西園寺百合花です」
ウルフカットの少女が百合花の手を取り握手を交わす。
「歓迎、感謝します。共に東京に巣くうあの化け物を討ち払うとしましょう」
「ええ。よろしくお願いしますね。フリストの力、お借りします!」
百合花が言うと、ウルフカットの少女はくすくすと笑い出し、彼女の隣を歩いていた少女がふくれ面になる。
「すみません。私、フリストじゃないんです」
「え?」
「フリストはこっちの可愛い彼女ですよ」
ポニーテールの艶やかな黒髪を弄りながら百合花にジト目を向ける少女。小柄な身長と仕草からなんだか愛くるしさを感じる見た目だった。
「
「えっと……」
「彼女がフリスト、
「え!? ごめんなさいっ!」
慌てて頭を下げる百合花に、凜風はふっと薄く笑って百合花の肩を優しく叩いた。
「
「ふざけすぎたと。気にしてないのでそんな頭を下げなくて大丈夫ですよ」
その言葉に安心した百合花が頭を上げて胸をなで下ろす。
そして、落ち着いた頃合いを見計らってウルフカットの少女も会釈をした。
「私の自己紹介がまだでした。私の名前は
「それは、頼りになりますね!」
百合花も静香も凜風と美麗の二人と握手を交わす。
と、そうしていると外務省の女性官僚が携帯を見て送られてきたメールの内容を告げる。
「ゲイルスコグル、到着だそうです」
「
「
「どうしました?」
「ちょーっと不適切発言のため翻訳は控えさせてもらいますね」
「それがいいかもしれませんね……」
内容を理解している静香と外務省の女性官僚が苦笑いで相づちを打った。
百合花が首を傾げていると、遠くから複数のヘリのローター音が聞こえてくる。
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